ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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■ごっこ遊び(ver.オル)-011



少女と轟少年の距離が近付いた理由は分かったし、事情があるので取り敢えずは納得してみせたが、本音を言えば気に食わなかった。自分以外の男が親しげに少女の側に居る事が。大人げないとは思うが、そう思うものは思うのだからしょうがない。


(私って、こんなに心狭かったんだなぁ……知らなかったよ)


少女は否定するが、世間一般的には立派なまごうことなきおじさんという年齢の自分には、それなりに恋愛経験がある。

なのに少女に関しては、その経験があまり活かせていないような気がする。

年齢差のせいなのか、自分の中で上手く処理できずに、気持ちを持て余す事が多い気がする。

少女に関しては、ヒーローオールマイトとしてよりも、八木俊典個人の感情を優先したくなる。

まだ自制が利いてはいるが、それが緩んでいる自覚がある。
拙いなとは思うが、そのまま箍が外れてもいいじゃないかとも思う。

少女と出会って惹かれて少しずつ、ヒーローという仮面の下にずっとしまい込んでいた本当の自分が表に出てきたような、そんな感じだ。

入れ替わるように、混ざり合うように、ゆっくりと新しい私が作られて行く。

存外それは気分の良いもので、できるものならばこのままゆっくりと変わりながら、ヒーローを引退できればと思うほどだ。多分それは、叶わないのだろうが。

ステインの一件以来、私は疎遠になっていたグラントリノと頻繁に連絡を取り合うようになった。

そうなると、毎回固定電話では少し不便なので、私も遅ればせながらグラントリノから新しい(携帯電話)連絡先を教えてもらった。

少女が言うように、グラントリノは携帯電話を普通に使いこなしているようで、重要な内容の時以外は、結構頻繁にメッセージを送って来る。

メッセージの内容は、何気ない日常の呟きと少女に関する事が殆どで、まるで初孫に浮かれているお爺ちゃんのようだった。

でも、グラントリノの方が私よりも少女の日常生活を詳しく知っているのが解せなかった。


(私、師匠で彼氏なのに。毎日顔会わせてるのに……)


どうやら少女はグラントリノにかなり懐いているようで、随分と気軽に色々な事を話しているようにだった。

その日食べた物から友達との雑談。
通学路で見かけた野良猫や空の色。
嬉しかった事に悲しかった事。

グラントリノが聞き上手というのもあるのだが、ちょっとした気持ちの変化や小さな悩み事まで、事細かに話しているのには少し驚いた。


(私にももっと、色々話してくれれば良いのに……)


私の知らない少女のあれやこれを、頭の上がらない恩師から知らされるのは、かなり複雑で悔しかった。

それでもやっぱり、例え又聞きでも少女の事を色々と知る事ができるのは嬉しかったので、グラントリノには感謝をしていた。


「それにしても、小娘の周りには将来有望そうなイケメンが多いな!なのに何で小娘はお前みたいな先の無いオッサンを選んだだろうな?HAHAHA!」


しかし少女から得た情報を使って、私を誂ったり精神攻撃を加えてくるのは止めてもらいたかった。ガッツリ心が抉られて、本気で凹むので。

性別の違いからなのか、少女が孫弟子のような存在だからなのか、グラントリノの私と少女に対する扱いに温度差を感じた。


(あ、この写真の緑谷少女可愛い。保存しとこ)


だけどグラントリノが自慢気に転送してくる少女の写真は、見慣れている少女の表情(顔)とは少し違っていて、何だかとても新鮮で見ていて楽しかった。

知っているようで知らなかった一面。
何気無い少女の日常や、友達と居る時の様子を、人伝とはいえ知ることができるようになったのは、私にとっては嬉しい誤算だった。


  
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