ヒロアカ
□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-005
休み明けの授業は、体育祭でのプロヒーロー事務所などからの個人評価を聞きながら職業体験先を選んだり、その時に使用するヒーロー名を考える授業があった。
僕は一応総合順位八位になったけど、指名はどこからも無かった。
つまり、プロの目から見て、現在(いま)の僕はヒーローとしての見込みが無いという事だ。悔しいけれどこれが現実。
『卒業までに、この評価を覆す事ができなければ……貴方にこの個性(OFA)を返そう』
そう、思った。
大切な貴方の時間を無駄にさせてしまうけど、ヒーローになれない僕が持ち続けて良い個性ではないから。
ただ、できるならば返したくないしヒーローになりたいから、そうならないように全力で努力はするけど……もしもの時の事は、考えて置いた方が良いだろうな。良くも悪くも絶対なんて事はないのだから。
なんて他所事を考えていたら、大半のクラスメイト達のヒーロー名が既に決まっていた。
僕のヒーロー名はたくさん悩んだけど、昔かっちゃんが僕に付けた蔑称をそのまま使う事にした。
『頑張れのデクって感じがして、何か好きだ。わたし』
何にもできない『木偶の坊のデク』じゃなくて、『頑張れのデク』。
どの辺がどう頑張れなのかは分からなかったけど、お茶子ちゃんにそう言って貰えて、凄く嬉しくて勇気づけられたから…。
頑張る事を忘れないように、過去の自分から目を逸らさないように、僕はその名(デク)を名乗る事にした。
実は貴方の名前をもじった名前にも惹かれていたけど、現在(いま)の僕にはまだ、その名に触れる勇気も資格もなかったから、考え始めて直ぐに候補から外していた。
思い入れのある名前を名乗る者。
個性を示した名前を名乗る者。
とりあえず本名をそのまま名乗る者。
時間はかかったけど、皆それぞれヒーロー名(仮)が決まり、話題が職業体験先に変わっても、変な所でセンスの無いかっちゃんは無駄に一人迷走していた。
最後は相澤先生とミッドナイ先生が折れる形で、かっちゃんのヒーロー名は『爆心地』に決まった。
あんまりヒーローっぽくはないけど、凄くかっちゃんっぽい名前だなって思った。
そう言えば、貴方のヒーロー名には『全能の神』という意味がある。
その意味を知れば、誰もが貴方に相応しいと思うだろう。
だけどそれは、『平和の象徴』となったいまだからそう思うのであって、デビュー当時の貴方に対してそう思う人は、殆どいなかったのではないだろうか?
何の実績も無い、新人ヒーローが背負うには重過ぎる名前。
その重さはきっと、僕なんかじゃ想像できないくらいに重かったのだろうと思う。
そして『平和の象徴』と謂われるようになったいまでも、決してその名は軽くはないだろう。
それでも貴方は、その名を名乗る事を決め、その名を名乗り続けている。
自分の思い描いたヒーロー像を追い掛け実現するために。
(凄いなぁ……)
ヒーローに憧れて、ヒーローについて色々と調べてきたけど、名乗る名前の意味なんて、あまり考えた事もなかった。
だけど僕が思うよりもずっと大切で、意味のあるものだったのだと、いまならよく分かる。
さて、ヒーロー名(仮)が決まったら、次は職業体験の行き先を決めなければならない。
プロからの逆指名がある人はその中から、それ以外の人はその他のリストの中から、それぞれ選ぶのだが……正直どの現場が自分に合っているのかサッパリ分からなかった。
可能性を広げる事を重視するのか、自分に不足している物を補う事を重視するのか、それとも個性の強化を重視するのか……その目的によっても選ぶ現場は変わってくる。
僕は何を重視して選ぶべきなのか、それが分からなかった。
考えれば考えるほど、決められなかった。
学ぶべき事も、不足している事も、僕にはまだまだ山とあったから。
その中から、どれを選べは良いのか分からなかった。
そして、職業体験先の提出期限ギリギリに舞い込んできたプロからの逆指名。
正直決めかねていたからありがたかったんだけど、いつになく貴方が怯え動揺していたので疑問に思っていたら、なんと僕を指名してくれたのは、貴方の嘗ての恩師だった。
貴方いわく、その人はOFAの秘密も知っている、先代(貴方の前)の盟友なのだとか。
過去の修行の日々を思い出したのか、うっかりマッスルフォームになった貴方が青い顔でガクガクと震えながら僕の肩を掴んで、縛り出すように『頑張れ』と呟く姿は、凄く貴重だった。
一体どんなシゴキをその恩師とやらに受けたのか……ヒーローになる前の貴方を知らないから想像ができなかったけど、とにかくとても辛かったらしい事だけは分かった。
少しその恩師に会うのが怖かったけど、昔の貴方を知っている人に会うのは楽しみでもあった。
職業体験の合間に、貴方の昔話が聞けるかも?と思うと、単純な僕は早く職業体験に行きたくて行きたくて仕方がなかった。