ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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■ごっこ遊び(ver.オル)-005



少しだけ気不味かった休み明け。
気不味さを気にする暇もなく、私は体育祭を観戦していたプロヒーローやその事務所から寄せられた生徒の個人評価。それに伴い名乗りを上げた職業体験先一覧の束に目を通していた。

今年の一年生は教師の贔屓目を抜きにして見ても、かなり粒ぞろいなので、その束もかなり分厚い。

特に成績上位者や活用性の高い個性の生徒には、就職の内々定のような打診も数多く来ているので、その安全性などの下調べも一苦労である。

自分の時も、こんな風に裏で教師達がてんやわんやだったのかと思うと、感慨深いものがあった。

ただ残念ながら、準決勝で大怪我をしてしまった少女の評価は低かった。

体育祭中、他に少女ほど大怪我を負った生徒がいなかった事もあり、少女はリスク管理ができていない未熟者と判断されてしまったのだ。

少女の捨て身の戦いがあったから、轟少年の心は救われたのだが、それは当人同士にしか分からぬ事なので、評価対象にはならなかったのだ。


(思ってたよりもこれは、歯痒いな)


勿論、現段階の評価が全てではない。
少女はまだ一年生なのだし、卒業後、ヒーローデビューしてからでも評価を覆す事は十分可能だ。

だが、あまりにも評価されな過ぎというのも本人のやる気が削がれてしまうので、ある程度の評価は欲しいところである。

せめてこの職業体験先で、少しでも少女の自信に繋がる評価が得られれば良いのだが……私(オールマイト)のコネが使えないので、なかなかそれも難しいだろう。

この一覧の中からいまの少女に合いそうで、なおかつ少女の本質を評価してくれそうな所を、私はさり気なくリストアップすると、同僚教師に見つからないようにメモ用紙に書き記した。

しかし私がこのメモを少女に渡す事はなかった。

私がメモを渡すタイミングを見計らっているうちに、プロからの逆指名が少女に入ったのだ。

職業体験先の提出期限ギリギリに、少女を逆指名してきたプロヒーローの名は『グラントリノ』。
私の嘗ての恩師で、先代の盟友だった古き時代のヒーローだった。

恐らく体育祭での映像を見て、私の指導不足に居ても立ってもいられなかったのだろう。

恩師の名を見た瞬間。脳裏を駆ける、学生時代の辛く過酷な修行の日々。
いま思い出しても恐ろしい。動揺して、マッスルフォームになってしまう程に。

だが、OFAを継承した少女を預ける預け先としては、これ以上にないくらい相応しく信頼できる相手でもある。

放課後にはまだ少し時間が早かったが、私は直ぐさまこの逆指名の事を、少女に伝えるべく少女の教室へと駆け付けた。

授業中だった相澤くんには怒られてしまったが、もう殆ど授業が終了していた事と、私が駆け付けた理由が逆指名に関する事だったので、呆れながらも大目に見てもらえた。

その後、恩師が現役を退いてからすっかり疎遠になっていた私は、数年ぶりに自ら恩師に連絡を入れた。

少女を後継者に選んだ経緯と、少女の中に眠る可能性と希望。
現在の少女の状態その他諸々を伝えるために。

案の定恩師には、全然連絡をしなかった事。最近の無茶振り、いかに自分が指導者として至らないかなどを、延々と説教されてしまったが、私もその倍は少女の事を惚気けたのでお相子だろう。

惚気け過ぎて、少女がただの後継者でない事に気付かれてしまったようだが、そこは大人のマナーとして敢えてスルーされた。

ただ、手にした小さな電子機器越しに恩師の纏う空気が変わった瞬間、浮かれていた私のテンションは急降下し、脂汗が吹き出した。直接顔を会わせて話しをしていたら、多分かなりヤバかったと思う。

恩師が雄英高校で教師をしていたのは、私の担任をしていた一年間だけだったが、それから何年経っても恩師はやっぱり恩師で、尊敬と感謝の念を持ってはいるが、いまだ私にとっては恐怖の対象でしかなかった。


「大丈夫だとは思うけど、緑谷少女、あの人に変な事吹き込まないといいなぁ……(ハァ)」


できればあまり、修行時代のみっともない話しはしないで欲しいなと思った。


 
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