ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-010



休み明けの教室は、研修先での話しで持ち切りだった。

その中で、僕と飯田くんと焦凍くんの三人は、教室の隅で顔を付き合わせて、少しだけおとなしくしていた。僕達が研修最終日に遭遇した事件は最低限の内容以外は他言禁止とされていたので、聞かれても詳しい事は何も答える事ができなかったので。

ただ幸いだったのは、警察という単語を出すと、興味があってもそれ以上追求される事がなかった事だろうか。流石はヒーロー科である。普通の学校の普通科だったなら、その程度で引き下がってはくれないだろう。

まぁ、その変わりのように、僕と轟……焦凍くんの互いの呼び方が変わっている事に関して、かなりあれこれ言われたのだが……ヒーロー殺しに遭遇した事を思えば、それも些細な事と受け流す事ができた。例え終始かっちゃんの機嫌が悪くて、かっちゃんの起こす小爆発の音が鳴り止まなかったとしても。

そして予想はしていたが、焦凍くんの過保護っぷりが加速していた。
休み時間に僕の席に寄ってくるだけでなく、授業中に視線を感じる事もしばしば……。

焦凍くんは飯田くんとは違ったタイプだけど、やっぱり根が真面目なので、きっとステインの言葉を必要以上に重く捉えてしまっているのだろう。

あの時。ステインは確かに僕を『守れ』と言ったが、そんなに必死になって守らなければならないような価値が僕にあるとは思えない。

貴方から譲渡されたOFAの事をステインが知っていたのなら、話しは少し変わってくるが……どうやらそうではないようなので、いくら考えても意味が分からない。

そもそも僕は、四歳の時にちゃんと医療機関で無個性の診断を受けている。レントゲンで関節の数まで確認したのだから、その診断が誤診だったとは考えにくい。

だけどステインは、僕だけでなくかっちゃんの事も知っている風だった。
となると、ステインの発言には信憑性が出てくる。


――無個性の暗示。


暗示で個性を封じ込めるなんて事が、可能なのだろうか?聞いた事がないが……。


(後で相澤先生にでも聞いてみようかな)


もしステインの言っていた事が全て真実だとしたら、何故僕は無個性と診断されたのだろうか?関節の数は?OFAでもないのに、隠さなければいけない個性とは一体――……。

一人で悶々と悩んでいたら、僕は放課後貴方に呼び出された。大事な話しがあるからと。

下手したらトイレにまで付いて来そうな焦凍くんを何とか先にトレーニング室に向かわせ、僕は人目を忍んで仮眠室で待つ貴方の元へと向かった。

何だかいつもと雰囲気の違う貴方に、緊張感を感じた僕は思わず一歩後退り、心の中で首を傾げた。

研修の成果を披露した実習で褒められ高揚していた気持ちが、わずかに沈む。一体何を言われるのかと。

向かい合い、用意されていたお茶を前に、貴方が言いづらそうに語り出した話しの内容は、僕が貴方から譲渡された個性――OFAの発祥とそれに纏わる宿敵AFOに関するものだった。

まるで都市伝説か何かを聞かされているような、現実味のない内容だったが、実際に貴方からOFAを譲渡されているので、僕は比較的すんなりとその内容を受け止める事ができたと思う。


――たった一人の男の歪んだ欲望から始まった、一組の兄弟の拗れた因縁。


それが全ての始まりで、現在(いま)に続く『悪意』に纏わる物語の真相。


「本来なら、これらの話しを全てした上で、OFAの譲渡は行われなければならなかったのだが…………すまない。私は君にOFAの譲渡を持ちかけた時、この話しを意図的に避けてしまった。君に譲渡選択の大事な判断材料を与えなかった」

「そう何ですか?」

「あぁ、せっかく見付けた後継者を失いたくなくてね。私は焦っていたんだよ、緑谷少女」

「焦っていた?何にですか?」

「前継承者としての残り時間の短さ、怪我の影響で短くなって行く活動時間の限界に……だから私は君の意思を無視して、無断でAFOとの因縁を押し付けてしまったんだ」

「そうだったんですか……」

「これは一種の契約違反だ。だから君が嫌だと言うのならば、一度OFAを返上してくれても構わない」


苦しげに、意を決したように告げられた内容に、僕は息を呑んだ。

元々、万が一の時は貴方に返上する事も考えていたので、その申し出は意外でもなんでもなかった。

ただ、自分から申し出るのと貴方から言われるのとでは、受ける衝撃が違ったというだけで……。


「そう、ですね……元々貴方は雄英で後継者を探すつもりだったんですもんね」


双方一口も減らないローテブルの上のお茶の表面を見つめながら、自虐的な笑みが口元に浮かぶ。


「緑谷少女?」

「選択肢が僕以外にもできれば、僕である必要はありませんもんね。貴方の気持ちが変わったとしても、それは自然な事だと思います」

「何を……」

「いつまで経っても、OFAをコントロールできない役立たずの僕なんかよりも、もっと相応しい人に譲渡した方が良いに決まってますもんね」

「私は別に、そおいうつもりで話しをしたのではないぞ!?確かに焦っていたのは認めるが、だからといって誰でも良かったわけじゃない!!君だから、君ならばと思ったから、私は君に決めたんだ!!それは本当だ、信じてくれ!!」

「……けど、AFOの話しを聞く限り、継承者にはより強い個性が求められている。そうですよね?OFAは、決して無個性の僕が受け継いで良い個性ではない」


視線を上げ伺い見れば、分かりやすく動揺する貴方の顔が見えた。


「それは、その通りなのだが……だが、私は君が良い!!始めにちゃんと話さなかった事は謝る!だから、お願いだからどうかそんな事は言わないでくれ!!」


なのに貴方は、声を荒げ僕の考えを強く否定した。


「さっきは返上してくれても構わないと言ったが、別にそれを望んでいるわけじゃないんだ!!ただ、全てを知った上で、今一度継承の是非を問いたいだけで」

「……はい」


貴方に否定してもらえた事が嬉しいのに、大好きな貴方の言葉なのに……ちっとも心に響かない。空気を掴むみたいに実感がなくて、酷く他人事のような感じがした。

やっぱり僕は僕が貴方の後継者である事に納得しきれなくて、返す返事は弱く力ないものだった。


「君は自己評価が低く自分を卑下し過ぎる。悪い癖だ(ハァ……)」


そう言われても、僕には僕の良さも価値も何も分からない。
否定されるだけの人生だったから。


「後継の話しとは別に、それは治さなければ君のために良くない。時間がかかっても良いから、治して行かねばね」


貴方は困ったような泣きそうな顔で口元に笑みを浮かべると、そう言ってローテブル越しに腕を伸ばし、僕の頭を少し乱暴に撫でた。


「大丈夫。私が側に居るから……君は君のペースで変わって行けばいい。AFOの事だって、動き出したと言っても、直ぐにどうこうというわけではないだろうから、そんなに焦る必要はない!君はちゃんと成長している」


貴方の優しさが、心遣いが切なくて苦しい。


「今日の演習だって、研修前とは見違えるようだったじゃないか!だから自信を持ち給え!不安になる事は何もない」


貴方の言葉を素直にそのまま受け取ることができない、捻くれた自分が――僕は嫌いだ。


「……ありがとう、ございます。後、先走ってしまってすみませんでした」


ぎこちない笑みを浮かべ、紡ぐ言葉は上辺だけのもので、全然ちっとも納得なんてできなくて泣きそうになったけど、必死に堪えた。


「えっと、それで、僕で良いのなら……そのぉ、これからも一生懸命頑張るので、宜しくお願いします」


そして続けた言葉に嘘はない。
僕なんかで良いのなら、僕はいくらでも頑張るし頑張れる。


「ありがとう、緑谷少女!!私が不甲斐なかったばかりに、君には重い物を背負わせてしまうが、できる限りサポートはして行くつもりだから、そこは安心してくれて!」


僕が頑張る事で、貴方が笑ってくれるのなら、貴方が側に居てくれるのなら、きっと何だってできる気がした。ただ、信じられないだけで……。


「……はい!貴方(平和の象徴)の後を継ぐのだから、大変なのは始めから分かっていたし覚悟していた事なので……それは別に何も問題ありません!」


胸の中に燻ぶる黒い感情に蓋をするように、僕が胸の前で小さくガッツポーズをすると、目を細めた貴方がホッとしたように緩く微笑んだ。

だから大丈夫。
信じられなくても、夢を見続ける事はできるから……。



  
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