ものがたり
□お狐様とお月様
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「死んだぞ!」
「殺されたぞ!」
「おぉ、口惜しや!」
「かような人ごときに焼き払われた!」
「これなるは陰陽師か!」
「陰陽師だ!」
「陰陽師を殺そう!」
「殺そう!」
人の話なんて訊いちゃあいない。
また勝手なことばかり吠え連ねる狐たちがぎろりと僕たちを睨み、そしてそれまでの憤りは掻き消えたようにぬるりと言葉を吐き出す。
「長は生憎出せぬのだ。」
「あぁ、出せぬのだ。」
「なぜ出せぬのだ?このめでたき日にまさか不在ということもあるまいよ。」
「兎に角出せぬのだ。」
「あぁ出せぬ。」
再びじりじりと間合いを詰める狐たちは、譫言のように繰り返して。
思案する主様。
そして、
「…ほう、なるほど。嫁ぐのはお前たちの長というわけか。」
これはこれは、と緩く笑った主様。
「雌が長とは珍しきこと。しかし話くらいは出来よう。物忌みの最中でもあるまい。」
そう申しつつ、狐たちに構うことなく一歩踏み出した主様に僕も慌てて続く。
「縛せ、おんきりきり!――馬鹿な真似をしようなどと思わぬことだ。」
瞬時に呪によって縛された狐たちから苦々しい呻き声が漏れ出す。
なんだかんだ申しながら、この捕縛の呪が生易しいものだということに僕は気付いておった。
「さて、長とやら。この中に居るのであろう?御簾を上げよ。」
車に向かいそう声を掛けたものの、御簾が上がるどころか中からはうんともすんとも聞こえてはこない。
「…主様?」
「仲間が焼き払われたと申すに知らぬ存ぜぬか、いい度胸だ…」
苛立ちに任せ、御簾に手を掛けた主様は勢い良くそれを持ち上げる。
すると、
「…………?」
「なッ……?」
布団だろうか、ふわふわと柔らかそうな布団がぎっしり詰め込まれておる。
「…フィーネ、」
「…あ、はい…」
一つ取り出し、二つ取り出し。
次から次へとまぁ出るわ出るわ布団の山。
次第に獣の匂いがし始め、やっぱりこの中に居るのだと確信してしばらく。
漸く現れたのは…
「――!――ッ…!」
見るも珍しき、頑丈に簀巻きにされた一匹の女狐であった。
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