ものがたり
□しのぶれど
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「ねぇねぇフィーネ君、」
「はい、」
翌日、珍しくフィーネ君はお留守番をしておった。
主様は乙護法様とお仕事に出掛けたそうで。
「“女”は“不浄”なんだってさ。」
「…はい?」
獣二匹が濡れ縁で日向ぼっこ。
フィーネ君の尻尾にもふもふして、抱き付きながらさ。
あぁ、今日は暖かい。
近頃冬も憚らずはっきりと足音を立ててこちらに走ってくるものだから。
こんな日は日向ぼっこに限る。
ここは数少ない私のような物の怪が気兼ねなく寛げる名所でもあるわけで。
「女人が不浄…?はて、何故かような話を?」
流石フィーネ君だ。
いつも唐突になってしまう私の話に頭から結論を押し付ける人は多い。
色々考えた中で所々声に出してしまうから、なのだけど、フィーネ君はそういったことをせず“どうしてそうなったのか”を根気良く待ってくれる子だった。
とっても優しくてよい子なのだ。
「うん、あのね、」
「はい。」
「烏枢沙摩明王って知ってる?」
「えぇ、存じておりますよ。」
「不浄を炎にて焼き払う明王なんだって。」
「はい。」
「それでね、」
「えぇ。」
「厠から往き来する不浄を焼き払うこともあるのだけど…」
「はい。」
「………なんて説明したらいいかわからないや。」
「ふふふ、そのようなこともありましょう。」
「えっとね、なんていうかね、」
「はい。」
「“変成男子法”ってのはさ、つまりさ、」
「はい。」
「所で“姑獲鳥”は知ってる?」
「…はい、存じておりますよ。下半身が血塗れで橋に立ち、念仏を唱える間赤子を抱いていてくれというあの方でございましょう?」
「そう。」
「しかし奇遇ですね。本日主様が向かった御家のご当主様も姑獲鳥に会い、赤子を抱いたのだとか。いや力自慢の方なのであの方らしいなぁ。」
「そうなの?」
「そうなのです。何処の何方かは申せませぬが。」
「あぁうん、それはいいよ。いいんだけどさ…」
「あ、話の腰を折りまして申し訳ありません。それで…?」
「うん、その姑獲鳥の下半身血塗れということが、女は不浄という世の中の見解の代表になっておるのではなかろうかと。」
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