ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-002



そして無事に受験を終えた僕は、四月から念願の貴方の母校である雄英高校に通うことになった。

僕が合格通知を手に貴方に報告に行くと、なんと貴方も4月から同じ雄英高校で教師をするのだと教えられ、自分の合格発表よりも驚いた。

これからは、学校でも貴方に会えるのだと思うと、凄く嬉しくて楽しみだった。

だけど高校生活は楽しいことばかりじゃなくて、嫌な事もあった。

それは、家が近所の幼馴染であるかっちゃんこと『爆豪勝己(ばくごうかつき)』と同じクラスになってしまった事。

なぜかかっちゃんは、昔から僕の事を苛める。
かっちゃんにとって僕を苛めるという事は、息を吸うように当たり前の事らしく、一日一回は苛めないと調子が狂うとまで言われた事がある。

そして志望校を決める時も、自分と同じ雄英は絶対に受けるなと言われていた。

なのに僕が雄英を受けて、尚且つ合格してヒーロー科で同じクラスになったものだから、かっちゃんの機嫌は入学初日からずっと、すこぶる悪かった。


(かっちゃんは、僕がずっと無個性だったの知ってるから、『騙された』とかって思ってて、余計に怒ってるんだろうなぁ)


一言くらい説明したい気もするが、貴方から受け継いだ個性に関しては他言禁止。継承の仕組みが他人に知られれば、かなり危険な事になってしまう。だから言えない。

例え相手が親であったとしても、この事は絶対に秘密にしなくちゃいけないんだ。

言えない苦しさはあったけれど、貴方と秘密の共有をしているのだと思うと、それは些細な事のように思えた。


――この秘密があるから、僕と貴方は繋がっていられる。


こんな事を言えば貴方に怒られてしまうかもしれないけれど、この秘密は僕にとって、貴方から受け継いだOFA以上に大切なもののように感じられたんだ。

幸いなことに、将来ヒーローを目指すヒーロー科の生徒達は、中学校までかっちゃんの周囲に居た子達は根本的に考え方が違うらしく、かっちゃんが威嚇してもあまり動じないし、無駄にかっちゃんを褒め称えたりしない。
だからかっちゃんは、いままでのように『自分に逆らわないで言うことを聞いてくれる友達』というものができなかった。

つまりかっちゃんが僕を苛めていても、それに便乗するような人が居なかったのだ。

おかげで僕は、初めてクラスに友達というものができた。

その事を貴方に報告したら、ちょっぴり切なそうにでも嬉しそうに、『良かったね』と言われた。

クラス担任の相澤先生は、何と殆どメディアに出てこない『イレイザー・ヘッド』というヒーローで、貴方と同じでヒーロー時と素の時のギャップが激しい人だった。


「案外、ヒーロー時と素の時の姿が異なる人は多いんだよ。プライベートでヒーローと知れてしまうと、それはそれで面倒事になるからね。使い分けているんだよ」

「へー、そうなんですか(コクコク)」

「っま、彼(相澤先生)の場合はただの性格なんだけどね。後マスコミ嫌い」


僕は昔から、貴方のファンである事を隠したりしていなかったので、クラスメイト達は僕が貴方の良く居る仮眠室に出入りしてても何も言わなかった。
むしろ大好きなヒーローが、学校の先生で良かったねと言われたくらいだ。

けど相澤先生は違った。

『いくらファンでも節度は守れ』。『ここでは教師と生徒なのだから、距離感を間違えるな』と、事ある事に注意された。

相澤先生の言っている事はもっともなんだけど、微妙に納得できないのは僕がまだ子供だからなのだろうか?

貴方に注意されるのならば、僕も素直にそれに従えると思うのだけど……。
結局貴方が僕の行動を許容していたり呼び出したりしているので、次第に相澤先生は『人目に気を付ける』という条件付きで無理やり黙認してくれた。『面倒事はご免だ』と愚痴りながら。

そんな相澤先生を貴方は、『素直じゃないけど良い奴』なんだと嬉しそうに僕に耳打ちしてきた。

でもいつか、貴方が僕の事を公表しても良いって思えたら、相澤先生には一番に、『僕はオールマイトの弟子』なんですって言いたいなって思った。

きっとそんな日は、来ないだろうけど……。

貴方から個性を受け継いだ僕は、まだまだその個性を使いこなせていないので、怪我が絶えない。

僕が怪我をする度に、悲しそうな顔をする貴方が辛くて、トレーニング量を増やしてみたけれど、脳内イメージの伝達が悪い事が主な原因なので、効果は薄かった。

そんなこんなで煮詰まっていたら、貴方が休日遊びに連れ出してくれた。

初めて海浜公園以外で待ち合わせをして、初めてちょこっとお洒落をした貴方を見て、初めて一緒に映画を見て、喫茶店でお茶をして、街をぶらついた。

何だか『恋人ごっこ』みたいだと僕が言ったら、なら手でも繋ごうかと、貴方はカップル繋ぎという繋ぎ方で手を繋いでくれた。

大きくて硬くて、殆ど骨と皮しかない貴方の手の感触は、ゴツゴツしているのに暖かくて、でも頼りがいがあって、守られているような安心感があった。

僕があんまりこのごっこ遊びを気に入ったものだから、その後も時々貴方はごっこ遊びをしてくれるようになった。

そして、ごっこ遊びをしていると、その流れでエッチな事をする事が増えた。

そうなると、ますます恋人同士みたいで、僕は凄く嬉しくて恥ずかしくて幸せにな気持ちになった。

だけど僕だけが幸せを感じているのは、一方通行みたいで嫌だなって思った。
些細な事でも良いから、僕と居る事で、貴方にも幸せを感じてもらいたいと思った。

だからエゴだと分かっていても、僕は僕なりに色々考えて実行してみた。

けれどどれも、何か微妙な感じで手応えがなかった。

なので、どうせお小言が減らなくて、僕と貴方がただの生徒と教師以上に仲が良い事を知っている相澤先生に、大人の男性が喜ぶ事を聞いてみた。

相澤先生は、そんなもの本人に聞けと言ったけど、貴方はヒーローに関する事以外ではあまり自分の意見を口にしないので、聞いても答えてくれなそうな気がした。


「……お前は何でそんなにあの人に尽くしてるんだ?」

「尽くす?尽くしてることになるのかな?これって……」

「尽くしてるだろうよ。滅茶苦茶」

「うーん、言われてもあんまりピンとこないけど、相澤先生が言うならそうなのかな?」

「……お前馬鹿だろ」

「酷いなぁ!でも、尽くす『理由』だっけ?そんなのあの人が大好きで大切だからに決まってるじゃないですか!!」

「『大好き』で『大切』だとお前は尽くすのか?」

「だって大好きな人には、気持良くなってもらったり、喜んでもらったりしたいじゃないですか」

「……まぁな。合理的じゃないがな」


そんな感じで気が付けば、相澤先生とは雑用を手伝いながら貴方に関する雑談をするような間柄になっていた。

相澤先生曰く、寝耳に水で問題を起こされるよりは、ある程度把握していた方が問題が起きた時対処しやすいかららしい。

酷い言われようだけど、貴方との関係は他の誰にも言う事ができなかったので、こんな風に貴方の事を話題にしても平気な相澤先生の存在はありがたかった。


 
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