榛色の瞳

□榛色の瞳 13
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沙羅に逢う時の己を慣用句に当て嵌めるならば、水を得た魚、が妥当だろう。

彼女に逢うだけで執務により殺伐とした砂漠の様な心は潤され、喜びに溢れていたのだから。









本日、未だ日が高いが強く吹く風に砂が巻きげられ太陽の光が疎らにしか届かない砂隠れの里のある病院。

その病院の院長を勤める佐津間が病院を空けている今、見張りをサスケに託し内密に接触していた鋳藻瓦と落ち合い、彼の妻である女性をサクラに治療させれば瞬く間に回復し、彼女は意識を取り戻した。


「…病状は其処まで悪くありませんでした。…唯、意識が戻らないように毒を定期的に静脈から射たれていたようです。」


治療を終えたサクラがそう口にすれば、意識を取り戻した妻を抱き締めていた鋳藻瓦は目を見開いた後、済まない、と妻の肩口に顔を埋めたままくぐもった涙声で幾度となく呟く。

鋳藻瓦は優秀な人材だ。彼を自らの手元に残す為に佐津間が彼の妻に毒を盛ったであろう事は明白。

その事実が我愛羅のみならず、その場に居たサクラとカンクロウにまで眉間に皺を刻ませる。


鋳藻瓦の妻の容体が安定するのを待ち、サクラに彼女を安全な場所まで送った後はサスケと共に木の葉に戻る様伝え、その場に残った三人は次のミッションに駒を進めた。


「…で?俺達は地下室で佐津間の秘密とやらを暴けばいいんだな?」

確認する様にカンクロウが鋳藻瓦に話しかければ鋳藻瓦が言葉を紡ぎ説明する。

「…はい。以前、クーデターの主犯に祭り上げられた男が地下室に佐津間の秘密があると言い残しております。…その男が地下室を見た時、瀕死になるまで苦しめられ、口外するなと脅された事を踏まえれば、佐津間の追い詰められる材料が其処にある筈です。…だがまずは管制塔を制圧してほしいのです。そろそろ幻術が解けそうですから。」


「…分かった。俺が行くじゃん。」


鋳藻瓦の言葉にそう口にしたカンクロウはその場から姿を消す。そして鋳藻瓦は沈黙が訪れを拒否するかの様に口を開く。

「…五代目様、本当に貴方には感謝しています。妻の事も、お嬢様の事も、貴方になら任せられます。…この件が済み次第、この身は如何様になっても構いません。…直ぐに罪を償います故、当主に加担した他の一族の者には是非とも寛大な処置をお願い致します。」

妻を人質に取られていたとはいえ、佐津間の悪事に手を貸していたのは事実。その事実が鋳藻瓦に頭を下げさせ、また我愛羅に赦しを乞わせているのだ。


「…頭を上げよ、鋳藻瓦。…お前にはこの件が片付いてもしてもらわねばならん事がある。話はそれからだ。…これからはお前のその力、里の為に使え。そして今は佐津間を暴く為に尽力しろ。」

「…仰せのままに。」


我愛羅の言葉にそう溢した鋳藻瓦は我愛羅を隠し部屋へ案内する為に頭を上げた。



然程間を待たずして、管制塔にいた職員は鋳藻瓦の幻術により無抵抗であった為、要請した暗部に引き渡し思いの外早く片付いたとカンクロウからミッションの為に装着していた無線機に連絡が入る。

「…って事で管制室は既に此方の手の内。制圧は完了した。此れでいつでもオーケーじゃん。」

「…分かった。では此れより次のミッションに移行する。」

カンクロウからの合図を皮切りに地面を蹴る。そして病院内の隠し部屋まで一気に進み、隠し部屋を鋳藻瓦が鍵で開けた先、鋳藻瓦の指示通り取手を回す。

そうすれば榛一族でしか見られない模様が浮き上がるらしく、隣に控えていた鋳藻瓦が其れを謎る。一連の動作を行えば更なる隠し部屋の扉が姿を現した。


「…鋳藻瓦、お前は外に出ていろ。佐津間が来た際、呪印でお前の動きを封じられれば厄介だ。」


「…分かりました。肝心な所でお役に立てず申し訳ありません。」


「…いや、此処まで来れたのはお前の協力があってこそだ。…礼を言う。」

そう口にした我愛羅に此方こそありがとうございます、と返答した鋳藻瓦が、よく感謝を口にする沙羅の姿を連想させ、僅かに我愛羅の表情を緩ませる。
鋳藻瓦が外に出たのを確認した我愛羅は緩んだ表情を引き締め、地下室の扉を開け足を踏み入れた。


扉を開ければ石造りの階段が我愛羅を出迎える。

辺りは暗いが、階段を下りた先に小さく灯りが洩れているのが目視出来、其の階段を下り、灯りの方へ足を進めた。

その踏み入れた地下室内部で一際目立っているのは、幾重にも機械のコードが重なり電子機器に繋がっている大きな筒状の硝子ケース。
その中には僅かに白濁したやや透明の液体があり、その中には長い髪の毛の女性。その身体に何本かのチューブが刺さっている。

我愛羅はその人物が遠目からでも自分のよく知る彼女に酷似した雰囲気を醸し出していた為、注意深く顔を覗く。その人物は―


「…沙羅!?」


一瞬彼女かと思い驚く。
だが沙羅ではない。

よく似ているが黒子の位置など細部が異なっている。



(…これは、一体何だ?)



辺りを見渡せば、実験台の脇にある金庫を発見し、おそらくこの中に答があると予測した我愛羅は鍵穴に砂を入れ砂で金庫の鍵を外す。

鍵を外す等、砂を使えば造作もない。



金庫の中身には幾つかの物が隠されており、其の中から背表紙に年月日が記載された日記と思われる手帳を手に取った我愛羅は内容を確認する為、手帳を開いた。



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