ヒロアカ
□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-003
雄英高校のヒーロー科は、ヒーローを育成するだけあって、そのカリキュラムは独特だ。
入学式の代わりに、いきなり個性を使った体力測定が行われたのだが、事前説明が無かった上に、最下位は即除籍処分と言われてかなり驚いた。
一応最下位でもギリギリ許容範囲だったとかで、幸いな事に初日で除籍処分される生徒は出ないですんだが、これからも相澤先生の授業は全くこれっぽっちも気が抜けないだろうと、相澤先生の噂を知るクラスメイトは言っていた。
何でも担任の相澤先生は、容赦なく生徒を除籍処分にして行く事で有名な先生らしく、卒業時にクラス全員が残っていた事がないらしい。
取り敢えず午前中は一般教養の授業が主で、国語や数学等、一般的な科目の授業。
そして午後はヒーローになるためのヒーロー基礎学という授業が行われる。
それは座学だったり実技だったり、その時々によって違う。
相澤先生は始め、自らヒーロー名を名乗ったりしなかったので、全然誰もその正体に気が付かなかった。
ヒーローオタクである僕は、相澤先生が首の下にぶら下げているゴーグルを見て気が付いていたが、相澤先生がヒーロー名を名乗らないのは、何か意味があるのかもしれないと思い黙っていた。
だけど流石にクラスメイト達も、実技演習中に敵に奇襲された時。個性を使って戦う相澤先生を見て、相澤先生が誰なのか分かったらしい。
口では合理主義がどうのこうのと言っていて、素っ気ないを通り越して冷たい印象さえ受ける相澤先生が、自身の身を呈して僕達生徒を庇い戦う様は、紛れもなくプロヒーローのそれで……クラスメイト達の相澤先生に対する評価や態度は一変した。
特に梅雨ちゃんは、ヒーローとして尊敬するだけでなく、相澤先生に淡い恋心を抱いているようだった。
というか、初めての演習でいきなりの危機。
共にその状況を体験し脱した事から、他のクラスメイト達の中にもチラホラと恋に落ちた者達が居た。
所謂『吊り橋効果』という奴だ。
まぁ、それが持続するかどうかは今後のコミュニケーション次第なのだろうが……。
そんな理由で、いま僕のクラスは微妙にピンク色だったりする。
好きな人が居る人はそのまま好きな人の事を。
好きな人が居ない人は、好みの異性や理想の恋人像をあれこれ語り合っていた休み時間。
不意に話を振られた僕は、不自然なくらい慌てて吃ってしまった。
「そんなに慌てて緑谷ちゃんはウブなのね。ケロ」
「ウブって……いうか、僕中学までろくに友達居たことなかったから、こーゆー話自体したことがなくて……」
「それがウブなのよ。ケロ。で、緑谷ちゃんは居ないの?好きな人」
「うーん……」
何と答えようか悩んでいると、お茶子ちゃんが助け舟を出すよう割り込んできた。
「デクちゃんはオールマイトが大好きだから、やっぱりオールマイトみたいな人が好みなのかなぁ!?」
「あ……うん。そうだね。オールマイトはかっこいいしね。僕オールマイト大好き!!」
「それは知ってるけど、ヒーロー以外で気になる男の子とかは居ないのかしら?ケロ」
「顔だけならうちのクラスそれなりに整ってるのが何人かいるもんね!爆豪くんは顔が良くても中身が俺様過ぎて対象にならないけどねぇー……アハハハハハハッ」
「確かにかっちゃんは……無いね。僕も(というかむしろ関わり合いになりたくない……)」
「オールマイトが好きなら、緑谷ちゃんは同級生よりも年上が好きそうよね?ケロ」
「同級生でも大人っぽい人はー?例えば老け顔の飯田くんとか」
「老け顔って……お茶子ちゃん。でもそうだね、年上の男の人って良いよね。僕よく苛められてたから、同い年の男の子って苦手だし……」
「主に緑谷ちゃんが苦手なのは、爆豪くんだけみたいだけどね。ケロケロ」
何だかかっちゃんの悪口みたいな流れになってきたなと思っていたら、地獄耳でそれらの会話を全て聞いていたらしいかちゃんが、不機嫌そうに個性を使って、教室の後ろの方で小爆発を起こしていた。
それを見て、お茶子ちゃんは『ほらねぇ〜』って苦笑いを浮かべていたが、それが更にかっちゃんの機嫌に油を注いだようで、今度は僕達――というか僕を爆破させようと怒鳴り散らしながら構え出したので、近くに居た切島くんが必死になってかっちゃんを止めていた。
入学してまだ数日だというのに、かっちゃんの短気はすっかりクラス中に認知されていて、かっちゃんが小爆発を起こすと誰かが(主に切島くん)止めに入って、真面目が服を着ているよな性格の飯田くんや八百万さんが小言を言い出す……という一連の流れができあがっていた。
で、いつまでもかっちゃんが暴れていると、相澤先生がやってきて強制的に黙らせる。
中学まではかっちゃんに逆らう人なんて本当に誰も居なかったから、僕とかっちゃんはそんな周囲の対応に少し戸惑っている。
「爆豪の性格はどうにかならんのか?」
「無理です。相澤先生」
「無理って……お前爆豪と幼馴染で中学でも一緒だったんだろう?何かないのか?爆豪が直ぐにおとなしくなる魔法の言葉とかそーゆーの……」
「……どうしてもと言うなら、僕を差し出してかっちゃんの気の済むように暴れさせるのが一番手っ取り早いですね」
「……それは……」
「かっちゃんは僕の事が嫌いなので、僕のなす事何でも地雷なんですよ。昔から……だから周囲は何かあると僕を差し出してましたね。アハハハハハッ……」
「それじゃあ根本的に解決しないだろうがっていうか、教師は止めたりしなかったのか?」
「止めなかったですね。周囲にかっちゃんと張り合えるだけの個性を持った大人もいなかったんで。唯一かっちゃんをどうこうできるとしたら、かっちゃんのお母さんくらいだけど、学校におばさんは居ませんでしたからね」
「そりゃー、中学校に母親は付いて来ねーからなぁ。普通」
「なので離れたくても小学校も中学校も暗黙の了解みたいな感じで、僕とかっちゃんは同じクラスにさせらてたんですよね」
僕はかっちゃんの短気を愚痴る相澤先生に、幼い頃からつい最近までの僕とかっちゃんとの関係について、苦笑いをしながら説明した。
すると相澤先生は、面倒臭そうに頭を抱えてしまった。
そんな感じで、せっかく凄い個性を持っていて頭も良いのに、かっちゃんは高校でもしっかり問題児のレッテルを張られていた。
「まぁ、何はともあれ、お前がおとなしく言うことを聞いてるから爆豪が調子に乗ってるってのはあるだろうから、これからは嫌なものは嫌と言うんだな。少なくともいまのクラスと俺はお前を爆豪の生け贄に差し出したりはせんから」
「…………はい!ありがとうございます。頑張ってみますね。僕」
いままでそんな風に言ってくれる人は誰も居なかったので、僕は一瞬何を言われたの分からなくてキョトンとしてしまったが、直ぐに内容を理解すると、相澤先生にお礼を言った。
慣れない個性と慣れない環境、山積みの課題。
毎日が目まぐるしくてヘトヘトだったけど、辛いなんて思わなかった。
考え過ぎて思考の迷路をぐるぐる迷子になっても、失敗ばかりで落ち込んで顔を上げるのが気不味くなっても、疲れてふと立ち止まりたくなっても、そんな時は貴方に会って話を聞いてもらうだけで、頭を撫でられるだけで、また頑張れた。
ゴツゴツした大きな掌と、困ったように笑う貴方の笑顔が、僕にとって何よりの励ましだった。
OFAの前継承者は、次代継承者へ個性(力)を継承させると、徐々に力が衰えやがて完全にOFAの個性(力)を失ってしまうらしい。
だから貴方は、もう直ぐ自分の時代は終わるのだと、少し寂しそうに言った。
だけど例えOFAを失っても、世間からヒーローと呼ばれなくなったとしても、貴方が成してきた事は変わらない。消えたりはしない。
貴方は其処に存在しているだけで、皆に勇気と強さを与える事のできる存在だと思う。貴方の目指した『平和の象徴』とは、そういうものだと思う。
だって貴方の正義の心を宿した蒼い目は、マッスルフォームじゃなくてトゥルーフォームの時でさえ、その輝きを失ってはいないじゃないか。
勿論これは僕の持論であって絶対じゃない。
だけど、近しい将来に必ずやってくる『その時』。そう思うのは僕だけじゃないと、僕は結構な確率でそう信じている。
だからねぇ、悲しまないで。諦めないで。NO.1ヒーロー。貴方はずっとずっとヒーローで、平和の象徴だから。
それは、僕の独り善がりの思いで願い。
ヒーローで居られなくなったら、そのまま消えてしまいそうな貴方に対する僕の我儘。