ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-009



扉を開けたら少し窶れた貴方が、ちょっぴり泣きそうな顔で立っていた。
ビックリした僕が貴方の名前を呼ぼうとしたら、それより早く貴方の腕が伸びてきて、少し強い力で覆い被さるように抱きつかれた。

久し振りに貴方会えて、貴方に抱きしめてられて、嬉しくてドキドキしたけど、様子が奇怪しい貴方に少しだけ眉を潜めて僕は問いかけた。何か遭ったのかと。


「……や、八木さん?どうしたんですか?」

「んっ……」

「具合悪いんですか!?」

「ごめんね。何か色々あって……緑谷少女に会ったら気が抜けちゃったぜ。HAHAHA」


そお言う貴方の顔色は、少し悪くてうっすらと隈が浮かんでいた。


「とりあえずいまは、もう少しだけ抱きしめさせてくれない?」

「僕で良ければ……いくらでもどうぞ!」


そんな事で貴方が元気になれるなんて、本気で思ってないけど、少しでも気分が良くなるならと、僕は貴方に抱きつかれたまま両手を左右に広げた。


「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて……よっと!!」

「はへぇ?」


すると貴方は破顔一笑し、僕を片手で抱え上げた。

そして素早く反対側の手で扉を閉めると、そのまま僕から靴も鞄も取り上げて、真っ直ぐ寝室に向かった。


(あ、これエッチな流れだ……!)


貴方の行動の意味だとか、この後の展開だとかを察した僕の顔は、恥ずかしさで熱いくらいに赤くなった。

そして一度も床に下ろされることもなく、僕はベットの上へと下ろされた。
貴方と向かい合い、貴方の膝の上に抱きかかえられながら。

始めはギュウギュウに抱きしめられて、おでこやほっぺに触れるだけの口付けをたくさんされた。

それが一段落したら、次は中途半端に服を脱がされかけた状態で、ひたすら貴方の大きな掌で身体を弄られた。やっぱり貴方に抱きしめられたままで。

首筋や鎖骨付近に、顔を擦り付けられたり軽く口付けられたり甘噛されたり……貴方は何かを確認するように、僕の身体に触れていた。それこそ髪の先っぽから、爪先まで。

始めは全然意味が分からなかったけど、耳元で、ポツリと聞こえた言葉で、貴方が僕の何を確認していたのかを暫く理解できた。


「またこんなに怪我して、聞いたよ?無茶しちゃ駄目って言ったでしょ」


今日会った瞬間からずっと、貴方は僕の無事を確認していたんだ。僕が無事だったという、実感が欲しかったんだ。

僕の事を、それだけ心配してくれていたんだ。


「……ごめんなさい、八木さん」


貴方に心配されてた事が嬉しくて、貴方に心配をかけた自分が不甲斐なくて、涙がジワリと滲んできた。

やがて包帯や傷パッドの上をなぞり出した貴方の指先は、その下の怪我を労るみたいに優しくて、少しこそばゆかった。


「身体が動いちゃうのはもうどうしようもないけどさぁ、怪我はしないでよ。おじさん心配で心配で寿命が縮んじゃうじゃない」

「八木さんはおじさんじゃありません!でも、八木さんの寿命が縮んじゃうのは嫌なので、できるだけ善処はします!」

「……うん。そうしてね」


少し弱々しい貴方からのお願いに、僕がそう返すと、貴方はホッとしたように緩く微笑んだ。

そして僕の頬に手を添えて、顔を上向かせると、覗き込むようにジッと視線を一度合わせてから、優しく優しく口付けてきた。

肉薄で弾力がある、薄っすらと湿った感触が押し当てられた唇から広がる幸福感。

それをもっともっと感じたくて……肌と肌が触れ合う合間に交わす会話は自然と減っていき、代わりに増える荒い息遣いと羞恥心を煽る水音。

身体の奥から止めどなく溢れ出てくる、熱くて切ない想いの雫が、肌を伝って貴方の指先を濡らして行く。

ゴツゴツと骨ばっている、貴方の長い指に体内を弄られ、下腹部に全神経が集中したような錯覚に、ギュッと力がこもり頭の中が痺れてボンヤリとして行く。

僕も貴方に触れたくて、快楽の合間に腕を伸ばすけど、貴方に触れるのが怖くて……結局僕の腕は空を切って、指先を掠めた布の感触に縋り付く。


(……八木さん)


幸せなのに、嬉しいのに、その中に潜む物悲しさに、僕はギュッと瞼を閉じた。

しばらくそうして貴方に身を任せていると、突然ビチャリという音と共に、生暖かい液体が僕の胸から腹部にかけて浴びせられた。
瞬間的に鼻を掠めた血腥い臭いに、貴方が吐血したのだと理解した。


「や、八木さん!?」

「……ご、ごめん。ちょっと昨日寝てなくて……だ、大丈夫だから、ちょっとたんまね!(ヤバイ、興奮し過ぎた!)」

「え!?寝てないって……こんな事してる場合じゃないじゃないですか!?」

「え、だって……(したかったって言うか、したいんだけど……)」

「だってじゃないですよ!もう、ここは僕が片付けるんで、早く口洗いで来てください!!」

「え゛ぇー……」


僕がそう言うと、貴方は青白い顔をしたまま若干拗ねたように唸ったが、僕は構わずベットから貴方を追い出し洗面台へと向かわせた。

そしてそれと同時に、僕はベットサイドに置いてあったティッシュを掴むと、ザッと身体に付いた吐血の跡を拭い、クローゼットから新しいシーツを取り出し、汚れたシーツと取り替えた。

血の付いたシーツは直ぐに洗濯ををしないと染みになってしまう。汚れたシーツを抱えた僕は、そのままの格好でパタパタと部屋の中を移動して、貴方と入れ違いで洗濯機が置いてある脱衣所を目指した。


「これでよし!っと。改めて見ると、僕いま凄い格好だなぁ……」


シーツを洗濯機に放り込んで、洗濯・乾燥のボタンを押せば、後は勝手に洗濯機の方で洗って乾かしてくれる。ホッとして自身の格好を見下ろせば、中途半端に身体に引っかかっている下着やシャツが何とも言えないみっともなさだった。

とりあえず、ずり落ちているシャツを羽織直して寝室に戻ると、気落ちした貴方が少し気不味げにこちらを伺っていた。


「……えっと、ありがとう。でもって、本当にごめん!もう大丈夫だから続きを……」

「何言ってるんですか?今日は僕もう帰るんで、ゆっくり休んでください!残ってる話しはまた学校で昼休みにでも……」

「え!?それは、ちょっと……」

「だって、八木さん体調良くないですよね?何か窶れてるし……」

「でもほら、途中だし……私のせいで中断しちゃったけど、おじさん最後までしたいなーって……久しぶりなんだし……」

「八木さんはおじさんじゃありません!って言うか、そんな事よりも、自分の身体を大切にしてくださいよ!」

「いやいやいやいやいや、それは少女には言われたくないぜ!!」

「ん゛ぅー!!そうかもしれませんけど、いまは吐血した八木さんの方が大事にしなくちゃいけないと思いますぅ!!」

「吐血なんていまさらでしょ!?それにホラ!私のコレ、見てよ!!このままじゃ中途半端過ぎて、休むに休めないぜ!?」

「う゛っ……!!」


まるで駄々を捏ねている子供の言い争いだ。

貴方が指で指し示した先は……所謂そおいう行為に使う身体の一部で……元気一杯という程ではないが、それなりにしっかり主張しており……確かにこのままだとちょっと辛そうではあった。

だけど貴方の顔色はお世辞にも良いとは言えない。僕はしばらく思量した結果、ある一つの行動を取ることにした。

とても恥ずかしくて、勇気が要ることだったが、まぁ仕方がない。いつかはしようと思っていた事だしと、僕は覚悟を決めて貴方を見た。


「……分かりました。なら、僕がしますから、八木さんはおとなしくしててください!!(……でもやっぱり恥ずかしぃ!!)」

「……え!?少女がするって……はっ?」

「恥ずかしいんで目、瞑っててください!!後、実践するのは始めてなんで、多分下手ですよ」

「っちょ、緑谷少女何する気!?」


僕はベットに腰掛ける貴方の足の間にしゃがみ込むと、目の前のソレに手を伸ばし、軽く握り締めるとゆっくりと上下に動かし始めた。

そして思い切って、その先端を口の中に含んだ。

貴方が何か奇声を上げていたが、多分気にしたら負けだ。勢いが削がれたら、恥ずかしくて続けられない。

僕はとにかくこの行為に集中し、一生懸命ネットで得た知識をなぞった。

数分後。何とか貴方の欲は身体の外へと排出された。


「あのさ、一応念のため聞くけどさ……どこでこんな事覚えたの?おじさんまだ教えてないよね?」

「えっと……峰田くんに聞いて、後ネットで色々調べてやり方覚えました!」

「…………!!!?(相澤くんぅう゛ぅ!!1-Aの保健体育と性教育どうなってるのぉ!?)」

「とりあえず男性は出せばスッキリして元気になるからって、この方法なら男性は気持ち良いだけで疲れないからって……」

「間違っちゃいないけど、そうじゃないんだよ!ん゛ぅぅぅー……それだけじゃないんだよ……気持ちとか過程が大事であってだねぇ……」

「……駄目、でしたか?僕じゃ……気持良くありませんでしたか?」

「駄目じゃないよ!?気持ち良かったよ?凄く興奮したよ?でもね、そうじゃなくてね……出す事だけが全てじゃないからね!?そこんところだけは、ちゃんと訂正して!!お願いだから」


僕の肩を掴んで、前後にガクガクと身体を揺らす貴方は、青いのに赤い顔をしていて、ちょっぴり涙目だった。後、とても必死そうだった。

けど、貴方の言っている事が、僕には良く分からなかった。


「とりあえず、さっきのこと(吐血)もあるから、君一旦シャワー浴びてきなさいね。顔からなにから、(私の体液で)ちょっと凄いことになってるから……(ハァ……)」

「……はい」


シャワーを浴びて戻ると、貴方はベットの上に倒れこむようにして眠っていた。
どうやら欲を出した後の気怠さと徹夜の影響で、眠気が一気に出てきてしまったようだ。

濃くはないが、薄っすらと浮かぶ隈に、いまだ青白いままの顔色。
思わず確認したくなるほどに弱い寝息。

僕が近付いてもピクリともしない貴方の身体に、ズキリと感じた弱い胸の痛みは、寝てしまった貴方に対する落胆からなのか、貴方がこのまま目覚めないかもしれない不安からなのか……。


「……このままじゃ、風邪ひいちゃうよね」


僕はベットに乗り上げて、大きな貴方の身体を引っ張り移動させると、掛け布団の中へと押し込んだ。
結構強い力で揺さぶられたのに、それでも深い眠りに落ちている貴方が起きる事はなかったから、それだけ疲れていたのだと思う。

ステインの事。
僕の個性の事。
轟親子の事。

グラントリノの事以外にも、たくさんたくさん貴方に話したい事や聞いて欲しい事があったけど、全然話し足りなかったけど……こんな風に眠る貴方を見ていたら、仮に貴方がいま起きてくれても、何も話せないなと思った。

貴方に、これ以上迷惑はかけられない。かけてはいけないと思った。
僕が貴方にかける負担は、できる限り減らさなければと思った。

でも、きっと僕はそれらを一人では抱えきれない。
一人では処理しきれないそれらを、どうすべきなのか……どうする事が正解なのか、いまの僕には分からない。

いまはただ、人形のように眠る貴方の事だけが気掛かりだった。

僕はベットの横に腰を下ろすと、シーツと掛け布団の間に腕を潜り込ませ、眠る貴方の掌に自らの掌を重ねた。

意識がなく力の抜けた指先は、僕が握りしめても無反応で少し切ない。

でも、貴方が眠っているから、貴方の意識がないから……僕は怯えることなく貴方に触れる事ができる。

一方的に繋いだ掌から感じる、少し低い温もりに、僕は祈りを込める。

この温もりが消えないように。
少しでも長く、僕が貴方の側に居られるように。居させて貰えるように。

物音一つしない静かな室内に、忘れていた僕の疲労が一日ぶりに戻ってきて、僕はそのままベットに凭れるようにそっと瞼を閉じた。


(そう言えば、僕も殆ど寝てなかったな)


身体の奥から溢れるように込み上げてくる熱は、寝入り時特有の体温上昇なのか強い疲労感からなのか、区別は付かなかったが、僕の意識はその熱に引き摺られるように深く深く落ちて行った。


 
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