ものがたり

□垣間見
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「主様主様!本日は何ぞお使いなど御座いませぬか?」

「無い。」



この男、まず申し上げておかねばならぬことが幾つか。

一つは大変色男であること。

身の丈もさることながら教養においても、陰陽師でありながら武道にも秀で更に周囲からの信頼もなかなかに厚い。

二つ目はそんな男の周りには不思議な程女が寄り付かない――いや、文を出せば直ぐにでも、もっと申せば拙き噂でさえ当人の耳に入ればその夜は身を懸命にこれでもかと清めた女が寝ずに待ち続ける程なのだが、一向にそのような浮いた話が無い、ということ。

そして三つ目。

その男は、決して男色の気は無いのだが大層“女嫌い”であるそうな。



「ん〜もう!こんなに誠心誠意お慕い申し上げておるというのにっ!狐の面子丸潰れではありませぬか!」

「そうかそれは愉快だ。ざまを見ろ。」

「愉快ですか主様!?」

「愉快ではあるが毎度毎度俺はお前の主ではないと申しておるだろう。特に、“化けるしか能の無い”“オツムが弱くて”“押しが強すぎる牝”は好かん。」

「つまり、どういうことですか?」

「お前が嫌いだと申しておるのだ。鬱陶しい。喧しい。どこから湧いて出るんだ。気持ち悪い。化け物め。」

「化け物は仕方なかろうもん!」

「五月蝿い喧しい口を閉じろ。そして帰れ。」

「あーあ、つまんなーい。そんなに言うなら御札でも貼っときゃいいんですよ。“ぺぺ”って。」

「紙と墨と俺が勿体ない。」

「あー非道い!私は紙と墨以下ということですか!?あ、でもでももしかしてもしかして…そんなこと仰いながら実は私のことを密かに待ちわびていらっしゃるのでは――」

「減らず口もいい加減に――」

「あーッ!!主様僕をお遣いに出しておきながら咲ちゃんと何を!!」



咲――狐の一族で、都に住まう物の怪だ。

この咲という物の怪は何故だかこの女嫌いの色男を大変気に入っておるようで、こうして“押し掛け女房”ならぬ“押し掛け式神”として日々何かしら用事は無いかと出向いておる。

確かに札を貼ってしまえば良いのだが、面倒なことにこの咲をフィーネが一目惚れしてしまったものだから按配が悪い。

貼りたいのは山々であるのだが、フィーネを思えばこそ二の足を踏んでしまい今に至るのだ。

そしてこんな時は大体このような結末を迎える。


「喧しいッ!!仕事の邪魔をするなら煮て喰っちまうぞッ!!」






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