榛色の瞳

□榛色の瞳 5
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火の国、木の葉隠れの里の練習場。山林の間から太陽が上る頃、一組の母子がクナイを片手に持ち対峙していた。


「…いい?武器はクナイのみ。後は体術か忍術で。膝を地につかせた方が負けよ。」

「はい。行きます、母さん。」

「本気でかかってきなさい。世愛羅。」

真正面からクナイを投げたと同時に勢い良く地面を蹴った世愛羅は沙羅との距離を詰め、背後から沙羅の膝を蹴ろうとする。が、世愛羅の足は沙羅により掴まれており、そのまま身体を投げられる。世愛羅は着地した瞬間方向転換し再び沙羅に仕掛ける。が、既に沙羅はいない。身体に走る軽い衝撃。

「…勝負あり、ね。」

沙羅の声が世愛羅の鼓膜を揺らした時には、彼の膝は地面に付いていた。
小さく息を吐いた彼は口を開く。

「…やっぱり母さんには敵わないや。」

そう口にしながら立ち上がり土埃を払う世愛羅。彼が倒れた場所は沙羅が養遁で地面が軟らかくなっており、傷一つ付いていない。


「…母さんはこれでも上忍だから、アカデミーにも行ってない世愛羅に負けてたら大変よ。でも今日は投げられた時に膝を付かなかったね!えらい!えらい!」

そう口にし、世愛羅の頭を撫でる沙羅。世愛羅は少し照れて破顔した。

「…母さん、僕ね、母さんに見せたいものがあるんだ!ちょっと見てて!」

「何?」

「ちょっと待ってね!」

そう口にした世愛羅は地面に両手を付き、きつく目を瞑る。
そうすると両手から中心に地面の色が少しずつ変わっていく。養遁だ。と沙羅は思う。
一ヶ月前、初めて世愛羅が養遁を使えた時、本当に嬉かった。
我愛羅に似た愛しい我が子が自分と同じ能力に目覚める。自分に似ていることがこんなにも喜びを感じるなんて思いもしなかった。

世愛羅の手元を見ていた沙羅は異変に気付く。世愛羅両手から金色の砂が溢れ、世愛羅の両手の甲を覆う。

…これは、砂金…つまり、磁遁だ。


「…見て!僕ね、金色の砂出せる様になったんだ!養遁で地面を柔らかくしたら、この砂が出る量が増えるの。」


嬉しそうに破顔する世愛羅の頭に手を乗せ撫でる。そう、彼は我愛羅の子でもある。血継限界が受け継がれるのは必然だ。

「…世愛羅、えらいね。頑張ったね。……でもね、この砂は他の人の前では出しちゃ駄目よ。」

「…なんで?」

やはり疑問に思うだろう。
だが、我愛羅との子供なら磁遁が使えるかもしれないという事は想定済み。予め用意しておいた言葉を口にする。


「この砂は砂金といってとてもお金になる物なの。だからこの砂を世愛羅が出せるって分かったら悪い人達に世愛羅が拐われちゃうかも。…そしたら母さんに会えなくなっちゃうかも「やだ!」…じゃあ母さんのいう事聞いてくれる?」


「…分かった。」

項垂れる世愛羅に罪悪感を抱く沙羅。隠さなければならないのは我愛羅に黙って世愛羅を産んだ自分のせいなのだ。だが先程口にした事もまた事実。世愛羅を守る為だと沙羅は自分を奮い起たせ気丈に振る舞う。

「そろそろご飯食べに帰ろうか!お片付け出来る?」

「…うん!」

沙羅は世愛羅にクナイ等の片付けを命じ、懐から取り出した巻物に砂金をしまった。








初めて木の葉隠れの里に来てから五年の歳月が流れようとしていた。
息子の世愛羅も四歳になり日々の成長が著しく、沙羅にとって欠換えのない存在であり、世愛羅がいるだけで嬉しく心が満たされる。
彼は赤褐色の髪に翡翠色の瞳を持ち、そう、まるで隈さえあれば“彼”のようだった。
今も風影である彼に。
唯一の救いは目許は沙羅に似て二重である事位だ。
我愛羅の事は今でも愛しているし、世愛羅が我愛羅に似ている事は喜ばしい事なのだが、風影である彼はあまりにも有名だ。
このまま世愛羅が成長していき、「若い時の我愛羅様そっくりだ!」なんて言われ噂が広まれば一溜まりも無い。

そうならない様に世愛羅の髪の毛は切らないでいる。
短髪なんてしたらそれこそ隈の無いミニチュア我愛羅になってしまう気がしたからだ。





「…母さん、大丈夫?」
思考を巡らせている間に世愛羅は片付けと身支度を整えてしまったらしい。心配そうに沙羅を見上げる。

「大丈夫よ。ありがとう。…それにしても今日も世愛羅は可愛いな〜。大好きだよ。」
そう口にして息子を抱き締めると、「…僕も大好き。」と言うものだからもっときつく抱き締めてしまう。
私は幸せだ。
我愛羅の傍にいられなくても、愛する息子と暮らす事が出来て。
政略結婚で好いてもいない男に嫁がずにいられて。
…本当に、幸せなのだ。


「…世愛羅、朝ご飯を食べに帰ろう!」

「うん!」

息子の破顔した表情に思わず沙羅の顔も綻ぶ。この笑顔を彼が大人になる迄は、ずっと守っていきたい。世愛羅の笑顔を見る度沙羅はそう強く思うのだった。




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