ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-001



幼い頃。たまたま見かけたネット動画。

それは大震災時にヒーローが人命救助をしている動画だった。

建物が崩れ、人が生き埋めになり、至る所で上がる炎。
この世の終わりのような光景が広がるその中で、常に笑顔で人々を救い続けていたヒーロー。
白い歯が印象的で、重力に逆らい真ん中分けされた前髪がウサ耳みたいにピンと立ち上がっていて、大きな身体に分厚い筋肉の鎧を纏い、瓦礫の上でマントを翻すその背中が目に焼き付いて離れたなかった。


――僕はヒーローに、貴方に憧れた。


少しでも貴方に近づきたくて、貴方みたいに強くなりたくて、一人称を『わたし』から『僕』に変えた。

貴方の一人称は『私』だったけれど、女よりは男の方がやっぱり強いんじゃないかっていう固定概念があったから、敢えて僕は男の子達が使っている一人称に変えたんだ。

だけど現実はお菓子程甘くはなくて、若干四歳にして僕は世の不条理を知る。この身を以てして。

自分ではどうにもできない理由で、僕はヒーローにはなれないのだと言われた。


――悲しく悔しくて、泣いて泣いて泣いて泣きまくった。


だけど、諦められなかった。
ヒーローに、貴方に焦がれる思いは止められなかった。

止まらない思いは形となり、増え続けたヒーロー研究ノート。

そのノートが両手を越えて往復する頃。
僕は中学三年生になっていた。

高校受験がチラつき出して、いつまでも、夢を夢として見ていられない現実に、不貞腐れいじける日々。

そんな頃に、僕は貴方と出会った。


――月並みだけど、出会いは偶然。


だけどその後を紡いだのは、交わした言葉と僕の貴方への強い執着だった。

僕はその幸運と奇跡を大切に大切に抱きしめ、ただ貴方の背中を追い掛けた。


個性があるのが当たり前のこの社会の中で、『無個性』として生まれた僕に、貴方だけが『ヒーローになれる』と言ってくれた。

代々秘密裏に受け継がれてきた個性を、僕に与えてくれると貴方は言った。

物心付く前から憧れて憧れて焦がれてきた、ただ一人のヒーロー。僕の一番。

それは、貴方以外のヒーローの姿を目にしても、貴方のヒーローとしての秘密を聞かされても変わることがなく、むしろ思いは強くなった。


「ガッカリしただろう?これが私の本当の姿だ。五年前の怪我で、呼吸器系の半分と胃を全部持って行かれた」


そう言うと、貴方はその場に座り込み、背後の壁に背を預けたまま着ていた白いTシャツを捲り上げた。

左の肋付近から、大きく縦にも横にも伸びた複数の傷跡。
脂肪も筋肉も殆ど無くて、骨が浮いている棒きれみたいな細い身体。

顔もよく見れは痩けていて、目元は落ち窪んで暗く影ができていた。


「いまでは活動可能時間も、一日三時間あまりしかない」


こんな身体になってまで、ヒーローで在り続けようとしている貴方に、身体が震えた。

どこまでもヒーローな貴方に、僕の心は掴んで引き込まれて、そのまま息をする間もなく呑み込まれた。

胸の奥から込み上げる熱い何かが、両目から溢れて零れた。


――貴方と出会って僕は、もっともっと貴方の事が好きになった。


僕は貴方の後継者に選ばれたけれど、選んでもらえたけれど、全然未熟で直ぐには貴方の力を受け継ぐ事ができなかった。

だけどその分、貴方とたくさん一緒に居る事ができた。

僕は始め、貴方の事を『オールマイト』とヒーロー名で呼んでいたけれど、それだと人目がちょっとという事で、貴方は本名の『八木俊典(やぎとしのり)』という名前を教えてくれた。

だから貴方と会う時は、僕は貴方の事を『八木さん』と呼んだ。

貴方の指導の下開始した、力を受け継ぐ為の身体作り。
なかなか思うように筋力は増えてはくれなかったけれど、来る日も来る日も僕は身体を鍛え続けた。
貴方に見守られながら、貴方の気配を感じながら。


――貴方に背中を押され、励まされて、勇気づけられ、僕は僕の夢を見続ける事ができた。

  貴方が居れば、貴方が信じてくれれば、僕は何だってできる気がした。


浜辺のラニングにゴミ拾い。
エネルギーと筋肉になりやすい食事メニュー。
休憩時間に聞かせてくれたヒーロー活動のあれやこれや。

月日はあっという間に流れ、気が付けば高校受験シーズンは目の前。
僕は貴方の出身校を第一志望校に決め、早々に願書を出した。

そして、遂に貴方の個性を受け継ぐ日がやってきた。
身体の方の準備はちょっと足りなかったけど、無個性のままでは入試を受けることすらままならなかったから。

いつものように海浜公園の浜辺に呼び出され、貴方と向き合い僕は受け継ぐ『個性』の説明を聞いていた。


「前にも話したと思うが、私の個性である『ワン・フォー・オール(以下OFA)』は聖火のように代々受け継がれてき個性で、『個性を譲渡する個性』だ」

「個性を譲渡する個性……(ゴクリ)」

「いわば何人もの極まりし身体能力が一つに収束されたものと言える。だから譲渡先の人物の身体が弱ければ(器として不十分であれば)力を受け取りきれず、四肢がもげ爆散してしまう事もある。私が君に肉体強化を課したのもその為だ」

「はい」

「そしてこの個性は前任者のDNAを後任者が自らの体内に取り込む事で継承される」

「DNA……」

「と言っても、ただ闇雲にDNAを取り込めば良いというわけではなく、これは『前任者が譲渡したいと思った相手』にしか譲渡されないんだけどね」

「なるほど。じゃないと無秩序に個性が継承されてしまいますもんね」

「そゆことだ。というわけで、私の髪を食べたまえ。緑谷少女よ」

「え!?髪の毛……!?」

「ん?血よりも抵抗が無いと思ったんだが、私の髪は食べたくないかい?」


貴方は気を使ってくれたようだけど、例え一本でも髪の毛は噛み切りにくいので食べづらい気がした。飲み込んでしまえば良いのだろうが……丸飲みはちょっと難しそうな気がする。
たまに犬・猫が、飼い主の長い髪を飲み込もうとして口にしたは良いが、飲み込めずに苦しんでいる事があるらしいので。

僕が差し出された髪の毛を前に悩んでいると、貴方も困ったように首を傾げてしまった。

そのまま数分。
海風に咽た貴方が吐血した。

その血を掌で拭う貴方を見ていたら、多少不味くても血の方がマシな気がしてきた。

僕は無言で貴方の掌を掴むと、その掌に付いた血を、ペロペロと舐めだした。


「しょ、少女!?な、何を!?」

「え?血よりも髪の毛の方が抵抗が無いって事は、別に血でも良いんですよね?」

「うん、まあね」

「だったら僕、血で良いです。やっぱり髪の毛は(食感的に)食べにくそうなので……(エヘヘヘヘッ)」

「……まぁ、少女が良いなら良いけど……(テレ)」


猫が毛づくろいするように、大きな掌から指股を巡り、指先一本一本まで……僕は丁寧に貴方の血を舐め続けた。

そしてすっかり掌の血が無くなってしまうと、貴方の口元の血が目に付いた。

僕は無言で貴方の両頬に腕を伸ばし貴方の顔を引き寄せると、掌同様にペロペロと貴方の口元を舐めだした。

だけど口元の血は直ぐに無くなってしまって、僕はそのまま貴方の咥内に残る血の風味を探した。


「しょ、少女!?っちょ、ちょっと、たんま!!君何してるの!?(キスだよねぇ!?キスゥ!?いまのアウトだよねぇ!?)」

「え?口元にも血が付いてたので……どのくらい摂取すれば良いのか分からなかったので……(シュン)」

「あー……そうだねぇ、私も具体的な摂取量は良く分からないんだよねぇ。私の時は師匠に言われるがままに差し出された量をそのまま口にしていたから……(緑谷少女、もしかしてキスの自覚無い?)」

「どうしましょうか?」

「……身体に何か変化は感じる?」


僕は少し考えて、首を横に振った。


「うーん。じゃあ、念の為にもう少しいっとく?(ドキドキ)」

「はい!宜しくお願いします!!」

「じゃあ、もう一回血を吐くからちょっと待っててね」

「え!?それって八木さんが苦しいんじゃ……」

「だって吐かなきゃ血、出ないでしょ。ナイフ持ってきてないし」

「それはそうかもしれませんけど……」

「私に負担が無い方法ってなると、後は唾液位だけど……流石に唾液はねぇ……」

「僕別に平気ですよ!八木さんの唾液なら」

「…………君。時々過激だよね。おじさんちょっと引いちゃうよ(ドキドキ)」

「すみません。でも八木さんはおじさんじゃありません!!」

「うーん……あんまり時間掛けるのも良くないかもしれないし、じゃあ唾液……に、する?(ドキドキ)」

「はい!!」


貴方は口を開け、唾液を自分の掌の上に垂らそうとしたけれど、僕は既に貴方の咥内を一度舐めてしまっている。
だったらわざわざそんな事をしなくとても、直接僕が貴方の咥内から唾液を貰う方が手間がないのではないだろうか?

なんて事を考えていたら、僕の身体は自然とそのように動いていて……僕は貴方の掌をギュッと握り締め、薄っすらと開いた肉薄の貴方の唇に自分のそれを重ね舌を侵入させた。

すると貴方が動きを止めたので僕は、貴方の首に腕を回し、バランスを取りながら一生懸命夢中で貴方の唾液を貪った。

波の音と風の音。

そしてその中に混じる、それらよりも近い場所から聞こえる水音。


――ピチャ、ピチャ、ピチャ……。


唾液を絡めとるために僕が舌を動かせば、必然的に僕の舌と貴方の舌が触れ合う。


「……っふ……はぁ……ピチャ」


貴方の舌は暖かくて柔らかくて、微妙な弾力があって、何だか少し、気持ち良かった。


――無意識に強くなる、粘膜同士の接触。


僕は自分の舌を貴方の舌に擦り付け絡みつかせながら、その感触を唾液と一緒に味わった。


「……ピチャ、ピチャ……んっ……っふぅ……八木、さ、ん……はぁ、後どのくらい舐めれば、良い、ですか?」


相変わらずピクリとも動かない、石像のような状態の貴方に向かって、僕は途切れ途切れに息を吐きながら尋ねた。


――ッガ!?


すると貴方は、突然僕の後頭部を鷲掴みにすると、腰を引き寄せ自ら僕の咥内に舌を差し入れてきた。


「っふ!?んぅう!?……八木、さ……はぁ……?」

「……はぁ、はぁ、はぁ……緑谷少女。立ちっぱなしだと首と腰が痛いんで、場所を移そうか」

「……は、い」


言われるがまま、僕は貴方に腕を引かれ、海浜公園の隅へと移動した。

そこは岩陰になっていて、夕暮れ時のいま、近付く人は僕と貴方以外には居なかった。

岩に背を預け、砂の上に胡座をかくように座った貴方は、僕を膝立ちにすると、長い腕の中に閉じ込めるように抱きしめ、再び僕の咥内へと自分の舌を差し入れてきた。

置き所が分からなかった僕の両手は、貴方のブカブカのTシャツの襟口を遠慮がちにギュッと掴んだ。


(何だろう。さっきよりも気持ち良くて、頭がボーッとしてくる……酸欠?)


僕は貴方の唾液を舐め、飲み込むことに一生懸命で、それ以外はあまり考える事ができなくて、気が付けば、貴方の大きな掌に直接肌を撫で回されていた。

こそばゆいような、気持ち良いような、身体の奥が痺れる……そんな感覚に翻弄され、ただ貴方のぬくもりに身を委ねた。

そして、目的も何もかも忘れ夢心地になっていた僕は、突然下腹部に走った強い痛みによって、意識を目の前の現実に引き戻された。


「ご、ごめんね。痛い、よね?少女は初めてだから……」


痛みに呻き、身体を攀じる僕に、貴方は息を切らせながらそう謝ってきた。


(あぁそうか、コレ……エッチだ。僕、オールマイトとエッチしてるんだ……)


同意があったかと聞かれれば、あったともなかったとも言い難い曖昧な空返事だけで、その場のノリに流されたって奴なんだろうなって思った。

でも、相手が貴方だったから、全然嫌じゃなかったし、後悔もなかった。

むしろ初めてが、貴方で良かったとさえ思った。

一度目は中に出され、それではきっと意味が無いからと、二回目は口で貴方の出した物を受け止め飲み込むように言われ、それに従った。

初めて口にするそれは、とても苦くてほんのり甘いのに青臭くて粘ついていて、とにかく飲み込みにくかった。

だけど頑張って何回かに分けて飲み込むと、貴方が頭を撫でながら『偉い』と褒めてくれたから、嬉しかった。

そして、気怠い身体を叱咤し服装を整えていると、熱い何かが身体の中を流れて行くのを感じた。

それを貴方に伝えると、個性の継承が無事に行われた証拠だろうと言われた。

行為に耽ってしまっていたので、すっかり日が暮れてしまい辺りはもう真っ暗だった。
なので今日の所はもう帰宅して、継承した個性の使い方等に関しては、後日日を改めてという事になった。

この日貴方は僕と別れるまで、何度も何度も無理をさせてしまったと、謝り続けていた。

僕がいくら気にしていないと言っても、年上の自分がもっと配慮すべきだったと、貴方は譲らなかった。

なので最後は謝り合戦みたいになってしまい、二人で吹き出してしまい、その決着も後日という事になった。

そしてその後も理由ありきで何度か同じ行為を繰り返した僕達は、当たり前のようにそういう行為をする関係になっていた。

だけどだからと言って、それ以外に何かが変わったかと言えば、何も変わらなかった。

連絡の回数も変わらなかったし、その内容も変わらなかった。
僕と貴方が会う場所も、いつもトレーニングをしている海浜公園が主で、たまにDVDを観たり人目が気になる会話をする時に貴方の部屋に入れてもらうくらいだった。まぁ、比率として、貴方の部屋に入れてもらう回数は気持ち増えたかもしれないけれど……。

貴方が何を思って僕とそういう行為をしているのかは分からなかったけど、大好きな貴方からの行為を、断るという選択肢は始めから僕の中には無かった。

ので、僕は貴方からの行為を、一度も断ったことがない。

もし一度でも断って、貴方とそういう行為ができなくなるのが嫌だったから。

行為の最中は、貴方は僕の物だと錯覚する事ができたから。

僕は貴方を拒めなかった。

僕は貴方に何も問えなかった。

この行為の『意味』を。


 
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