榛色の瞳

□榛色の瞳 4
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エビゾウ手配した調査で佐津間の諸行が明らかになった。
佐津間は政略結婚をさせる為に榛一族の女子を手に入れる際、女子の両親を最高峰の教育をさせる等、甘い言葉で騙し養子縁組させる。
そして養子縁組の手続きが終了すれば、忍の才がない養女は、養女と両親、双方を理由に呪印を付けさせ、口外出来ぬ様にし、無理に大名等へ嫁がせ、コネクションを拡大する。
其がまるでルーティーンワークの様に行われているらしい。
そして一族で娘が病に冒されている両親がいれば、医療忍者でもある佐津間は娘の治療を約束し親を奴隷の様に扱っているらしい。

しかし、この調査は憶測の域を出ず確証がない。
当事者には呪印が付けられていて口外出来ない為だ。

佐津間の諸行にヘドが出る。
こんな奴の元で沙羅が何年も過ごしている事自体我愛羅にとっては許しがたい事実であった。
一刻も早く佐津間から沙羅を引き離したい。

確証さえ掴めれば、沙羅との婚姻の取引材料に出来るというのに。

あと一歩という所で足踏みをする。
こんなに歯痒い思いをするとは思わなかった。




そして佐津間は何かを悟ったのか定かではないが我愛羅に見合いを勧めてきていた。
恐らく他の相談役達も見合い話を持ち掛けており、競っての事だろうが、タイミングが悪い。

調査をより円滑に、確実に成果を出す為、佐津間に沙羅との関係を気取られない様にエビゾウの提案でカモフラージュとして見合いを受諾した。
見合い結果は既に出ていて、此方側が了承するが、彼方側から断りを入れて貰う手筈。
彼方側の身辺調査後、佐津間の息がかかっている訳では無かった為、磁遁で得た砂金とのトレードで合意した。

一度調査は振り出しに戻っている。
同じ轍を踏む訳にはいかなかった。


見合いを受ける事は、流石に沙羅に話さなければならない内容だ。
沙羅に工作である事を伝えなければ。

我愛羅がそう思っていた矢先だった。
沙羅が有給休暇を消化したいと数日前に申し出た、との連絡が人事部から入ったのは。
理由は一族間での問題との事だったが榛一族に現在、佐津間の事を除けば問題は特にみられない。
人事部に問い質すと彼女にとっては切迫した用件だったが此方にとっては緊急性が無い為、報告が後回しになったらしい。
以後、そういった用件は直ぐに伝える様に人事部に命令した。


人事部からの連絡に沙羅の事柄なだけに多少苛ついた我愛羅であったが直ぐに思考を切り替える。

…佐津間が沙羅との関係に感づいたのか?
思い当たるのは、佐津間の事以外考えられなかった。

気取られぬ様に見合いまで工作したというのに、実を結ばなかったらしい。
佐津間が沙羅に何をするか分からないし、一度依頼してしまった以上、見合いの件を水に流す事は出来なかった。

今すぐにでも屋敷に行き沙羅に会いたかったが、目の前の精査前の書類がそれを妨げる。
休みを取っているなら屋敷には居るだろう。
今は目の前の業務に集中しなくては…。
己にそう言い聞かせ、我愛羅は目の前の業務に集中する。
調査や工作の為に割いた時間が業務の遅れに拍車をかけていた。






業務を終わらせ、満月の光を浴びながら屋敷に訪れた我愛羅は、屋敷内に沙羅の気配が無いのに気付く。

術ですぐに風影邸の近く迄引き返したが、我愛羅の心中は戸惑い、焦り、不安、様々な感情が混ざり合う。


彼女は何処へ行ったのか。


佐津間が関わっているのは明白。




風影邸への帰路を辿る。
我愛羅の背は月の光に照らされて帰路に影を落とす。
其が自らの負の感情の様だと我愛羅は思う。
彼女に関わる事柄にこんなにも感情を左右される。

空を支配した満月が我愛羅の心中とは逆に穏やかに輝く様に見えた。








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