ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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軽く仮眠を取り、研修帰りの少女を迎えに行こうかと思っていると、いつの間にかメールが一通届いていた。

珍しさから直ぐに開いてみると、差出人はよくお世話になっている警察の塚内くんからだった。


『遅くなったが、頼まれていた例の件と思わしき事故の詳細を送る』


添付されていた資料には、幼い頃少女が遭遇したと思われる、公園でのある事故の詳細が記されていた。


「やっぱり、警察に事故の記録が残っていたか!」


少女の話しが事実――または事実に近いものならば、幼い子供が公園で設置してあった遊具によって足の指を切断したかもしれない事故ならば、管轄する警察署に何らかの記録に残っているはず。

その私の考えは当たっていた。

添付されていた資料によると、事故が起きたのはいまから十三年前。
人気の無い公園の大型遊具が突然複数大破。
偶々居合わせた幼い子供と男性がそれに巻き込まれたと言うものだった。

巻き込まれた子供は二人。一人が大破した遊具の下敷きになり、足の指を切断しかける大怪我をし、もう一人は無傷。男性はほぼ即死となっていた。

怪我をした子供は事故のショックで前後の記憶を失っており、詳細を知るのは無傷の子供一人だけ……その子供の証言から、事故当時現場にはもう一人の男性が居り、その男性の個性が暴走した末の不運な事故として片付けらた。

警察は個性を暴走させた男性を探したが、男性は直ぐに現場を立ち去り、子供も顔までは覚えていなかったのでその特定にはいたらなかったらしい。

資料には子供の性別は記されていなかったが、怪我をした子供とは少女の事で間違いないだろ。

そして一緒に居たという無傷の子供とは――いつも一緒に遊んで居たという、少女の幼馴染みの爆豪少年だ。

恐らくこの時、少女の関節は事故に見せかけて細工されたのだろう。少女を無個性と周囲に誤認識させるために、幼い爆豪少年の目の前で……。

そしてステインが言っていた『無個性の暗示』も、この時掛けられたのだろう。

現場から立ち去った男性は本当に一人だけだったのか、他にも関係者が居るのかは分からないが、この時立ち去った男性がステインである可能性は高い。


「爆豪少年は記憶を弄られたか、はたまた脅されて真相を黙したか……」


前者ならばお手上げだが、後者ならば話術次第で真相を聞き出すことが可能だ。

しかし残念ながら私にそこまでの話術はない。

正直手に余る。が、この件にあまり多くの人間を関わらせるのは危険な気がする。

ヒーロー殺しがここまで大掛かりな方法で、ひた隠しにしたかった少女の個性。

それがどんなものであれ、少女の現在(いま)の立場(OFAの現継承者)を考慮すると、とてもじゃないが他人の手を借り公には動けなかった。


「どの道、一度はステインに面会する必要があるな」


私は何とかステインと秘密裏に面会できないかと、塚内くんに口利きを頼む事にした。


「――それは別に構わないが、まさか平和の象徴がヒーロー殺しの主張に感銘を受けたってわけじゃないんだろう?」

「あぁ、それは……ないよ」

「じゃあなんで?頼まれてた事故の件と何か関係が?添付しておいた資料はもう目を通したんだろう?」

「……うん。ちょっとね。いまはまだ言えないんだけど、その事に関して、どうしても彼本人から話しを聞かなくちゃいけなくなったんだ」

「つまり君が可愛がっている緑谷さん絡みって事か……分かった、何とかしよう。許可が降りたらまたこちらから連絡するよ」

「……すまない。世話をかけるね」


せっかくグラントリノが少女とステインに関わりがあった事を警察に隠してくれたのに、これでは意味が無いなと思いつつも、塚内くんならば口が固いので大丈夫だろうとも思った。

通話を終えた携帯電話のディスプレイに表示された時刻はもう直ぐ昼。少女はそろそろ自宅に帰宅しているだろうか?

眠気がどこかへ飛んでいってしまった頭の中は妙にクリアで、落ち着いていた。


『体力的に余裕があったら、午後から会わない?グラントリノの話しも聞きたいし、無事な姿を見たいから』


少女からの返事は直ぐにきた。
生憎とまだ帰宅中で自宅には着いていないようだったが、荷物を置いて着替えたら直ぐにこちらに来てくれるらしい。

少女が来たらまず抱きしめて、それから怪我の具合を確認して、グラントリノの話しを聞きながら、無茶をした事を少し叱ったら、後は一杯一杯褒めて甘やかしてあげよう。


(いや、私が甘えさせてもらうと言った方が正しいかな?)


とりあえずいまは、余計なことは何も考えずに、ただ少女を抱きしめその温もりを独占したかった。そうする事で、私の心と身体は安心したがっていた。


  
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