恋の乱LB

□片倉小十郎の憂鬱〜実家編〜
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ネタバレ注意!
2015年10月のイベント「妖し殿の秘めごと」の小十郎様の話を元にしています。
小菊ちゃんは、片倉家を長年見守っている座敷童子で、片倉家の人間にしか見えません。







実家に呼び出された小十郎は、席を外した姉が戻るのを部屋で待っていた。

「ちょっと、美弥はどうしたのよっ」

いつも傍らにいる姿が見えないことを幼い頃より聞き慣れた高い少女の声に咎められる。
片目を眇め、あからさまに嫌そうな顔を声のした方へ向けると
小菊が小十郎に人差し指を突き付けて仁王立ちしていた。

「人を指差すな」

気安さから、ささくれだった感情のまま、昔のぞんざいな口調で言い返してしまう。
その言い方が気に食わなかったのだろう、少女はぷぅと頬を膨らませた。

「その言い方は、なによっ!」

赤く怒りで染まった幼い顔をふんっと鼻であしらうと視線を元に戻す。

(――俺も大人気ないな……)

密かに内心で溜め息を吐く。
成実に小菊が見えていたら、今の光景は暫くの間、
絶好の揶揄(からか)いのネタにされるのは確実だろう。

見た目こそ少女の形(なり)をしているが、齢百年を越す片倉家の守護神たる座敷童子。
『物心付いた頃から知る相手』ということで、
つい素で応じてしまい、落ち着く前の柄の悪い口調や態度が出てしまう。

「小十郎ってば、ちゃんと質問に答えなさいよっ」

きゃんきゃんと仔犬のように騒ぐ小菊を無視することに決め込み、
つんと顔を明後日の方向へ向ける。

「なんなのよ、その態度はっ」
「はいはい、そのくらいにしてあげてね」

姉のどこか愉しげな声が小菊との間に割り込んだ。
小菊がどういうことか問う顔で喜多を見上げるのが視界の端に引っかかる。

「政宗様に美弥ちゃんを取られて拗ねているだけなのよねー、小十郎は」
「えぇっ?!そうなの?大人気ないわね、小十郎ったら」
「本当にそうよね。
 こんな子を『可愛い』なんて言うのは美弥ちゃんくらいだわ。
 うじうじ拗ねて、まぁ、情けない」
「小十郎って、大人ぶってるけど実際は狭量で心狭いわよねぇ」

「そもそも誰のせいだっ、誰のっ。それなのにそんな言い種っ……っつ」

バシッと容赦なく全力で腕を振り抜いた姉の平手が頭を襲う。

「全く、見っともない。そんな子に育てた覚えはないわよ」

ぎっと姉に強く睨み付けられ、
叩かれたズキズキと鈍く痛む頭を押さえて、口をへの字に引き結びながら眉尻を下げる。

(……一人で帰ると碌な目に合わないから、帰りたくないんだ……)

政宗の付き人として視察に同行している愛しい美弥の顔を胸に思い浮かべると深く苦々しい溜め息を吐いた。



――数日後。

「あの……小十郎様?」

視察から戻った美弥を腕の中に閉じ込めて離さない、いじけた小十郎の姿があった。




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