ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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■ごっこ遊び(ver.オル)-010



久し振りに少女と長時間共に過ごしたせいか(殆ど私寝てたけど)、休み明けの私の身体はかなり軽かった。

何となく胸の辺りに違和感があったが、不快な感じではなかったので、そのまま午前中は職員室で書類仕事をしていた。


「昨日はアイツ(緑谷)と会ったんですか?」

「少しでも早く無事な姿を確認したくてね」

「念のためとはいえ、怪我して入院したのに無事も何もないでしょうが」

「それもそうなんだけさ、普通に心配だったからね。まぁ、途中で私が寝ちゃたからあんまり話しはできなかったんだけどさ、久し振りに(緑谷少女を)一杯補充できたぜ!」

「……無理、させてないでしょうね?(ジロリ)」

「……多分。でもよく昨日会ったって分かったね?」

「警察からの第一報が入った時の貴方、凄い取り乱しようでしたからね」

「う゛ぅ……」

「まぁ、予想が確信になったのは、今朝貴方に会ってからですけどね」

「?」

「アイツ(緑谷)と会った後の貴方は機嫌が良いだけじゃなくて、顔色も良いんで一発で分かるんですよ」

「え?端から見ても私ってそうなの?」

「はい。滅茶苦茶分かりやすいですよ」

「……そう、なんだ」


病は気からというが、他人から見てもそこまで顕著だったとは、少々驚いた。

しかしそうなると、気のせいではなく、少女と会った後は本当に体調が良くなっている可能性が高い。

もしや少女の個性による、何らかの効果だろうかとも思ったが、私と居る時の少女に個性使用の形跡らしきものは、いまのところ見受けられない。


「どうかしましたか?」

「うーうん。何でもないよ。あ、そうだ相澤くん!君のクラスの保健体育どうなってるの!?」

「はっ?」

「(緑谷少女に)悪影響があるからしっかりしてくれないと困るんだけど!!」


私は話しを逸らしがてら、峰田少年についての苦情を相澤くんに訴え、ひとまず会話を終了させた。

相澤くんは一瞬、何のことだから分からなかったようだが、直ぐにその内容を理解すると、私を睨みつけながら頭を抱えていた。色々察して、私と峰田くん。どちらに文句を言えば良いのか、ちょっと分からなくなったようだ。

私は相澤くんが何か言葉を発する前に、スーツの布越しに携帯電話を撫で、机に向き直した。

グラントリノのお零れで偶然手に入った少女とのツーショット写真は、速攻で携帯電話の待ち受けに設定した。いつでも気が向いた時に眺められるように。

だからといって、流石に職員室で取り出して眺めるわけにはいかなかったが、ポケットの中にそれがあるのかと思うと、自然と顔が緩んだ。

午後に研修の成果を見るために行われた実習では、大なり小なり生徒達は成長していて、指導のしがいがあった。

中でもOFAのコントロールを覚えた少女の成長は目覚しく、グラントリノには感謝してもしきれない。

ヒーロー殺しの話しを聞いた時は焦ったし心配もしたが、それも良い実践経験になった事だろう。私の寿命が縮みかけたが……。

だがおかげで私も、少女にOFAの事について全てを話す決意ができた。

仮眠室とはいえ、誰かに聞かれる可能性のある場所で話す内容ではなかったが、またタイミングを失ってずるずるとしてしまうよりはと思い、私は放課後少女を呼び出した。

何度もシュミレーションをしたというのに、内容が内容なだけに、緊張から顔が強張り、声のトーンも若干低くなってしまった。

私が先代から受け継ぎ、私から少女へと受け継がせた個性――『OFA』。

それは世界に個性が発現し始めた頃――超常黎明期に生まれた、一人の男が持つ個性が素となっている。

その男の個性は、いくつもの他人の個性を奪い体内にストックさせ、自在に操ることができるというものだった。

また、男は体内にストックした個性を、自分以外の他人に強制的に譲渡する事もできた。
男はその個性を使い、人々を束ね、従わせ、気が付けば悪の支配者となっていた。

しかし奪い、増え続けて行く個性の管理は大変で、中には不要な個性も多かったので、男は他人の肉体を倉庫代わりにする事にした。
男が倉庫代わりに選んだのは、正義感は強いが何の力もなく、無個性だと思われていた実の弟だった。

しかし一見無個性だと思われていた弟には、他人の個性を譲渡するという、それだけでは意味を成さない個性が備わっていた。

兄から与えられた『スック』の個性と、始めから持っていた『譲渡』の個性。
その二つが混ざり合い、OFAは生まれた。

そして代を重ねる毎に、それぞれの人物が持っていた身体能力が極まり一つに収束され、受け継がれる個性。それがOFAなのだ。

つまり、より強い個性を持つ者がOFAを継承すれば、その個性は何倍もの威力を持つことになる。


――兄の所業を止めさせたかった弟の『正義感』から生まれた個性。


故に、OFAを正義の個性で、他人の個性を奪い生きながらえ続けるAFOと、OFAを受け継ぐ者は、ずっと戦い続けてきた。AFOを倒す事を宿命とし。

けれど決着はなかなか付かず、時代だけが流れ、私の代でようやくAFOを追い詰め倒したと思っていたのだが、AFOは生きながらえ、再び人々(敵)を集め動き出してしまった。

OFAとAFOの戦いはまだ終わっていない。続いている。
私の次の代――少女へと持ち越されてしまった。


「八木さんのその身体の怪我は、その時のものだったんですね」


私の言葉に耳を傾け、静かに最後まで話しを聞いていた少女は、思いのほか落ち着いた声色でそう呟いた。切なげに眉を下げながら。

まるで都市伝説か何かを聞かされているような、現実味のない内容だったが、少女は自分が既にOFAを譲渡されているからか、比較的すんなりと私の話しを受け止め理解してくれた。


「本来なら、これらの話しを全てした上で、OFAの譲渡は行われなければならなかったのだが…………すまない。私は君にOFAの譲渡を持ちかけた時、この話しを意図的に避けてしまった。君に譲渡選択の大事な判断材料を与えなかった」

「そう何ですか?」

「あぁ、せっかく見付けた後継者を失いたくなくてね。私は焦っていたんだよ、緑谷少女」

「焦っていた?何にですか?」

「前継承者としての残り時間の短さ、怪我の影響で短くなって行く活動時間の限界に……だから私は君の意思を無視して、無断でAFOとの因縁を押し付けてしまったんだ」

「そうだったんですか……」

「これは一種の契約違反だ。だから君が嫌だと言うのならば、一度OFAを返上してくれても構わない」


しかしホッとしたのもの束の間。少女は私からの謝罪と提案を、悪い方に解釈してしまった。
私はただ、いままで秘密にしていた事に対する誠意を見せたかっただけなのに、少女はそれを私の心変わりと捉えたらしい。


「そう、ですね……元々貴方は雄英で後継者を探すつもりだったんですもんね」

「緑谷少女?」

「選択肢が僕以外にもできれば、僕である必要はありませんもんね。貴方の気持ちが変わったとしても、それは自然な事だと思います」

「何を……」

「いつまで経っても、OFAをコントロールできない役立たずの僕なんかよりも、もっと相応しい人に譲渡した方が良いに決まってますもんね」


口元は薄っすらと弧を描いているものの、緩く下がった眉に濡れた目は、傷付き悲しげだった。


「私は別に、そおいうつもりで話しをしたのではないぞ!?確かに焦っていたのは認めるが、だからといって誰でも良かったわけじゃない!!君だから、君ならばと思ったから、私は君に決めたんだ!!それは本当だ、信じてくれ!!」

「……けど、AFOの話しを聞く限り、継承者にはより強い個性が求められている。そうですよね?OFAは、決して無個性の僕が受け継いで良い個性ではない」


少女の言う事は正しい。
確かにそれは、譲渡先を決めるさいに重要視されるべき項目だ。


「それは、その通りなのだが……だが、私は君が良い!!始めにちゃんと話さなかった事は謝る!だから、お願いだからどうかそんな事は言わないでくれ!!」


だが、私だって無個性だったのだから、それは絶対ではない。

OFAを継ぐには、個性(力)が強いだけでは駄目なのだ。強い正義感が、誰よりもヒーローとしての資質が重要なのだ。


「さっきは返上してくれても構わないと言ったが、別にそれを望んでいるわけじゃないんだ!!ただ、全てを知った上で、今一度継承の是非を問いたいだけで」

「……はい」


慌てて少女の考えを否定するも、返された返事は弱く力ないものだった。
恐らく、納得はしていないのだろう。


「君は自己評価が低く自分を卑下し過ぎる。悪い癖だ(ハァ……)」


少女は誰よりも正義感があり、自己犠牲精神が強いのに、それらを上回るレベルで自己評価が低い。いっそ病的な程に。


「後継の話しとは別に、それは治さなければ君のために良くない。時間がかかっても良いから、治して行かねばね」


普段は馬鹿が付くくらい素直で前向きなのに、なぜか時々少女は全てを否定する。相手からの言葉を、向けられる思いを素直に受け取る事ができなくなる。

それはなぜなのか……。

私は困ったような泣きたいような気持ちになった。

それでも無理やり口元に笑みを浮かべると、ローテブル越しに腕を伸ばし、俯き気味の少女の頭を少し乱暴に撫でた。


「大丈夫。私が側に居るから……君は君のペースで変わって行けばいい。AFOの事だって、動き出したと言っても、直ぐにどうこうというわけではないだろうから、そんなに焦る必要はない!君はちゃんと成長している」


大丈夫。自信を持ってと励ますように。


「今日の演習だって、研修前とは見違えるようだったじゃないか!だから自信を持ち給え!不安になる事は何もない」

「……ありがとう、ございます。後、先走ってしまってすみませんでした。えっと、それで、僕で良いのなら……そのぉ、これからも一生懸命頑張るので、宜しくお願いします」

「ありがとう、緑谷少女!!私が不甲斐なかったばかりに、君には重い物を背負わせてしまうが、できる限りサポートはして行くつもりだから、そこは安心してくれて!」


以前よりは体調が良くなったような気がするといっても、この身体は酷くポンコツで、常に健康面には不安が付き纏っている。

ずっとなんて約束はできない。
いつまで側に居られるのかも分からない……。

それでも私は、できる限り側に居たい。居てあげたいと思った。
自身のこととなると、幼い迷子のように、弱く不安げな顔を見せる少女を残して、居なくなれないと思った。

せめて少女がいまよりも、自分自身に自信が持てるようになるまでは……。


「……はい!貴方(平和の象徴)の後を継ぐのだから、大変なのは始めから分かっていたし覚悟していた事なので……それは別に何も問題ありません!」


自信の無さから控えめに、胸の前で小さくガッツポーズをする少女は決して頼もしいとは言い難かったが、とても健気でいじらしかった。


――納得できなくても自信がなくとも、一度背負ったものを途中で投げ出さない。最後まで背負い続ける。


それは誰にでもできる事じゃないんだよ。
それができる君は、凄いんだよ。

君が納得できないのなら、私は何度でも君に言うよ。

他の誰でもない、君じゃないと私が嫌なんだと。
君だけが、私の後継者なのだと。

君がその言葉を信じられるようになるまで、何度でも何度でも、君に伝わるように……。



  
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