ものがたり
□酒と妖かし、男と女
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“一つ、女の話でもしてみよう”
そう切り出したのは件さんであった。
「俺の所に居るあの二匹の狐。ありゃあ普段はしおらしくしておるが、そりゃあもう気の強い女共でな。」
「“気が強い”で済ませられるそなたも大概ですな。」
土御門のお屋敷、毎度お馴染み濡れ縁にて。
今宵は暇を持て余し留守を飛脚狐さんたちに任せた件さんと五位鷺さん、道中たまたま見つかりお二人に拐かされた獏さんがいらしておった。
「ほう、あの狐共が。」
「確かに、片方はなかなかに性格のキツそうな面立ちをしてやがるぜ。」
そして。
今宵初めてお目に掛かった白蛇さんと。
いつぞや、件さんの庵で偶然お会いした猩々さんもいらしておる。
後々になって知ったことであるのだけど、こちらの猩々さんは、かの楽士様方が酒呑童子討伐の折に道中出会うた方と同じとか。
何やら討伐の件は茨木童子といい猩々さんといい…色々ときな臭くはある、と、今更ながら思うわけで。
まぁ、それは今更だしどうでもよいか。
所詮終わってしまったこと故。
「なぁ件、狐で女のこの方も居るのだぞ。少しは遠慮というものを…」
「獏よ、お前俺にそんな口を利いて良いのか?俺の名を騙って何やら楽しげなることになっておったそうじゃあねぇか…」
「…ふふふ、」
「なればこうして拐かされたとて文句も言わずついてきたであろうが…」
「ま、わかってりゃ良いんだ。」
フィーネ君は先代様の所へ呼ばれており、本日は不在。
乙護法様はカルマ殿のお屋敷へ。
なんでもカルマ殿は仏門に興味がおありなのだとか。
それで、何やら含みのある言い回しに挟まれた五位鷺さんが笑う。
「それから?女が如何致したと?」
この方々を眺めておるだけでも面白きことなれど、猩々さんが話を本題へ戻しつつ獏さんへ助け舟を出して。
「やはり逸品であるな。」
「流石、“八塩折の酒”。震えるほどに美味なるぞ。」
「八岐蛇め。独り占めなどするからあのような目に…」
「ざまを見ろと目の前で小躍りしつつ申してやりたい所だ。いやしかし、誠に、」
「「美味い。」」
…こちらはこちらで、今宵白蛇さんが持ち寄った天下の逸品“八塩折の酒”で盛り上がっておられるし…
女の話、酒の話。
二手に別れたこの方々に咲も苦笑いで御座いますれば。
「そういやぁ、八岐蛇も女を寄越せと申しておったのであろう?」
「あぁ、櫛稲田姫だったか。」
「雄は牝無くして生きられぬのであろうよ。それで、女の話と申すのはな…」
くっと一口煽った件さん、曰わく。
「リゾルート殿の“その手の話”、俺は今まで訊いたことが無かった故…」
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