ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.出)
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和らいだ部屋の空気に、どちらともなく冷めたお茶に手を伸ばし、少し格好を崩したが、貴方の表情はまだ少し硬い。


「えっと、お話しは以上でしょうか?トレーニング室に焦凍くんを待たせているので、そろそろ向かわないと、焦凍くんが迎えに来ちゃいそうなんですが……」


真面目な話しが終わったのなら、少しは貴方と雑談でもしたいところではあるが、それなりに進んだ時計の針に、やる気モードの焦凍くんの事が気になって、内心僕は少し焦った。


「………そう言えば緑谷少女。君何で轟少年の呼び方変わってるの?研修前は普通に『轟くん』って呼んでたよね?おじさん結構気になってたんだけど、理由聞いてもい?」

「はい。実はヒーロー殺しの一件で、焦凍くんのお父さんの炎司さんと個人的な知り合いになりまして、二人共同じ轟なので、その、区別のために……」

「え?轟少年のお父さんって、エンデヴァーだよね?個人的な知り合いっていうか、エンデヴァーの事も名前呼びなのぉお!?」

「はい。何か流れでそうなりました」


心なしか貴方の機嫌が悪くなり、そしてかなり驚かれたが、何か問題だったのだろうか?

炎司さんは随分と貴方の事を意識しているようだったので、仲が悪いとか?

僕は首を傾げながら、そう言えば、僕は貴方の交友関係を殆ど知らなかったなと思った。

否、交友関係だけじゃなくて、貴方の私的な事は殆ど何も知らない。

貴方が敢えてそおいう話題を避けているのだと気付いたのは、貴方と出会ってわりかし直ぐの頃だった。

好きな人の事だから、貴方の事は何でも知りたかったが、尋ねる度に笑って逸らかされてしまうので、自然と僕は何も尋ねなくなった。

付き合いの長さもあるのだろうが、多分それが、貴方なりの僕との距離の取り方なのだろ。


――一向に縮まらないその距離が、寂しくて悲しい。


「あー……ゴホン。そうなんだ……うん、分かった。できればそのヒーロー殺しの件についても話しがしたいんだけど、話しの途中で迎えに来られるとちょっと困るから、今日はもうトレーニング室には行かないって連絡してもらっても良いかな?」


僕は言われるがままに、携帯電話を取り出し、ポチポチと焦凍くんに連絡を入れた。できればこれで今日の送迎が無しになってくれないかという期待を込めて。


「グラントリノから聞いたんだけど、君ヒーロー殺し――ステインに助けられたんだってね。その事に関して、君の方に何か心当たりはある?」

「いえ、ありません。ステインは僕の事を知っている風だったんですけど、僕には覚えがなくて」

「うーん。じゃあやっぱり、ステインが言っていた『無個性の暗示』についても心当たりはないのかな?」

「はい。そもそも僕は無個性ですし、何が何やらサッパリで……」

「あー、うん。その事なんだけどね、どうも君、無個性じゃないみたいなんだよね」

「…………え?」


個性の発現を確認できていないので断言はできないが、かなり高い確率でそれは確定事項なのだと貴方は言った。

それだけの、情況証拠が揃っているのだと。

その証拠の一つが、僕の両足の小指の第二関節の存在の有無らしい。


「多分君、自分じゃ気付いてないだろうから、ちょっとこっちおいで」


僕は手招きされるままに、貴方の座っていたソファーの方へと移動し、背後から貴方に抱きかかえられるようにしてソファーの上へと乗り上げ足を肘当ての方へと投げ出した。

分かりやすいようにと、スカートを捲り上げられ、タイツを片足だけ脱がされ、貴方に足先を探るように掴まれた。

ちょっとだけ、貴方との行為を思い出してしまって、一人で恥ずかしくなった。


「ほら、ここ。自分でも触ってご覧。第二関節が失くなっているから」


言われるがまま、貴方の指先が少し強めに押さえている箇所に自分の指先を這わせると……確かに、在るはずの第二関節が失くなっていた。

僕が驚き混乱していると、貴方は僕の関節に纏わる推測を話して聞かせてくれた。掴んだままの僕の足をムニムニと揉みながら。

関節の偽造と同時に施されたと思われる『無個性の暗示』がどういったものなのかは分からないから、それが解けているのかいないのか――ハッキリした事は分からないが、関節が元の状態に戻ったという事は、いずれそう時間を置かずに僕の個性は判明するだろうと貴方は言った。

ただ、暗示で個性を完全に消す事は不可能なので、いままでにも知らずに個性を発現させていた可能性が高く、いままでに身の回りで変わった事はなかったかと問われたが、ステインの事と言い、僕にはまったくその現象に心当たりがなかった。


「うーん。ここまで厳重に隠すくらいだから、それなりに強力な個性だとは思うんだけどねぇ。にしては、いままで誰も何も気付かなかったってのも変な話しなんだよねぇ」


OFAの譲渡前だったなら、専門の機関で調べる事もできたのにと、悪くもないのにゴメンねと謝る貴方の声が、少し沈んでていて申し訳なくなった。

せめて僕に、当時の記憶が残っていれば何か分かったかもしれないのだが……僕の記憶は、一部欠けている。

それは、幼少期に近所の公園で遭遇したある個性絡みの事故の前後で、事故のショックからなのか綺麗に切り取られたみたいに失くなっているのだ。
かっちゃんがいつも側に居たという事は覚えているのだが……。

まぁ、普通に考えて、一般的に物心が付く前の事なので、覚えている事の方が稀といえば稀なのかもしれないが、普通よりも記憶力が強い僕からすれば、それは不自然で違和感でしかなかった。

だからもし、僕とステインの間で何かが遭ったのなら、その頃で間違いないと思う。

思い出せない過去に思いを馳せる僕の脳裏を過るは、挨拶一つまともに交わせなくなって久しい幼馴染の顔。


(かっちゃんなら、何か覚えてるかな?)


会話の途切れた室内に響く秒針の針の音を聞きながら、僕達はただそのままくっついていた。背中とお腹で感じる体温に、そっと瞼を閉じて、それぞれの思考に深く沈む意識は近くて遠い。

どのくらいそうしていただろうか……。

グルグルしていた気持ちと思考が落ち着いて来て、ちょっぴり甘くなった雰囲気に離れがたいなと思っていたら……突然ノックも無しに、相澤先生が仮眠室に入ってきた。凄い形相で。

そして、ほぼ同時にポケットの中で震え出した携帯電話。僕が出るまで鳴り止む気配のないコール相手は、トレーニングを終えたらしい焦凍くんだった。

何でも教室に寄ってみたら僕の鞄がまだあったから、残っているのならやっぱり今日も送るからと……送ってくれなくても良いのに。

その後貴方を拘束した相澤先生に、服装を直すように注意され、ベットの仕切り用カーテンの中へと押し込まれた。

そして僕の鞄片手に僕を迎えに来た焦凍くんに僕は差し出され、帰路についた。


  
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