ヒロアカ
□ごっこ遊び(ver.出)
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■ごっこ遊び(ver.出)-011
いまさら『個性』がある――と言われても、驚き困惑するだけで素直に喜ぶなんて事はできなかった。
そもそも個性があると言われても、現段階では情況証拠しかないので、実感なんてこれっぽっちもなくて、半信半疑の感が拭えない。
それでも貴方に、日常生活でそれらしい事があったら直ぐに連絡するよう言われていたので、少しだけ気を付けて過ごしていた。
と言っても、個性が何なのか分からない状態なので、何に気を付ければ良いのか分からないのだけど……。
次の授業の準備をしていた手を止めて、ぼんやりと考え込むように、僕は前の席のかっちゃんの背中を凝視した。
ステインはかっちゃんを知っていた。
だからきっとかっちゃんは、『何』かを知っている。
知らなかったとしても、かっちゃんと幼い頃の話しをすれば、僕の記憶が刺激されて、何か思い出せるかもしれない。
でも、常に不機嫌で僕を威嚇してくるかっちゃん相手に、何て話しかければよいのか分からなかった。
「デクちゃん最近元気ないけどどうかしたん?」
「お茶子ちゃん」
「何か妙に爆豪くんの事気にしてるみたいやし、何かあったん?」
「別にそおいうわけじゃないんだけどね。ちょっと昔の事が気になってて、かっちゃんと昔話がしたいなーなんて……」
「あぁ、二人は幼馴染だっけ。確かにたまにそーゆー気分になる時あるよね」
「うん。だけどかっちゃん、昔話嫌いだから……」
そうなのだ。なぜだかかっちゃんは、昔から昔話が嫌いなのだ。特に僕が無個性と診断された前辺りの話しが。
「ひとの後ろでゴチャゴチャうるせぇんだよ!黙れモブ共が、爆発するぞ!!」
僕達の話し声に聞き耳を立てていたかっちゃんの我慢が許容量を越えたようで、かっちゃんは掌で威嚇爆発をしながら振り返り叫んだ。
許容量を越えるのがいつもより早いような気がするのは、間違いなく、昔話という単語が出てきたからだろう。
「相変わらず爆豪は唐突に切れるな」
「本当だよねぇ〜、切れるタイミングも意味不明だし!(大体はパターン化してるけどね)」
「爆豪くんは、カリュシュウムが足りていないのではないか?」
僕ほどではないが、かっちゃんの短気(?)に慣れてきたお茶子ちゃんに飯田くん、焦凍くんの反応は、多少は驚くものの至って冷静だった。
それがまた、一段とかっちゃんの機嫌を悪くさせるのだが……。
というか、せっかく相澤先生がくじ引きで席替えをしてくれたのに、何で僕の席はまたかっちゃんの真後ろなのだろうか。自分で自分のくじ運の悪さが恨めしい。
(この席になった時の、クラスメイトと相澤先生の顔が忘れられないや)
そしてなんやかんやと言い合いをしていると、授業開始のチャイムが鳴り、騒ぎは自然収束。それぞれ自分の席へと戻って行った。
だけどかっちゃんは椅子の背もたれを掴んだまま、先生が来るまで僕の事を無言で睨み付けていた。
まるで言いたい事を我慢しているような、何かに耐えているような、そんな感じで。
「……かっちゃん?」
「ッチ!!クソが……ガキの頃の事なんて気にしてんじゃねーよ」
椅子に座りながら、ぼそりと呟かれた言葉はとても小さく聞き取り難く、そして弱々しかった。
何かに怯えるように僕を拒絶するのに、目の前の背中は、決して僕の前から居なくならない。僕から遠ざからない。
不機嫌そうに眉間の皺を深くしては暴言を吐き、周囲を蹴散らし僕を威嚇するのに、僕が離れて行く事を良しとしない。
(何でなんだろう……?)
気が付けばいつも、僕の側にはかっちゃんが居る。
穴が空くほどに僕の事を睨みつけながら……一定の距離を保ちつつ、苦しげに、悲しげに、ただ側に立っている。
そんな表情(かお)をするくらいならば、僕の側になんて居なければいいのに……。
苛立ちの中に見え隠れする矛盾に、僕の中の疑問と違和感が日毎大きくなる。
なのに僕は、それをかっちゃんに問う事ができない。
いまいち授業に集中できないまま迎えた昼休み。
なるべくかっちゃんを視界に収めないように、僕はいつものメンバーで食事をしていた。
少し離れた場所から、突き刺さるように向けられた強い視線に気付かないふりをしながら。
「焦凍くんは今日もお蕎麦なんだね」
「あぁ。蕎麦、好きだからな」
「そういえば焦凍くん家の行きつけのお蕎麦屋さん、凄く美味しかったよね」
「……ならまた行くか?」
「そうだね。その時は、飯田くんやお茶子ちゃんも一緒にどうかな?」
僕がそう話しをふると、飯田くんもお茶子ちゃんも興味ありげに頷いたので、そのうち皆で行く事になった。
こんな風に、友達とご飯を食べに行く口約束をした事がなかったから、それだけで僕は嬉しくなって、少しだけ気分が紛れた。
「っていうか、デクちゃん何で轟くん家のいきつけのお蕎麦屋さんなんて知ってるん?しかも一緒に行ったっぽいしぃ!何で何で!?凄く気になるんだけど聞いてもいい?」
「あぁ、うん。ちょっと色々あって、研修後に焦凍くんと少し話してから帰ったんだけど、その時連れてって貰ったんだ」
「へぇー……そうなんだ」
僕が少し暈して説明していると、コクコクと頷いていた焦凍くんの前に座っていた飯田くんが、思い出したようにグラントリノの事を聞いてきた。
「そういえば、緑谷くん。あれからあの時の小柄なヒーローとは連絡を取り合ったりしているのか?」
「小柄な……グラントリノ?うん。メル友みたいな感じで、結構マメにやり取りしているよ」
「……メル友」
「何か僕の学校生活とかが気になるんだってぇ。あ!良かったら皆の写真撮って送っても良いかな?」
「それは構わないが、なぜ俺達の写真を?」
「せっかくだから、友達としてちゃんと紹介したくて……駄目かな?」
「確かに、あの時はバタバタしていてまともに自己紹介もできていなかったからな。そういう事なら、こちらからも是非お願いするよ」
「ありがとう!!飯田くん。焦凍くんとお茶子ちゃんも良いかな?」
少し不安げにお願いすると、二人共一つ返事でOKしてくれた。
その場で数枚、携帯電話を取り出し撮影していたら、それに気付いた他のクラスメイト達も加わって、ちょっとした撮影会のようになった。
事情を話したら、マスコミじゃないからと相澤先生も写真を撮らせてくれたので、八木さんの写真と一緒にグラントリに送ってみた。
予想通り、どちらも教師らしくないと返事が返ってきた事は、二人には内緒だ。