恋の乱LB

□愛の言の葉(小十郎目線)
1ページ/3ページ

小十郎は書状を書き上げると手にしていた筆を置いた。
ふと、持ち帰った残務に手を付けた時に聞こえていた雨音が止んでいることに気付き、

(雨があがったのか)

顔を文机から上げて視線をすっと障子戸へ流した。
執務が立て込み数日ぶりに屋敷の自室に辿り着いた時に
目にしたのは闇の濃い墨色だったものが、仄明るい瑠璃紺色にとって変わられている。
それは小十郎にとって思いがけない光景だったため、思わず数度、目を瞬いた。

「――もう、夜明けなのか」

ぽつり呟いた声には、疲労の色が滲んでいた。
やるべきことを終えて気が緩んだせいか心身が重くなり、眠気を感じ始めた。
政宗から休むよう諭され、今日の登城を禁じられた際には気遣いは不要だと反論したが、
自身が気付いていなかっただけで、かなり疲弊していたらしいと少し眉を寄せて苦笑した。
仕上げた書状や書類を取りまとめると、
鈍り出した頭で机上の状態を確認し、続けて自分の周囲へ目を向けた。

机や床には書きなぐられた紙片や丸めて捨てられた紙屑が四散し、
巻物や書物が重なり合う状態で乱雑に幾つも広げられている。
そういった物達が小十郎を中心として、ぐるりと取り囲み、
座っている場所から動くのもなかなかという有様になっている。

「……これはまずいな」

眉を下げると苦く言葉を零す。
小十郎が自室に戻った時は、綺麗に片付けられており、
塵ひとつ落ちていない普通の状態だった。
よって、たった一晩で自分が散らかし、この惨状を招いたということは明白だった。
何かに集中すると気を使わなくなり、
苦手である片付けまで手が回らなって部屋を散らかす悪癖は、
城内では立場というものもあるため、それなりに取り繕って周囲に知れないようにいる。
一方、屋敷では他の家臣の目も無いことから全く気にしないので、
気付けば部屋が荒れているというのはよくあることだった。
小十郎の中では「部屋が散らかっていたところで困りはしない」と
片付けの優先順位が低いため、いくら美弥に注意、指導されても、改善の余地が見えなかった。
「片付けなんてどうでもいい」という本音は、美弥に知られるわけにいかない本心の一つだったりする。

少しだけでも片付けて部屋を見られるようにしないと美弥の機嫌を損ねると働かなくなった頭でも解ってはいたが、
急激に増してくる眠気の方が勝り、小十郎は片付けることを放棄した。

腰を上げると器用に床に散らばる物を避けて褥に潜り込み、
どうやって美弥の機嫌をとろうかと思いながら意識を手放した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ