ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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病院には、研修先の管理責任者であるグラントリノが迎えに来てくれた。


「色々ありがとうございました。発想のご教授と組手のぶっ続けで、何とかヒーロー殺し相手にも動く事ができました」

「ワシはただ基礎のなっとらん小娘を叩きのめしてただけじゃ!感謝されるような事はしとらん」

「いえ!そんなご謙遜を……」

「まぁ、お前さんのマッサージは気持ち良かったからな、どうしてもと言うなら、またさせてやらん事もないが」

「はい!!また来ます!」

「楽しみにしないで待っとるから、あんまり怪我ばっかりするんじゃないぞ!ワシは怪我人にマッサージさせる趣味はないからな!!」

「はい!」

「ん!分かったらさっさと帰って身体を休めんかい!今日は学校は休みなんじゃろ(俊典も返事は良かったんだよなぁ。返事は……結局無茶する癖は治らなかったがな)」

「……はい。それでは本当にありがとうございました」


グラントリノは僕が規則違反をしてしまったので、これから半年間は教育権が剥奪されるらしい。が、もともと教育者になりたかったわけではないので、何も問題はないらしい。

だから気にするなと言われたが、それでもやっぱり申し訳ない気持ちになってしまう。


「っとに、いつまでも湿気た面してるんじゃない。ヒーローを目指すんなら、笑え!小娘」


口は少し悪いしぶっきらぼうだけど、グラントリノは優しくて、やっぱり少し貴方に似ていた。

グラントリノと別れて駅へと向かう道すがら、携帯電話の着信をチェックするが、貴方からの連絡は何も無かった。


(規則違反をしたから、怒ってるのかな……)


別に、貴方から連絡がないのなら自分からすれば良いだけなのだが、少し間が空いたりすると、途端に連絡しづらくなってしまう。貴方の反応が怖くて。

何となく帰りたくないなと思っていると、轟くんから電話が来て、轟くんのお父さんのエンデヴァーと会う事になった。


「疲れているところすまない。帰る前にどうしても、緑谷と少し話しがしたくて……」

「別にそれは構わないんだけど……(チラリ)」


僕は轟くん家の行きつけだというお蕎麦屋さんの個室で、轟くんと並んで座り、現役No.2ヒーローのエンデヴァーと向き合っていた。


「えっと、その……それで、お話っていうのは……」

「正直俺はお前が『生かす価値のある者』だとは思えん。個性はオールマイトと似ているが、それだけだ」

「はい」

「だが、奴は言った。俺達が贋物でないのなら、そんなお前を守ってみせろと、敵だけでなく他のヒーロー達からも……」

「それは……」

「奴の真意は分からんが、これはあの場に居合わせたプロヒーロー達に対する奴からの挑戦状だと俺は思っている。だから納得できないが、お前を守ってやる」

「ほへぇ!?」

「学校では、その……焦凍が世話になってるようだしな(ポソッ)」


僕はビックリして隣の轟くんを振り返った。
轟くんも少し驚いていたが、無言でコクコクと頷かれた。


「この件がアイツ(オールマイト)預かり(グラントリノの提案)というのが気に食わんが、何かあったら気にせず連絡してこい!これが俺の個人的な連絡先だ……」


そう言って差し出されたのは、携帯電話の電話番号とメールアドレスが記された一枚のメモ用紙だった。


「ただし!くれぐれも俺の連絡先はアイツ(オールマイト)には教えるなよ!!後が面倒臭いから」

「は、はい!ありがとうございます」


どうやらエンデヴァーは、言葉選びが少し下手な、色々と不器用な人のようだ。
で、ある意味正直な人なんだと思う。

轟くんのお母さんと、強い子供が欲しくて個性婚したというのは本当なのだろうが、家族間が拗れた原因は多分――これが原因なんじゃないだろうかと、僕は思った。

後、微妙に自分中心なものの考え方とか、少し強引なところとか……親子だけあって、轟くんとよく似ているなと思った。


「それでだな、緑谷」

「ん?」

「お前ずっと俺の事『轟』って苗字で呼んでるだろう?」

「うん。轟くんは轟くんだからね」

「で、そうなると今後俺も親父も轟でややっこしいから、俺の事は下の名前で呼んでくれないか」

「はっ?」


轟くんは、僕の右手を両手で握り締め、とても真面目な顔でそうお願いしてきた。


「……別に、構わないけど」

「よし!なら交換条件として、俺もお前の事は『出久』と下の名前で呼ぼう。ほら、これなら公平だろう?」

「……そ、そうだね」


轟くんは無駄にイケメンなのでちょっと迫力があって怖かったので、僕は若干後ずさってしまったが、僕が後ずさるとそのまま轟くんもついてきて……やっぱりちょっと怖かった。

轟くんのお父さん、エンデヴァー改『轟炎司(とどろきえんじ)』さんは、そんな僕達を見て、無言でコクコクと首を縦に振っていた。


(あ、やっぱり轟く……焦凍くんのお父さんだ)


その後、部屋に運ばれてきたお蕎麦を食べて、そのまま轟親子に車で自宅まで送って貰った。

そして焦凍くんが下校時僕を自宅まで送る事が、ある意味親公認でデフォになってしまった。

慣れない恥ずかしさと申し訳無さで困っていたら、貴方から会いたいと連絡が入り、現金な僕は何かもうどうでも良くなってしまった。

きっと休み明けから色々と騒ぎになるのだろうが、いまはそれよりも――……貴方の事で頭が一杯だった。


  
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