ヒロアカ
□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-004
中間テストが過ぎれば、思う存分それぞれの個性を披露できる体育祭がやってきた。
勿論ヒーロー科が有利ではあるけれど、それ以外の科の生徒も皆個性を持っているから、油断していると簡単に負けてしまう。
ちなみに得点は団体ではなく個人に加算。完全な個人戦だった。まさにバトルロワイヤル。そんなイベントだった。
僕は幸か不幸か体育祭開始早々に高得点を手に入れてしまった。
ので、その後の騎馬戦(クラス入り乱れ組み合わせ自由)で組んでくれる相手が見付からず苦労した。
何とかお茶子ちゃんと発明科の発目明(はつめめい)さんが声を掛けてくれたけど、最後の一人がぜんぜん見付からなかった。
僕は取り敢えず自分を含む三人の個性と体力その他を加味して作戦を立て、それを実行するのに足りない個性の持ち主をリストアップ。駄目元でその相手――常闇踏陰(とこやみ ふみかげ)くんに声を掛けた。
説得に難航すると思った常闇くんは、意外や意外。一つ返事で僕達と組んでくれる事になった。
なんでも常闇くんの個性(伸縮自在で実体化する影っぽいモンスター(通称:黒影(ダークシャドウ)をその身に宿している。ちなみに意思疎通可)を頼ってくれたのが嬉しかったらしい。
そんな感じで何とか騎馬戦を乗り切り、あっという間に体育祭は後半戦。個性を使った一対一の勝ち抜き戦。
正直自信はなかったけど、物陰から応援してくれている貴方の期待に少しでも応えたくて、僕はとにかく頑張った。
多少の変動はあったけど、それなりに高得点を維持していた僕を睨み付けるかっちゃんの視線が怖かったけど……頑張って気にしないように努力した。
そして危なげながらも勝ち進んでいたら、普通科の心操人使(しんそうひとし)という、ちょっと怪しげな雰囲気の生徒と戦う事になった。
心操くんの個性は『洗脳』。
心操くんの問いかけに相手が答えることで洗脳が完了し、その後は相手の行動を操ることが可能になるらしい。
初見殺しではあるがとても強力な個性なのに、特殊な入学試験のため雄英のヒーロー科に入る事ができなかったらしい。
後で知ったのだが、そのことから心操くんはこの体育祭で結果を残し、ヒーロー科に編入しようとしていたらしい。
だけど、試合開始直後から洗脳状態にあったはずの僕がその洗脳を解いた事で勝敗が決まり、心操くんは敗退した。
勝負に勝敗が付き物で、勝者が居れば敗者も居る。
それは理解しているが、何だか心操くんの事情を知ると素直に自分の勝利を喜べなかった。
「それにしても緑谷少女、よく洗脳を解くことができたな!凄いよ!」
「はい!場外に歩いて行くように命令されて身体はその命令に従っていたんですけど、八木さんの顔が見えた瞬間に頭の中に複数の人の気配みたいなのを感じて、気がついたら洗脳が解けてたんです」
「複数の人の気配?」
「その中の一つが八木さんの気配に似ていた気がするんですけど……これってOFAと何か関係があるんですかね?」
「……詳しい事は私にも分からないが、可能性はあるね。何せ代々受け継がれてきた個性だからね、継承の時に個性と個性が混ざり合うわけだから、その他のものも一緒に引き継がれていても可怪しくはない」
「へぇー……」
「っま、害がないのならあまり気にしなくても良いだろうね。気にし過ぎも良くないからね」
「はい!分かりました」
そして進んだ準決勝の相手はクラスメイトの轟焦凍(とどろきしょうと)くん。
轟くんは身体の左右で異なる個性(半冷半燃)を持っている凄い人。
しかもお父さんは現役ヒーローNo.2のエンデヴァーだって言うんだから、本当に生まれながらに人生が決まってるんだなぁって思った。
だけど轟くんは個性婚をしたお父さんを恨んでいるらしく、頑なにお父さんと同じ個性である左半身に宿る炎の個性を使おうとしなかった。
確かにその個性はお父さんから受け継いだものかもしれないけど、それも立派な轟くんの個性の一つなのに……その個性を否定し続けている轟くんは、凄く勿体無い事をしていると思う。無個性だった僕にしたら、恵まれた者の我儘にしか見えない。
だから僕はそれをそのまま轟くんに言ってみた。
試合中だったから、轟くんには敵に塩を送るような事を言って馬鹿じゃないかと言われてしまったけど……全力の轟くんに勝ったのでなければ、それは本当に勝ったとは言えない気がして、納得できなかったんだ。
どうせ勝つのならば、胸を張ってその勝利を貴方に報告したかったから。
結果僕は腕を激しく負傷し敗退してしまったけど……後悔は少ししかしてないよ。
ただ、保健室でリカバリーガールの治療を受けベットで寝ている僕の横で、貴方がリカバリーガールにお説教されているのが辛かった。
「まったくアンタはこの子に何を教えてるんだい?アンタがちゃんと叱らないからこの子はいつまで経っても自分の身体を省みない……」
「申し訳ありません」
「酷なようだけど、この子の右腕はもう完全には元には戻らないよ」
「!?」
「それは今後大きな怪我をした時も同じだ。嫌ならもっとちゃんと指導してやるんだね。それが個性(OFA)を授けた者の責任だ」
「……はい。肝に銘じます」
「せいぜいその歪んじまった右手を戒めにするんだね」
僕が未熟なだけなのに、僕が未熟だと貴方が責められる。責任を背負わせてしまう。僕が貴方の後継者になったがために……。
そして、僕が弱いと、僕が怪我をすると、貴方以外にも心を痛める人が居る事を、僕はこの時知った。
それは、僕と戦った相手だ。
勿論、相手がどうなろうと気にしない敵が殆どなのかもしれないけど、それでも責任を感じさせてしまう可能性はゼロじゃないのだと、様子を見に来てくれた轟くんを見て知った。
「すまない。俺のせいで緑谷の腕が……」
「気にしないで。これは僕が弱かったからなんだから。それに、釘を刺すためにリカバリーガールが大げさに言ってるだけで、別にこの怪我が元でどうこうなったりしないから。ね?」
「だが……」
「うーん……困ったなぁ」
いままで戦闘で炎の個性を使わないでいたせいか、轟くんは少しだけ炎の制御が下手だった。
だからそのせいで、僕に必要以上の大怪我をさせてしまったと思い込んでしまったようだ。
「じゃあさ、僕と友達になってよ!」
「友達?」
「うん。僕達同じクラスメイトだけど、あんまり話したこととかないでしょ?だから、これからはもう少し仲良くしてくれた嬉しいなって……駄目かな?」
「……そんな事で、償いになるのか?」
「ならないかもしれないけど、僕は君がずっと僕の怪我を気にし続けるより、仲良くしてくれた方がずっと嬉しいから、もしどうしてもって言うならそれを望むよ」
「……」
「勿論無理にとは言わないし、友達になれなくても恨んだりなんかしないよ」
轟くんは少し考えさせて欲しいと言って、自分の試合に戻って行った。
僕に勝った轟くんの次の相手は、かっちゃんで決勝戦だ。ちゃんと客席で二人の戦いを見たかったけど、僕はもう少し安静にしていなければいけないので、見ることはできない。
残念だったなぁって思っていたら、隣のベットとの仕切りのカーテンを開けて、隠れていた貴方が再び姿を現した。
そして決勝戦が終わるまで、貴方はずっと僕の頭を撫でてくれた。
「君は無意識だったかもしれないが、君は轟少年の心を救ったんだよ。緑谷少女」
「僕が?」
「彼は君の言葉に心を動かされて、いままで頑なに使用を控えてきた父親と同じ個性を戦闘で初めて使った。これはとても大きな変化だ。彼は擬似的にだけど父親の存在を受け入れ向き合ったのだから」
「……」
「直ぐに大きな変化は訪れないだろうし、彼が向き合わなければならないのは父親だけじゃないから大変だろうが……切欠は間違いなく君だよ。緑谷少女」
「僕はそんな……」
「流石は私が見込んだ私の後継者だ!」
「大袈裟ですよ、『オールマイト』」
「フフフフ。照れているのかい?可愛いね」
「もう!誂わないで下さい!!」
「誂ってなんていないさ。っさ、少し眠りなさい。その方が怪我の治りも早いから……大丈夫。決勝戦が終わるまでは側に付いててあげるから」
「……はい」
自分の選択を、後悔はしていない。
でも、納得していても悔しいものは悔しい。
勝ちたかった。勝って貴方に褒められたかった……。
閉じた瞼の下から溢れる悔し涙を隠すように翳された、貴方の優しさが胸に痛くて、僕はただただ唇を強く噛み締めた。
決勝戦で僕を倒すと息巻いていたかっちゃんは、僕が轟くんに負けた事で試合開始前から手が付けられない荒れようだったらしい。
せっかく開会式の宣言通りかっちゃんが轟くんに勝って総合一位になれたのに、表彰台の上で全身拘束された状態でメダルを授与されるなんて……幼馴染として、恥ずかしいよ。かっちゃん。
(あぁーあ、僕も表彰台の上で、オールマイトからメダルを授与されたかったなぁ……)
体育祭の後2日はそれぞれ疲れた身体を自宅で癒すべく学校は休校。
貴方に会えない2日日間は、寂しいようなホッとしたような、そんな気分だった。
休みの間、ずっと握り締めていた携帯電話が震えたのはほんの数回だけで、その殆どがクラスメイトからだった。
体育祭当日の夜と学校が始まる前日の夜。
貴方からの連絡はその二回だけだった。
貴方から届いた身体を気遣う短い文章。
僕はそれに対して、更に短い文章というか単語を一つ二つ返す事しかできなかった。
何度も何度も頭の中で貴方からの文章を復唱しながら、液晶画面の文字を指でなぞった。貴方の本音が知りたくて。
貴方は体育祭の後、落ち込む僕に、自分も無個性だったと告白してくれたけど……無個性でも強かった貴方とは違い、無個性の弱い僕にOFAを授けた事を、貴方は後悔していませんか?
貴方に問いたい事は胸の中。
鉛のように重く重く僕の心を圧迫して行く。