榛色の瞳

□榛色の瞳 7
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木の葉隠れの里を朝陽が照らし、夜のベールが上げられる。
柔らかい陽射しが火影室の窓ガラスから入り、威厳と風格がある火影室に朝特有の清涼感を齎す。
その場所で部屋の主と教え子が机を挟んで対面していた。報告を受けていた部屋の主は、その義務を終えた教え子に徐に調査を依頼する。ある侵入者からの情報の真偽を確かめる為だ。だがその調査は秘密裏に事を進める必要があった。


「…という事だから他の調査の序でにサクッと事実確認してくれる?話は適当に通しておくから。」

「…何故俺が。」

報告の為に帰郷した教え子である男は、現在上司であるこの火影の命令に眉を潜める。どうせなら自分のチームメイトだったあの男の方が相手にとっても最善ではないのか。

「そう言わないの。ナルトはこういう調査に向いてないし、彼女には借りがあるでしょうよ。」

そう口にした火影、カカシに宥められた男は言葉に詰まる。確かに彼女には借りがある。彼女が術でサクラがとある昆虫が出てパニックになって半壊してしまった家を直してくれたのだから。

「…分かった。」

「頼んだよ。サスケ。」


そう言われた男、サスケは、ある国へ旅立った。








早朝、演習場で鍛練をした親子は再び自宅に戻っていた。二人でシャワーを浴びた後、沙羅は作っておいた朝食の仕上げに取りかかり世愛羅はサクラの実家に行く準備をする。朝食が食卓に並べば二人で向かい合わせで座り「いただきます。」と口にして食事を摂る。食べ終われば食器を片付け、身支度を調え玄関に行く。そして沙羅は世愛羅の首にネックレスを着けさせ服の中に仕舞う。

「世愛羅このネックレスは?」

「…ぜったいに外しちゃいけないし他の人に見せちゃいけない。なぜなら危ない人から身を守ってくれるものだから。」

「うん!良くできたね世愛羅!」
そう口にした沙羅は世愛羅の頭を撫でる。

世愛羅が三歳を過ぎた頃、鋳藻瓦から手紙が届いた。佐津間が世愛羅の父親の正体を突き止める為、榛一族の手駒を寄越すかもしれない、と。

何故、今更父親の正体を突き止めようなどと思い至ったのか。
もしかすると、世愛羅の父親の正体に目星がついたのかもしれないと思い至った沙羅は焦燥感に駆られる。

でなければ手駒を他国まで寄越すだろうか。


父親の正体は悟られてはいけないのだ。
男として、息子としての其々の最愛の二人に危害が及ぶ可能性を否定しきれない。

そんな事態は必ず回避してみせる。



それ以来、沙羅は世愛羅の身元を隠す為に知恵を尽くした。自宅には結界を張り、ふとした時に落ちる髪の毛等、DNAが判別出来る物が出ない様に仙花樹で術をかけて作ったネックレスを着けさせた。宗家に伝わる守護術を沙羅なりにアレンジした術で、ネックレスは沙羅か世愛羅が外せず、無理に外そうとすれば常人ならチャクラを吸われ過ぎて指一本も動かせなくなる代物。
生活の中で出るDNAが特定出来そうな物は全て燃やすか養遁で土に還す。検診等で採取された物は病院で働いている為、処分する時間は充分にあった。此処まですれば世愛羅の父親を調べる事はそう簡単には出来ない筈。
沙羅はそう考えていた。

「…それじゃあ、行こうか。」


そう世愛羅に声をかけた沙羅は印を構える。瞬身の術でサクラの実家に飛び、挨拶を済ませ、病院まで再び瞬身の術で飛ぶ。研究室に着いたのは就業時間前の三十分程前の八時三十分。研究室に着くと珈琲をセットし、淹れた珈琲を啜りながら資料に目を通す。此れが世愛羅と修行後の沙羅の朝の日常だった。





この時、この日常が崩れる事になるとは沙羅は知る由も無く、この日常が続く事を願っていた。

自分の感情を箱に詰めて理性という鍵をかけながら。




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