榛色の瞳

□榛色の瞳 5
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朝食後、世愛羅をサクラの両親の元まで送りとどけ(サラダの面倒をみるついでだからと言ってくださり申し訳ないが見てもらっている。)沙羅が足を踏み入れたのは木の葉隠れの里の病院。
その一角の研究室で日々、新薬開発に精を出している。
彼女の口寄せした仙花樹を用いた薬は直ぐに効果をみせた。
病や治癒、特に解毒に関しては秘境の植物である為自然エネルギーが働き、致死量の毒に侵されていても立ちどころに回復する。
これも綱手様を始めとしたシズネさんやサクラ等、優れた医療忍者がいて初めて成せた業。
砂隠れの里に居たままではまず成し得なかっただろう。

木の葉の里に来た当初は身重の身であった為、始めこそ苦労したが、綱手様やシズネさんに支えてもらい、出産してからは里へ帰ってきたサクラも開発に合流し新薬が次々と作製される事になった。
忙しいが充実した仕事を行える事に喜びを感じている。



午前11時。沙羅が研究室で開発に没頭中、研究室の扉がノックされた。「はい」と返事をするとサクラが顔を覗かせる。

「診察お疲れ様、サクラ。」
「ありがとう。沙羅」
サクラは優れた医療忍者であり、その為病院での仕事は医療がメインである。したがって研究室に訪れるのは午前か午後のどちらかになるのがお決まりのパターンだ。

「今度の新薬はどう?」
「それが、今回のは仙花樹の比率が多いから副作用が著しいの。効果を考えて3パターンの配合をマウスで試したけど、完治する前に葉っぱの隈取りが出たり、一部が植物に変化したりしたらしいの。だから配合の比率を変えた3パターンでもう一度試してみるつもり。はい。これその資料。」

受け取ったサクラは資料に暫く目を通す。

「…うん!確かにこっちの薬草でのパターンは考えてなかったから試す価値はあると思う!……てか沙羅、仕事早いわね。」

「皆が助けてくれるからこそだよ。」
「もう、沙羅は。それじゃそろそろいい時間だし、食堂に行きましょう!」
「…うん!」


サクラとは同年代という事もあり非常に仲良くさせてもらっている。唯、少し問題があるのだ。





「…はぁー。どうして沙羅の旦那は沙羅遺して死んじゃったんだろうね…。沙羅、再婚とか考えないの?」

「…そうだね。でも、再婚とかは考えられないよ。任務中だし、世愛羅がいればそれだけでいいの。」


そうなのだ。
優しいサクラは再婚を勧めてくるのだ。
最初は冗談だと思っていたが前に写真を持って来られた時は本当に驚いた。
確かに最近他里間での結婚も認められてきているが、結婚するつもりは毛頭ない。
それに再婚といっても我愛羅と結婚していないし況してや亡くなってもいない。
世愛羅の事を聞かれて鋳藻瓦の設定通りのシナリオで通しているため、この話題を振られる度、良心が痛むのだ。

「勿体無いよ。若くて綺麗で仕事も出来て、側にいれば落ち着ける目を持つ女性なんてそうそう居ないと思うわよ。」

確かに前半は当てはまらないが、この瞳を持つものは少ないだろう。
榛色の瞳。
榛一族の殆どの女性に現れるこの瞳は、数秒他種族の者がチャクラを込めた榛色の目を合わせると、どんなに興奮した相手でも冷静になり精神に安寧を齎すのだ。
養父が一族の幼女を引き取るのは、縁談を組めばこの瞳のお陰で大体の縁談は纏まるからだ。
最初、サクラが生まれたばかりのサラダの事で気が動転してしまった時、思わず瞳を見つめてしまったのだ。
その時、根掘り葉掘り聞かれつい答えてしまった。

「…ごめん。その瞳、旦那さんとの思い出があるんだっけ…。」

そうなのだ。あの時、我愛羅との思い出の事も少し話してしまった。






四年前、研究室―。

「…どうしよう!もうすぐ診察なのにサラダが泣き止まないー!」

何故サラダが此処にいるかというと何時もならばサクラの両親がサラダを預かってくれるのだが本日は結婚記念日の為、二人揃って出掛けてしまったのだ。

「サクラ落ち着いて。サクラまで慌てたらサラダが余計に泣いちゃう。」

「そうだよね、どうしよう〜!」

このままではサクラまで泣いてしまいそうだ。


「…サクラ。私の目を見て。後、サラダとも目を合わせるから…。」

そして二人とも沙羅の目を見て落ち着いたのである。

「…すごい沙羅!どうやったの!?」

そう聞かれ、二人が落ち着いてくれた事で安堵した沙羅は気が緩み、一族の体質の事などを話した。

「…へぇー!便利なのねその瞳!どんな人でもすぐ落ち着けるじゃない。」

「そうなの、彼も正規部隊の時、どうしても落ち着かない時があって、目を合わせたら落ち着いて、「ありがとう沙羅」って言って笑ってくれたの。それがとっても嬉しかったの…あ、ごめんこんな話して…。」

まずい、サクラと我愛羅は面識がある。
そう思い至り慌てて話を終息させる。


「…ううん。私の方こそごめんね!診察行ってくるね。」





あの時はサクラも気を遣ってくれ、事なきを得たが、あまりに思い出を話すと我愛羅と面識があるサクラは父親の正体に気付いてしまうかもしれない。
サクラは亡くなった旦那との思い出だと思ってくれてはいるが、油断は禁物だ。

「…うん。でも大丈夫だよ。」

「…あ、そうだ、この前テマリさんと会ったんだけどね…同じ砂隠れの里から来てるでしょ?テマリさん沙羅と会ってみたいって言ってるんだけど、会ってみない?」

そうなのだ、もうひとつの問題がこれだ。テマリは我愛羅の姉だ。二人はママ友同士付き合いがある。

テマリが世愛羅と会えば、我愛羅の幼い時と似ているなんて言われかねない。
幼い時を知らない自分でさえ世愛羅は我愛羅に似ていると思うし、サクラ達には「風の国の人は人口の四割は赤毛なの。」「父がこの子と同じ瞳の色で…隔世遺伝かな〜?」等言っているが、流石に兄弟であるテマリの目は誤魔化せないだろう。

それに同じ年の子供を持つ母親同士、話題はどうしても子供の話になる事は目にみえている。
だからテマリには申し訳ないと思っているが会うことは避けたかった。


「…ごめんね。やっぱり砂の人と会うのは里を思い出しちゃって辛くなっちゃうの。」

「…ううん!こっちこそごめんね。…あ、後ね、この間さー…」

サクラには本当に申し訳ないが、断るしかなかった。そして直ぐに話題を換えてくれるサクラは本当に優しい人だと思う。


サクラとこうして話す時間は、困る事もあるが、忍の第一線から退き血生臭い任務から外れた沙羅にとって数少ない息抜きの一つであった。

佐津間の元にいた時からは考えられない程、心身が穏やかでいられる。

優しい人達に囲まれて穏やかに過ごす事が幸せだと感じた。

だが、何かが足りないと沙羅は思う。

その正体を彼女は知っているが、その思いは成就する事も、口外する事も出来ない。
だからその思いに蓋をし、自分に暗示する。

今のままで幸せ、だと。




だって、叶う筈がない。




もう一度、我愛羅の傍に行きたいなんて。







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