ものがたり

□お狐様とお月様
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口一杯に布を押し込まれ、鼻先と前後の脚を紐で縛り上げられ更に簀巻きにされた一匹の女狐さん。

可哀想に、なにもこんなにすることないのに。

と、不意に悲しくなった僕は彼女を抱きかかえ、まずは鼻先の戒めを解いてあげた。





「こんなに食い込む程強く縛り上げられて…痛かったでしょう、可哀想に…」

「フィーネ、気を付けろ。」

「大丈夫ですよ。ね、お狐様。」





抱きかかえた時はくねくねと暴れたものの、紐を解くとわかってからは大人しくしてくれておった。

見ればくりくりと大きくつぶらなつり目がいと愛らしく、余程痛かったのであろうその眼がうるうると涙を蓄えておったものだから。

一度だけ、べろりと舐め取った。

お狐様の涙はどうやら甘いらしい。





「すごい固結びだな…引きちぎっちゃえ…!」





えい!

ぶちん、と音を立てて千切れた紐が地面に落ちる。





「さぁ、もう大丈夫ですよ。うわぁ、可愛いなぁ…!」





前後の脚は爪で斬り裂ける程度のものであったので、彼女の戒めは程なくして解かれた。

…わけなのだけど。





「…おい、」

「……はッ!!?」





これも悲しき獣の性。

こともあろうにこれから嫁入りのお狐様をべろべろと舐め回していたことに、主様に咎められて初めて気が付いた。





「ごっ、ごめんなさい!!今からお嫁に行くというのに…!」

「く、喰われるかと思った…!」





いつの間にやらふるふると震えておったお狐様は僕の涎塗れでなんとも可哀想だ。





「そんなことより…そなたがこの群れの長か?」





しょんぼりと反省をしている所に、彼女の目線に合わせて屈んだ主様の声。





「長?っていうか…一番長生きしてるだけっていうか…、そもそもコレどういう状況です?何なの?全く理解出来ないんですけど。」

「奇遇だな、俺もお前のその待遇が理解不能だ。だがそうだな、こちらのことは説明してやろう、話にならんからな…」





事の経緯を話し始めた主様に、うんうんと静かに聞いていたお狐様。

徐々に険しくなる表情に、ついには。





「も…申し訳ない…誠、申し訳ない…」





管があったら入りたいなどと、萎れきった耳を更に前脚で押さえうなだれる彼女。





「先に害を為そうと思えば出来たものを、ただ眺めるだけに至ったはずがかような無礼を働き誠、申し訳ありませぬ……!」






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