榛色の瞳

□榛色の瞳 7
2ページ/3ページ



五年、五年じゃ。我愛羅よ。
今でさえ直ぐにも身を固め、子を成し、血を残して欲しいのじゃ。
それ以上は待てれん。
沙羅と結婚したいのなら、その間までに沙羅を探し出せ。
無理なら諦めて、他の女を娶るようにせい。







風の国砂隠れの里の風影の執務室で、端麗な顔立ちの部屋の主が頭を悩ませていた。


沙羅が風の国を後にしてから五年が経とうとしていた。地道な周辺調査を行うも目立った情報は此処掴めない。
佐津間が自らの一族に行っている事は詐欺や恐喝等、牢へ幽閉しなければならない程の悪行だ。最早、見過ごす訳にはいかない諸行。

沙羅が任務に出て直ぐ潜入調査を試みたが、佐津間の回りは全て榛一族の者で構成されており、以前の失敗も考慮し潜入調査は不可能であると結論付けられた。

里の内部の問題であり、沙羅を娶る為の調査が端を発しているこの件については、周囲に気取られぬ様にしなければならない故に人員は割けない。

佐津間の悪事の証拠を掴むには本家になり、呪印を外された沙羅が証言してくれれば全て解決すると考え、沙羅の捜索により力を入れたが、彼女は上忍。国境警備隊の話では、どの国へ出国したか悟られない様、一般の荷馬車で風の国からその他五大国全ての国の方面へ向け旅立ったらしい。調査依頼書に何度も目を通したが、彼女が受ける可能性のあった任務は風の国以外の五大国全てあり、指名の依頼も多数。しらみ潰しに探していたが“榛一族の宗家の娘”は何処にも居らず、指名の任務も既に立ち去った後でもぬけの殻。
彼女は元々、任務の際は、偽名を使用しており、本名で任務を行わない程の用心深い人物で(おそらく榛一族の宗家であるので身分を隠すため許されていた)、口布をしており、素顔を見たものは殆どおらず周知されていない。(プライベートは口布をしていなかったが任務中に素顔が晒されていない為気付かれていなかった。)榛一族の者なら拝顔した可能性があるが榛一族には佐津間の息がかかっている。協力等有り得ない。その為、調査担当の者が忍者登録書の写真もすり替えられていたと気付いたのは捜索から三年以上経過した時だったらしい。そして何より手を焼いたのは捜索の妨害。おそらくは佐津間の差し金だ。余程沙羅を見付けられたくないらしい。沙羅の捜索に対しては彼方も把握している。見合いの際に此方が沙羅を砂に戻したいという意思は、エビゾウと二人で沙羅の行方を詰め寄っており、伝わっていた筈。妨害は必然的で奴のやりそうな事だと呆れざるえない。
正直、此方が沙羅の捜索人員を割いても問題無いのではと推考したが、やはり捜索の規模を拡大すれば“風影の護衛の指名”という理由だけだは不十分で、不信に思われる懸念があり、以前の失敗が頭を過り二の足を踏む。

手を尽くしたが彼女の捜索は困難を極めた。


調査の最中、榛一族の者がクーデターを計画しているという情報を掴み、その対応に追われた。
そして二年前ついにクーデターが勃発。予期出来ていた事もあり、クーデターを短期間で鎮静化させ、策略したとして榛一族の男を捕まえたが、その男は佐津間と無関係だと主張し、佐津間を捕らえる事は出来なかった。しかしあの件は佐津間が裏で糸を引いているのは明白で更に調査したが結局、主犯の男が自害してしまい、調査続行不可能となり佐津間が関わった証拠さえ見付からない。だが、証拠を消したであろう人物は特定出来た。側近の鋳藻瓦。奴の事は一度エビゾウが手配した者が調べたが、今度は自ら調べてみる事にした。鋳藻瓦が上忍である為、おそらく尾行にも気付いていたに違いない。怪しまれない程度の行動で尾行を巻いていた畏れがある。業務の間を抜いて第三の目を駆使し、数週間張り込んだ。佐津間が経営している病院。其処に足繁く通っていた。其所は報告にもあった一族の者を治療している施設。何度か報告書に目を通したが、不信な点は見当たらなかった。此処の警備が普通の病院が行う警備のレベルじゃない事以外は。

―おそらく此処が佐津間の砦。
でなければ佐津間の屋敷よりも遥かに警備が厳重にするわけがない。

鋳藻瓦に分からない様に第三の目を鋳藻瓦に付け施設の中に入る。彼がいた部屋には鋳藻瓦と同じ年頃の女がベッドに横たわっている。意識が無い様で彼が話しかけても女は目を瞑ったまま動かない。薬指に鋳藻瓦と同じ指輪をしていた事ら妻である事が推察された。妻の首元には呪印があり、やはり彼も人質をとられていた様だった。ベッド脇のネームプレートで妻の名前、年齢、血液型等を確認する。
鋳藻瓦は情け深い男だと聞く。妻の治癒と佐津間の諸行を暴露を引き換えに取引を持ち掛ければ交渉は成立する可能性がある。期限は待ってはくれない。その可能性に賭けてみるしかない。佐津間の事さえ片付けば、佐津間が振り分けた任務だ。沙羅の居場所は割れる。そう思い至り後日、忍び込みカルテを拝借した。そしてエビゾウに信用のおける医者を紹介してもらい、その医者にカルテを見せれば、「自分の手には余る。火の国の綱手姫なら直せるかもしれない。」との返答だった。だが正規の依頼を出せば佐津間の耳に入る。何かしらの策を高じなければならなかった。



業務の間を抜いて施設を調べる日々。風影の業務を疎かには出来ず、睡眠時間を削る他に時間確保は困難で、時が経つ毎に睡眠時間が減っていき我愛羅の心身を蝕む。
エビゾウが手配した者に任せても良かったがもう四年以上の月日が流れている。エビゾウとの約束の期限が迫っていた。



毎夜、熟睡する事は無く、二時間程体を休める為だけに横たわる寝具は、何処か冷たく感じる。
沙羅がいた頃は同じ毛布で包まるのが至福であったというのに。

あの榛色の瞳に見詰められて、困った様に微笑まれた後に己の腕に抱き、彼女の香りで肺を満たすあの瞬間。

あの恍惚の瞬間を味わえば、他の女が隣に居座るなど辛酸を舐める様なもの。



仮にエビゾウの言う様に期限が過ぎ他の女を伴侶に迎える等、雲を掴む様に非現実的で決して許容出来ない。

況してや愛する事は、この心に沙羅が住む限り、想像すらし難く、到底及ばない。

一生、添い遂げる事が出来るのは沙羅だけだ。

…沙羅、もう一度お前をこの腕で抱いてみせる。






.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ