ものがたり

□夢芝居
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「今宵は風が温かいね、フィーネ君。」

「わふわふ…はい…!」

「お星様も綺羅綺羅だし、」

「えぇ…」

「お庭も良い匂い。」

「すんすん…はぁ…はい…」

「…………」

「………っ、ぷし!まふまふ…」





また珍妙なるくしゃみ。

隣を振り見れば、フィーネ君が左前脚で鼻先をしょいしょいと擦っておる。

くしゃみに潤んだ赤き眼が私を捉え、そして何時もと同じく蕩けるようにはにかんだ。



顔を見合わせ、微笑み合う。

なんと和やかな宵であることよ。





「――あ、雀!」





ふっ、と、視線を逸らしたフィーネ君。

無邪気に雀を追い掛け、庭をぴょんこぴょんこ跳ね回るその姿もまたをかし、というやつだ。

跳ね回るフィーネ君を眺めつつ、私は濡れ縁へ座して。

灯りを点しに屋敷を回る乙護法様も、フィーネ君の姿にははっと笑っておられた。



そういえば、そろそろ主様がこちらにて晩酌の刻限。

主様もご覧になったらさぞ穏やかな笑みを浮かべるのであろうなぁ、などと考えておりましたよ。

えぇ。

そして、板張りの回廊を歩む主様の足音と共に薫ってきた酒の匂い。

湿り気を帯びた温い風がさぁ――と通り抜けて。





「――何を遊んでおるのだ、フィーネは。」





さぁさぁ、待ちに待った主様のおなり!










と、思うじゃないですか、普通。










いや確かに主様ではあったのだけど、無防備な私には月まで飛び上がりそうな程の驚きでございました。



なんと!

主様が幼くなっておられる…!





「………ぬ、」

「なんだ、狐につままれた行き遅れのような顔をして。」

「ぬっ…し、…主様…」

「………はぁ…」





溜め息をつくお姿もなんとも麗しくあらせられる!

年の頃はいかばかりか…

十か…いやもう少し上かな…?

フィーネ君より上であることは確か。

って、そうではなくてッ!!





「主様、そ、そのお姿は一体…!!?」

「姿?」

「随分と愛らしいお姿に…――もしやあのお方が呪により何かしら悪い事を…!!」

「先ほどからわけのわからぬ…何時もと変わりないが。…少し寄れ。今宵は――」

「ルーーーーーーーーーーーークッ!!」

「――…、まったくどいつもこいつも喧しい…」





顰めっ面で立ち上がる主様…はこの際さて置き、ま、まさか――






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