榛色の瞳

□榛色の瞳 3
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月光が頼りなくなり、空が白もうとしている頃、我愛羅は深い眠りに落ちている沙羅の額に唇を落とし、彼女の家を後にした。





初めて彼女に出会ったのは、正規部隊に入隊した時だった。
周りから畏怖の目で見られていたが一人だけ感じる異なった視線。
その視線を寄越した主が沙羅だった。

正規部隊で女性は彼女しかおらず、“土壌を枯らす呪われた一族”といわれる榛一族でもあった為、彼女の存在は嫌でも目立つ。
口許は口布で覆われており顔は分からなかったが、榛色の瞳が際立っていて美しいと感じていた。


任務を組む機会があり、その時に「…何故、お前は俺を恐れない?」と問うて、「怖くは無いですが、貴方は男性なのに綺麗なので驚いています。」と返された。
驚愕し僅かに破顔したが、襲ってきた羞恥にそのあと彼女と何を話したか全く覚えていない。

あの時「…お前の瞳の方が美しい。」と言えていたら彼女との関係はもっと早く進んでいたのだろうか。


沙羅の能力は非常に興味深く、彼女と修行を行う様になる迄時間はかからなかった。

休みの日でも顔を合わす様になり、初めて口布がない彼女を見た時の衝撃は今でも忘れられない。

本当に、唯、美しいと思った。

友人として惹かれていると信じて疑わなかったが、彼女はプライベートで会う際、口布も無ければサラシも外しており、彼女の艶かしいボディラインを惜し気もなく服の下からではあるが晒していた。
他のくノ一達がどんな服を着ようが関心すらなかったのに何故、沙羅に至っては気になるのか分からなかった。
しかし、風影を襲名した際は涙を流し、おめでとうと口にしながら抱き締めてくれた後、体が離れ彼女と10センチ離れているかいないかの距離になり目が合った際、キスをしたいと思ってしまったのである。

どうにか理性で踏み留まったが、彼女に対して欲を抱いてしまった事実。
其が我愛羅を驚かせ、また彼女に対して恋心を抱いていると気付いてしまったのである。


プライベートで会う仲には進展していたが風影になった事により彼女と会う時間は格段に減った。
其が嫌でテマリやカンクロウが任務の際は、沙羅を護衛に指命し、彼女と少しでも会える様に努力した。
そして沙羅は、我愛羅が落ち着くなら我愛羅の空いた時間に家へ来ないかと誘ってくれた。
舞い上がり彼女の元へ少しでも時間が空けば通っていた。
一刻も早く会いたくて瞬身の術を使う程に。

そして、そんな日々を繰り返す中で我愛羅は気付いてしまったのである。
己の中にある激しい男の性に。

夜に訪れた際、寝巻きから覗く白い肢体や風呂上がりの上気した頬に何度も肉欲を誘われる。
それを理性で無理矢理押さえ付ける日々。

想像で何度彼女を汚したか分からない。
だが彼女に会わないという選択肢はなかった。
喩え体に触れる事は無くても、風影として多忙を極める中で彼女に会う事は、肉欲を掻き立てられると同時に、砂漠の中で見付けたオアシスに立ち寄った様な安らぎを得られるものだったからである。


彼女と話し、笑顔を見る。それだけで癒された。



だが、そんな日々に突然に終止符が打たれる。

ある日、仕事終わりに彼女の家に立ち寄ると、彼女は既にほろ酔い状態だった。

彼女の誘いを惚れた弱味か断れず、彼女に勧めれるまま晩酌に付き合う。暫くすると彼女がぽつりぽつりと話し出した。

「…養父がね、3ヶ月後に、私に本家へ戻れと言ってきたの…だからね…があらと、今みたいに、会えなくなるの…。」


そう口から溢すと今度は瞳から涙を零す。
正規部隊にいた時、一度だけ聞いた事がある。
一族の長である養父の命令は絶対で、幼い頃より目の前で背いた者は強制的に死、或いは国外退去させられる様を見てきた―と。
暫しの沈黙の後、彼女は再び口を開いた。


「…だけど、があらに会えなくなるの、嫌だよ…。」

か細い声で肩を震わせる沙羅。
まるで暗闇の中蝋燭の火が風で今にも消えてしまいそうな、そんな弱々しく頼りない姿。
そんな彼女の悲しみを少しでも和らげたくなった我愛羅は、彼女の背に手を回し背中を擦る。

「…たとえ本家に戻っても、俺がまた沙羅の元へ行く。そうすればまた会える…だから、泣くな。」

そう我愛羅が口にすると彼女は我愛羅の胸に手を着き、俯いていた顔を上げ、我愛羅と視線を合わせる。沙羅の、涙で濡れた瞳。酒で上気した頬。悲しそうに寄せられる眉。
その何れもが我愛羅の欲を刺激する。
そして二人はどちらからともなく瞳を閉じながら唇を合わせた。

暫く啄む様なキスを交わしていた二人は互いの視線が交わると、一旦唇を離し、互いの身体に腕を回し抱き合った。

そして彼女は我愛羅の耳元で熱い吐息と共に囁いたのだ。「…我愛羅の好きにして。」と。

その言葉に耐えきれなくなった我愛羅は、ソファーの上で彼女を日頃の想像を具現化させる様に荒々しく求めた。

行為後、ソファーと自身に付着した血液で彼女が初めてであると悟ったにも関わらず、飲酒や彼女を手に入れた高揚感からか、収まる事を知らない激情に突き動かされ、彼女をベッドへ運び、空が白む頃迄彼女を放せなかったのである。




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