ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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■ごっこ遊び(ver.オル)-007



残念ながら、少女はまだ学生なのでお泊まりはできなかったが、ひたすら少女と戯れイチャイチャしまくった休み明け。周囲が引くレベルで私の機嫌は良かった。ついでに体調も、朝から無駄にマッスルフォームになってしまうレベルで良かった。


「アホみたいに上機嫌ですね、オールマイトさん。気持ち悪いですよ」

「あ!相澤くんおはよう!!」

「……おはようございます(ギロリ)」

「聞いてくれる?緑谷少女ってば誕生日プレゼントに何くれたと思う!?」

「……」

「なんと手作り!!それも『一日何でも言うことを利く券』!!」

「手作りって、それ……」

「一生懸命悩んだ末にそれをチョイスするセンスが可愛いよねぇ!!相澤くんもそう思うだろう!?」

「俺は……」

「少女はすぐに使って欲しそうにしてたんだけどね、いやぁ〜勿体なくて使えないよねぇ」

「つーか朝からマッスルフォームって、時間制限付きのくせに何無駄遣いしてるんですか」

「いやぁ〜嬉しくて嬉しくて、どうにも気持ちが抑えられなくてね、HAHAHA……」


そこまで話して、私はふと気付いた。

そういえば、今日に限らず少女と会った後は体調が良い事が多いような気がする。
特にイチャイチャした後なんかは、心無しかマッスルフォームの継続時間が長いような……以前も思ったが、やはりこれはプラシーボ効果という奴なのだろうか?


(あれ?そういえば、最近吐血の回数が減ったような……???)


何となく気になって、私は最近の自分の体調の変化について思い返してみた。

周囲が慣れただけだと思っていたが、顔色の悪さを指摘される回数が減った。
内臓の凭れよりも、空腹を感じることが増えた。
間食用のお菓子の減りや、疲労感の回復が早くなった。

何より短くなる一方だった活動時間が春先から停滞気味で、安定してきている。


(奇怪しいな?私の身体は衰えて行く一方のはずなのたが……)


少し気になったのでリカバリーガールの所へ行って話しをしてみたら、なんと僅かだが体重が増えていた。


「うわぁー、全然気が付かなかったぜ!?」

「奇怪しいねぇ?見た目は特別変化してないんだけど、何で体重が増えてるんだか……お前さんの場合、基本的に減ることはあっても増えることは稀なんだが……」


袖を捲り上げ、すっかり筋肉が痩せ細り、棒切れのようになってしまった自身の腕を見ながら、私もリカバリーガールと一緒に首を傾げた。 


「お前さん、本当に自分で心当たりは無いのかい?」

「えぇ、ありませんね」

「何か悪い個性にかかってるわけじゃなさそうだから心配は要らないだろうが、原因が分からないのは少し気味が悪いね」

「……緑谷少女と居ると気分が良いことが多いので、プラシーボ効果ですかね?」

「にしたって限度ってもんがあるだろ。まぁいい、少し日常生活を意識的に観察してみて、何かあったらまたおいで」


そう言われ、意識して日常生活を送ってみると……やっぱりこれといって変わった事は何も無かった。

以前と明らかに違う事といえば、教師になったので現場に出る回数が減ったくらいで、後は――……。


「あぁオールマイトさん。丁度良かった」

「ん?何かな?相澤くん」

「緑谷の奴、今日から放課後はトレーニング室でトレーニングするらしいですよ」

「え……?」

「くれぐれも様子を見に行く時は気を付けて下さいね。トレーニング室内には他の生徒も居るんですから」

「……あぁ、そうだね。気を付けるよ」


確かに雄英高校のヒーロー科には専用のトレーニング室がある。

だか、少女が個人的なトレーニングでそのトレーニング室を使用した事は、入学してからいままで一度もなかった。

もっぱら少女のトレーニングは、私が始めに指定した海浜公園だった。


(急にどうしたのだろうか?)


気になって、直接本人に話しを聞いてみるかと携帯電話を取り出すと、既に少女から一言、相澤くんから伝えられたのと同じ主旨の連絡が入っていた。


「ねぇ、相澤くん」

「何ですか?」

「それって緑谷少女一人なの?」

「今日のところそのようですが、明日以降は分かりませんね」

「そう……」


何も報告がないよりは良いのだが、なぜ事前に何も言ってくれなかったのだろうかと私は思った。

狭量な私はモヤモヤが治まらず、放課後、トレーニング終わりの少女を待ち伏せて、それとなく詳細を聞き出すことにした。


「疲れてるところごめんね。ちょっと気になっちゃって」

「いえ、全然平気です!僕なんかより八木さんの方がお疲れなんじゃ……」

「ん、私は大丈夫だよ。今日は授業も少なかったからね」


自分のことよりもまず、私の体調を気遣ってくれる少女の優しさに、毒気を抜かれる気分だった。

遅い時間帯だったが、学校近辺は人目があるので手は繋げなかったが、私と少女は並んで駅までの道を歩いた。

道すがら少女から聞いた話しを総合すると、少女が急にトレーニング場所を変えたのは、私の身体を気遣ってのことだった。

海風は身体に良くないからと、私をそこから遠ざけたかったらしい。

私はただトレーニングに励む少女の傍らで、その様子を見守り、時たま声をかけていただけなので、全然負担になど感じていなかったのだが、不法投棄も無くなり海浜公園に拘る理由がなくなった現在(いま)、私を気遣う少女にはそれがとても心苦しいらしい。

だが、学校のトレーニング室を使用するとなると、相澤くんに注意された通り、私は頻繁に少女の様子を見に行くことはできない。
マッスルフォームに余力がある時は良いが、それ以外の時は……。

それに、他の生徒の手前、少女にばかり構うわけにはいかないので、必然的に交わす言葉も少なくなるだろう。


(それは、ちょっとどころでなく寂しいから嫌だなぁ……)


でも、だからといって、師匠の私が少女の足を引っ張るような我儘は言えないので、私は私の思いを表に出さずに飲み込んだ。

別に、昼休みや休日まで会えなくなるわけでもなかったので。

だが、寂しさを感じつつも、穏やかな気持で頑張る少女を見守っていられたのも、始めの数日だけだった。
少女の行動に感化されたクラスメイト達が、日に日に増え、少女の側に特定のクラスメイトの姿が当たり前のように寄り添うようになると、私の心は寂しさの他に、疎外感や独占欲を感じ出した。

『その場所は、私の居場所なのに』と、大人気なくも思う私が、居た。

そのせいか、私の部屋で少女と会う時は、会話よりも触れ合う事を優先してしまいがちになった。
限られた時間の中で、慌ただしく打つけられる欲を、少女が拒まないのを良い事に……。

少女がトレーニング室を使用する時間は日に日に長くなり、少し注意をしなければと思っていたある日。
最終下校時刻間際のトレーニング室には、少女と轟少年の二人だけが残っていた。

二人は見回りの相澤くんに小言と共に下校を促されると、慌ただしく身支度を整え、揃ってトレーニング室を後にした。


「……緑谷、家遠いのか?」

「あー、うん。でも電車で一時間くらいだからそんなに遠くないよ」

「いや、それ十分遠いから」

「そうかな?」

「いまからだと家着くの十時過ぎるだろう」

「うん」

「女の子なのに危ないだろう。そんな時間に一人で帰宅してたら」

「別に平気だよ?僕、可愛くないから」

「そんな事は……とりあえず今日は俺が送って行くから、明日からは相澤先生じゃないが、もう少し早めに切り上げよう」

「えぇー!?別にいいよ!一人で帰れるし」

「駄目だ。何か遭ってからじゃ遅い!」


物陰から、少女に声をかけるタイミングを伺っていた私が、そんな二人の遣り取りを耳にしたのは不可抗力だった。


(うん。危ないから、私が送って行こうと思ったんだけどね……)


何となく、声をかけずらくなった私は直ぐさま場所を移動させ、校舎の窓から下校する二人の姿を眺めていた。

少女は、轟少年に手を引かれ歩いていた。
誰の目も憚らずに。

私の視線に気付いたのか、校門の手前で少女が立ち止まり一度こちらを振り返ったが、轟少年に何かを言われ、直ぐにその視線は逸れてしまった。

少女と視線が合わなかった事を残念に思いながらも、醜く嫉妬に歪んだ顔を見られなくて良かったと思った。

轟少年が体育祭以降、少女に特別な感情を抱き始めている事には、遠巻きながらに気付いていた。
気付いていたが、轟少年と親しくなれた、友達になれたと嬉しそうに語る少女に、私は距離を取れとも気を付けろとも言う事ができなかった。

身近な同世代といえば、殆ど幼馴染の爆豪少年としか交流のなかった少女は、『友』という存在に飢えていたから……。

否、それだけではない。私は気後れしていたのだ。
少女と並んで歩いていても違和感のない、少女と同い年の恋敵に……。

本当は直ぐにでも駆け寄って、繋いだ手を解かせたかった。
少女を抱き寄せて、私の物だと言いたかった。

でも――……できなかった。

悔しさと苛立ちが混ぜこぜになったまま、取り出した携帯電話の画面に浮かぶ、少女の連絡先に私は顔を顰めた。

この画面をタップしてしまったら、いま声を聞いてしまったら、感情のままに轟少年との事を問いただし、一方的に少女を責めてしまいそうだった。

迷った挙句、私は少女の帰宅に合わせてメッセージを一通送る事にした。

しかも、何度も何度も書きかけては消してを繰り返しようやく書き上がったそれは、いつも通りを装ってはいるものの酷く素っ気ないものだった。


(緑谷少女に変に思われてなければ良いんだけど……大丈夫、だよね?)


一人きりの部屋の中で吐き出された溜息は、思いのほか大きくて、情けないものだった。


  
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