ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-006



そして気が付けば六月。
僕は久しぶりに、学校行事以外の事で頭を悩ませていた。

それは、もう直ぐやってくる貴方の誕生日。

去年の貴方の誕生日は、僕と貴方が出会う前に終わってしまっていたので直接祝う事はできなかったけど、今年は絶対お祝いがしたかった。日頃の感謝も兼ねて。

だけど、貴方が欲しい物もして欲しい事も僕には分からない。


「僕が早く個性(OFA)を使いこなせるようになるのが一番なのは分かってるんだけど、流石にそれはまだ無理だからなぁ……」


まだ学生でバイトもしていないから、高い物は贈れないし、手料理は――胃を全摘出しているから迷惑にしかならないし、そもそも貴方の方が上手いので却下だ。

教職に関する雑務は普段から手伝っているし、身の回りの世話といっても、貴方は大抵の事は一人でこなしてしまうし、それをするには貴方の自宅に押しかける必要がある。

でも、呼ばれてもいないのに押しかけるのは、流石に僕と貴方との関係上厚かまし過ぎるのでこれも却下だ。


「相澤先生!!何かないですか!?僕に用意できてあの人が喜びそうな物!?」

「知るかそんなモン!」

「えぇー!!相澤先生仲良しなのにぃ!?ねぇねぇ、何でもいいので何かないですかぁ!?僕すんごく困ってるんですけど!!」

「仲良くねぇよ!!別に」


あーでもない、こーでもないと思考がグダグダになり、完全にドツボに嵌ってしまった僕は、思い切って相澤先生に相談してみたのだが、取り付く島もなく冷たくあしらわれてしまった。

そして目的の日の二日前の夜。
予想外にも、貴方の方から自宅に誘われた。


『もし良かったら、二日後の六月十日、私の部屋で一日一緒に過ごしてくれないか?実は誕生日なんだ』


誕生日なんて特別な日に、僕なんかと一緒で良いのだろうかと思わなくもなかったが、嬉しくて僕は速攻でOKの返事を返した。

結局家を出るギリギリまで悩んだけど、これだと思える贈り物が見付からず……諦め半分でペンとメッセージカードを手に取った。

そして走り書きのように慌てて書かれた文字は――……『一日何でも言うことを利く券』。

とても子供っぽくて手抜きっぽいけど、他に何も浮かばなかったのだから仕方がない。
とにかくこれで、一日目一杯小間使いとしてこき使ってもらおう。僕はそう思った。

一応これだけだと心許ないので、行く前に花屋によって小さな花束を買った。
匂いが刺激にならないように、お店の人にあまり匂いのしない花を選んでもらって。

その小さな花束にプレゼントのメッセージカードを仕込んで、おめでとうの言葉と一緒に、僕は出迎えられた玄関で貴方に向かって差し出した。

恐る恐る貴方の反応を伺っていたら、貴方は少し驚いてからありがとうと言って受け取ってくれた。

少し照れたような貴方の微笑みを見たら、あれこれ悩んでいたのが少し馬鹿らしく感じた。


(良かった。こんなプレゼントでも喜んで貰えて……)


部屋の中には、ちょっとだけ豪華な食事と飲み物。
それと映画のDVDが数本用意されていて、こき使ってもらうはずが逆にもてなされてしまった。


(あれ?プレゼントの券、使わないのかな???)


貴方は自分がしたい事に僕を付き合わせているだけだと言ったけど、僕は納得できなくて……とにかく何かさせて欲しいとお願いしまくった。


「うーん、そうだねぇ……じゃあ、またごっこ遊びでもする?」


そしたら貴方は少し考えて、そう提案してきた。


「八木さんの誕生日にごっこ遊び、ですか?」


僕は思わず首を軽く傾げてしまった。
既に今日は半分ごっこ遊びみたいな状態になっていたし、僕じゃあるまいし、そんな事がお祝いになるなんてとてもじゃないけど思えなかったので。


「うん。嫌かな?」

「?……別に構いませんけど、何でわざわざごっこ遊びなんですか?」

「おじさん急にごっこ遊びがしたくなったんだから良いでしょ!理由なんて!!」


力説する貴方の、血色の悪い頬がほんのり紅く染まっていて、それを眺めていたら、釣られて僕の頬も赤くなった。


「ほらほらもっとこっちおいで!ごっこ遊びなんだから」


DVDを観るために、ローテーブルの前のラグの上にペタンと座り込んでいた僕は、貴方に腕を引かれるがまま、ソファーに座る貴方の膝の上に移動させられた。

ごっこ遊びの時は、貴方との距離が物理的にとても近くなるので、嬉しいけど凄く恥ずかしい。

直ぐ近くで感じる温もりと気配。香るフレグランスと貴方の匂い。

まるで貴方が僕だけのものになったような錯覚に、僕は一時だけの幸せな夢を見る。
凄く嬉しくて幸せなのに、それ以上に切なくて、悲しくて、寂しい独り善がりで虚しい夢を見る。

でも、貴方が大好きだから、僕はその夢を見る事を止められない。
貴方にとってはただの遊びで、懐いている弟子に対するご褒美くらいの認識でしかないと分かっていても。


「ん?どしたの?このDVD詰まんなかった?」

「……いえ、ちょっとボーッとしてました。『幸せ』だなぁって」

「HAHAHA、相変わらず少女は欲が無いなぁ。でもまぁ、私も幸せかな」

「そうなんですか?」

「そりゃーそうだよ!いままでは忙しくてこんなにゆっくり自分の誕生日を過ごした事はなかったからね」

「なら良かったです」


貴方はしみじみするように、少し強めに僕の身体を抱きしめ微笑んだ。

顔にかかる貴方の長めの前髪が擽ったかったけど、それすらも僕は幸せに感じた。

僕の感じている幸せと貴方の感じている幸せの種類が違っていたとしても、僕とこうしている事で、少しでも貴方が幸せを感じてくれているのなら、嬉しいと思った。

貴方の誕生日のごっこ遊びは、いつもよりたくさん抱きしめられたり抱きしめ返したり、頭を撫でられまくったりした。

主に貴方からの激しく濃いスキンシップの嵐に僕は少し戸惑い、そして飼猫か飼い犬のような気分になったけど、貴方がとても楽しそうだったから、僕はおとなしくなされるがままになった。

もちろん最後はそのまま押し倒されて、エッチな事も一杯した。というかさせられた?

何となくだけど、僕は八木さんに愛玩動物的な何かだと思われているのではないかと思った。

この日密かに浮かんだ疑問を、後日相澤先生に打つけてみたら、確かに一種の愛玩だろうなと、呆れた口調で肯定された。

僕と貴方の関係を示す単語は、『ヒーロとファン』。『師匠と弟子』。『教師と生徒』。
だけど貴方の誕生日以降、そこに新しく、『飼い主(?)と愛玩動物(?)』という単語が加わった。

だけどやっぱり他人に聞かれて答えられるのは、『教師と生徒』という関係だけだった。

だけど僕が保健室に運ばれれば、貴方は担任の相澤先生よりも早く僕の様子を見に来てくれた。息を切らせ、額には汗を浮かべて。

貴方が僕を心配してくれる理由が、OFAの継承者だからだと分かっていても、それが嬉しかったから……別に関係なんて何でも良いやって、思えた。

貴方を心配させて、不安にさせて、なのにそれを嬉しいと思うなんて……僕は何て悪い弟子なのだろう。

ほんの一時でも、貴方の関心が僕に向いている。貴方を感じて、貴方の側に居られる。

その事が、個性(OFA)を授けられたことよりも嬉しいなんて……貴方には絶対に言えないなと思った。


 
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