ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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■ごっこ遊び(ver.オル)-002



そして四月。
無事受験を終えた少女は、念願だった私の母校、雄英高校に通うことになった。

少女が合格通知を手に私に報告に来てくれた時、私は飛びっきりの秘密を打ち明けるように、四月から同じ雄英高校で教師をするのだと告げた。

すると少女は、自分の合格発表の時よりも驚き、そして喜んだ。目に涙を浮かべて。

少女はよく泣く。
感情表現が素直で感受性が強いので。

自分の感情を素直に表現したり、他人の感情に寄り添える事は良い事だ。

だけどヒーローを目指すのならば、その癖は治さなければいけない。敵に漬け込まれてしまうから。

それに私の後を継ぐのならば、現場では常に笑顔でいなくてはいけない。
なんてったって私は、『平和の象徴オールマイト』なのだから。

私はそう言って、少女が泣くたびに諭す。優しく言い含めるよう。
少女の頬を伝う涙を、指先で拭ってやりながら。

私と少女の関係は、個性を譲渡した日を境に変わったが、元々あった関係はそのままなので、甘やかす時とそうでない時の区別はちゃんとしなければいけない。

私には、少女をりっぱなヒーローにする責任がある。後継者として、少女を育てあげる義務がある。

それだけは常に、胸に留めて置かなければならない。OFAの前継承者として。

雄英高校のヒーロー科は一学年二組。
組は入試の成績順で振り分けられる。

少女は推薦枠ではなく一般入試だったのだが、入試でそこそこの成績を修めたので、私が副担任として担当するA組になった。

手渡された組名簿の中に、少女の名前を見つけた私は、思わずその場でニヤけてしまい、同僚の教員達に不審がられてしまった。

少女と同じ組には、あの時敵に襲われていた少年も居た。
少年の名前は『爆豪勝己(ばくごうかつき)』。個性は爆発で、少女とは家が近所の幼馴染らしい。

なので幼い頃はよく一緒に遊んだりしていたらしいのだが、二人は典型的な『苛められっ子』と『苛めっ子』だった。
幼い頃に限って言えば、比較的よくある話しだ。

だが、二人はその関係のまま育った。

その要因の一つは、二人の育った周囲の環境だ。

爆豪少年は昔から、気に入らない事があったり思い通りにならない時は、全て個性の爆発を使って周囲を従わせて来たらしい(母親は除く)。

爆豪少年の我が儘や傍若無人っぷりを、爆豪少年の個性に屈した周囲が許容してきたのだ。

そしてそんな周囲の対応は、そのまま爆豪少年の人格形成に反映され、爆豪少年は見事なまでの『俺様王様勝己様』な性格に育ってしまった。

これは問題だ。否、現在進行形で、いままさにメチャクチャ問題になっている。主に素行面で。

なんせ雄英高校のヒーロー科に在籍する者は、ヒーローを目指すだけあって肝が座っている。基本的に気が強い。
その上爆豪少年の個性が爆発でも、それに対抗できる個性を持つ者も居る。

故に誰も爆豪少年に従わない。媚びへつらわない。

いままでとはまったく違う周囲の対応に、爆豪少年は戸惑い常に不機嫌だ。もはやそれが通常運転になっている。
ちょっぴり情緒不安定なところは高校生らしが、不安定になるたび少女に当たり散らすのはいただけない。

あぁ、少女の性格のマイナス部分を主に形成したのは、爆豪少年だったんだなと、私は少女から爆豪少年の話しを聞いていてしみじみ思った。

そう言えば、少女が志望校を決める時も、自分と同じ雄英は絶対に受けるなと、少女が脅されていた話しをしていた事があった。


「僕が言うこと聞かなかった上に、同じ組になったから、かっちゃんはずっと機嫌が悪いのかな……」


少女の解釈は間違ってはいないだろうが、多分正解でもない。

だって爆豪少年が不機嫌なのは、爆豪少年の性格のせいなのだから。

私がそう言っても、心優しい少女は爆豪少年の事を気にかけ心配する。現在進行形で八つ当たりで苛められているのに……。


(おじさん、ちょっと妬いちゃうよ)


少女と爆豪少年が幼馴染だったということは、当然爆豪少年は少女が無個性だった事を知っていることになる。

一般的には、個性は四歳までの幼少期に発現する。

だが希に、その発現期を過ぎてから個性が発現するケースが有る。

だから私から個性(OFA)を譲渡された少女も、表向きはそういう事にしている。

が、爆豪少年はそれに納得していないようだ。
少女がずっと個性を隠していたと思い込んでいるようだ。

幼い頃からヒーローに憧れ、ヒーローになりたいと公言していた少女が、そんな無意味な事をするわけがないのに、幼馴染の爆豪少年なら誰よりもその事を知っているだろうに……。

とはいえ、受け継いだ個性に関しては他言禁止。継承の仕組みが他人に知られれば、かなり危険な事になってしまう。

だから例え相手が親であったとしても、この事は絶対に秘密にしなければならない。

必然的に爆豪少年に秘密を持つ事になってしまった少女は、爆豪少年に対して後ろめたさのようなものを感じている。

だから余計に、少女は爆豪少年に苛められても強く出られないのだろう。

少女の個性(OFA)の秘密は明かせないが、私は何とかしてあげたいと思う。

話しは戻るが、周囲が皆、爆豪少年に従っていた小学校・中学校時代。周囲は爆豪少年に同調する形で少女を苛めていた。

だが、雄英に来て爆豪少年の支配力が無くなると、少女も普通に周囲に受け入れられ、爆豪少年に邪魔される事なく友達を作る事ができた。

初めてクラスに友達ができた時。少女は嬉しそうにハニカミながら、私にその事を報告してくれた。

だから私は、少女に良かったねと言って頭を撫でてあげた。

だけど内心、ちょっぴり切なくなった。少女のいままでを思って。

少女の担任で私の同僚の相澤くんのヒーロー名は、『イレイザー・ヘッド』と言う。
私ほどではないが、相澤くんはヒーロー時と素の時のギャップがなかなか激しいヒーローだ。
その上メディア嫌いで殆どメディアに出てこないので、素の状態で出歩いていると、一般人どころか敵にも気付いてもらえない。

しかしヒーローオタクを自称する少女は、相澤くんが首に下げているゴーグルを見ただけで、その正体を見抜いてしまった。本当に凄いよね、そおいう所。


「案外、ヒーロー時と素の時の姿が異なる人は多いんだよ。プライベートでヒーローと知れてしまうと、それはそれで面倒事になるからね。使い分けているんだよ」

「へー、そうなんですか(コクコク)」

「っま、彼(相澤先生)の場合はただの性格なんだけどね。後マスコミ嫌い」


そんな話しを、少女を仮眠室に呼び出し頻繁にしていたら、相澤くんに怒られてしまった。

一人だけ特別扱いするなだとか、授業に関係ないヒーローの裏話はするなだとか、教員用の施設に生徒を連れ込むなだとか、正論の嵐で。


「随分と緑谷と親しいみたいですが、入学前からの知り合いなんですか?」

「うん。大体もう直ぐ出会って一年くらいになるかな?」

「接点が見当たらないんですが……緑谷はオールマイトの熱狂的なファンらしいので、ヤッパリその関係ですか?」

「そうだね。出会いはとある敵との遭遇だったんだよ!それで何やかんやあってさ、まぁ、今に至ると言うわけさ!」

「それ、説明になってませんよね」


OFAが絡んでいるので、説明を濁らせたら、相澤くんの私を見る目が少し冷たくなった。


「っま、まぁ良いじゃない。細かい事は!」

「……貴方(オールマイト)がその姿(トゥルーフォーム)を緑谷に晒してる時点で、全然細かい事じゃないんですけどね」

「う゛……!」

「っま、それは緑谷が他言しなければ別に問題ないので良いんですけどね」

「あ、それは絶対大丈夫だから。そーゆー事、言い触らす子じゃないから、緑谷少女」

「確かに、緑谷はそうですよね。オールマイトと知り合いだったのに、教室でオールマイトのファンだと公言しても、オールマイトと知り合いだとは一言も口にしていない」

「でしょう?基本的に約束や言いつけはちゃんと守る子なんだよ」

「だから問題は貴方なんですよ!オールマイトさん!!」

「ん?どゆ事かな?相澤くん」

「節度を守れって事ですよ!」

「えぇ〜!守ってるから私、外ではあんまり緑谷少女に構わないように努力してるんだよ。だから学校で会う時はちゃんとここ(仮眠室)だし」

「ここ(仮眠室)でも守れよ!つーかそもそも呼び出すなよ!ただの知り合いなら」

「えぇ〜嫌だよ!折角緑谷少女が雄英受かったんだから、もっと会う回数増やしたいじゃん!」

「増やしたいじゃんって、アンタら付き合いたてのカップルか何か何ですか?(ギロリ)」


私は思わず、相澤くんの台詞に固まってしまった。

師弟関係がバレるのも拙いが、そちらの関係がバレるのも拙い。何でって、トゥルーフォームの時の私の見た目って、自分で言うのもあれだけど結構怪しいから、少女と並ぶと犯罪臭いんだよね。

それに何より私と少女の年齢差が離れ過ぎている上に、少女がまだ未成年だから……法律的に多分絶対アウトなんだよね。

などと内心焦って固まっていたら、相澤くんに肯定と取られてしまった。


「え?…………ちょっと待って下さい!?嘘ですよね!?いくら緑谷がオールマイトのファンだからって、緑谷まだ十五ですよ!十五!年の差有り過ぎじゃないですか!?」


相澤くんは気だるさをどこかに置き忘れたように、一気にまくし立てた。

充血している相澤くんのドライアイが見開かれてて、ちょっと怖いが、そんな事言ってる場合じゃない。どうしよう…………私、詰んだかも。


「バレたらどうするんですか!?アンタ教師としてもヒーローとしてもアウトですよ!!分かってるんですか!?」

「…………いや、うん……分かってる、よ?」

「なら何で……」

「始めはそんなつもりなかったんだよ、全然。けどねぇ……会うたび会うたびおっきなっ目をキラキラさせて、雀斑ホッペタ赤くさせてさ、全身から大好きオーラ出されてたら、こっちも意識しちゃうじゃん?」

「貴方そーゆー職業なんですから慣れてるでしょ、そーゆー反応。何新人みたいな事言ってるんですか」

「確かにオールマイトとしてなら慣れてるけどさ、変わらなかったんだよね。緑谷少女」

「変わらなかった?」

「うん。このトゥルーフォームを見てもさ、幻滅なんてちっともしなかったんだ。で、どっちの私も私だから、両方共大好きって言われてさ……段々と私の中で緑谷少女の存在が大きくなっちゃったんだよねぇ」

「それで手ぇ出したんですか?大好きつったって、それはヒーローとしてでしょう?普通に考えて」

「そうなんだけどさ、触れたくなっちゃったんだよね。少しでいいから……勿論緑谷少女が嫌がったら、それ以上する気も無理強いする気もなかったんだよ!(欲には負けたけど……)」

「責任転嫁ですか、まだ未成年で子供の緑谷のせいにするんですか、いい大人なのに」

「そおいうつもりじゃないんだけど、まぁそれで嫌がられなかったんで、もうちょっとだけもうちょっとだけって思ってたら、生で最後までしちゃったんだよね。夕暮れ時の浜辺で(テレ)」

「っはぁ゛あ゛!?アンタいま何つった!?ナチュラルボーンヒーロー何してる!?清廉潔白どこ落として来たぁあ!?」

「…………うん。悪かったと思ってる。だから二回目からはちゃんと私の部屋で避妊もしてる!」

「ちげぇよ!!そーゆー事じゃねーよ!!」


うっかり余計な事まで喋ってしまった私は、ブチ切れて敵落ちしかけた相澤くんに、死ぬほど制裁された。


「……別れる気は、無いんですよね?」

「うん。私の方はね。でも、正直緑谷少女の方は分からないかな……」

「貴方と違って緑谷はまだ若いですからねぇ」

「うん。それにほら、活動限界の事もあるからね、いつまでヒーロー続けてられるか分かんないから、将来の見立てがねぇ……(健康面的な意味で)」

「まぁ、ヒーロー止めたらただの虚弱体質のおっさんですからね貴方。可能性はありますね。緑谷は極度のヒーローオタクですから」

「……お願い、怖い事言わないで、相澤くん。それ、洒落にならない懸念事項だからね!!」 


とりあえず相澤くんには、私が遊びや一時の気の迷いで少女と関係を持ったわけでない事だけは、吐血しながら必死に説明したら理解してもらえた。多分。

そして渋々ではあるが、黙認してくれることになった。


「ただし絶対にバレないで下さいよ!?面倒事はご免なんで」


それから相澤くんは、面倒臭そうにしつつも、誰にも言えない私と少女の話しを聞いてくれるようになった。少女に何かあると、真っ先に私に教えてくれるようになった。


「見なかった事にするだけで、俺は認めた訳じゃありませんからね。共犯者にもなりませんからね!」

「それでもありがとう、相澤くん」

「緑谷を説得して絶対別れさせるんで、そのつもりで!別に貴方の名声とか功績とか関係ありませから!」


相澤くんは口が悪くて素直じゃないけど、とても良い奴だった。


 
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