ヒロアカ
□ごっこ遊び(ver.オル)
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間接照明だけの寝室は薄暗く静かで、慌てて身体を起こすと、眠る自分に付き添うように、少女がベットに凭れ転寝をしていた。片腕を掛け布団の下に潜り込ませ、私の掌を握りしめながら。
ステインの事。
少女の個性の事。
OFAの事。
轟少年の事。
グラントリノの事以外にも、たくさんたくさん少女とは話したい事や聞きたい事があったのだが……こんな風に眠る少女を見ていたら、何も話せそうになかった。
特別力が込められているわけではないのに、しっかりと私の掌を握りしめる少女の掌には、不思議な力強さを感じた。
繋いだ掌から感じる、このささやかな温もりと愛しさと安心感を、ずっと感じていたいと思った。
(本当に参ったなぁ、もう!緑谷少女はいちいち行動が可愛いんだから……)
私はそのまましばらく、幸せを噛みしめながら、眠る少女の寝顔を眺めていた。
だけど時計の表示は午後七時で、すっかり夜と呼べる時間になっていた。
そろそろ少女を家に帰さなければいけない。
私は少し残念に思いながらも、少女の肩に手をかけ、眠る少女に覚醒を促した。
肩を数回揺すぶられて目を覚ました少女は、眠たげに瞼を擦り瞬くと、現在時刻を確認して慌てていて、寝起きのせいか酷く怠そうに見えた。
口では大丈夫だと言っていても、研修後に呼び出しているのだから疲れていないわけがないのに……私のせいで変な体勢で寝てしまったので、余計に疲れてしまったのだろう。
(そんなに眠かったのなら隣で一緒に寝てくれても良かったのに。というかむしろ一瞬に寝たかった!!)
だが、常に私の事を気遣ってくれている少女の事だから、それだと私がゆっくり寝れないとでも思ったのだろう。全然そんな事はないのに。
「……あ!すみません。僕一緒に寝ちゃって」
「それは別に構わないけどっていうか、私の方こそごめんね!呼び出しといて寝ちゃって」
「いえ。最近、忙しそうだったので……八木さんに会えただけで僕は嬉しかったので……」
「あー……うん、そうだね」
健気な少女の言葉に、ここ最近の自分の行動が蘇り、罪悪感からちょっとだけ視線が泳いでしまった。
「……身体、大丈夫ですか?顔色は良くなったみたいですけど……」
「ん?うん。グッスリ寝ちゃったからね、寝る前に比べたら全然元気だぜ!HAHAHA」
「良かったぁ……」
私は少女の頭を撫でながら、繋いだままになっていた掌に力を込めると、床の上から少女の身体を引き寄せ抱きしめた。
少し体勢がきつかったが、寝起きの体温と、近付く互いの心音が、痩せたこの身体に心地良かった。
「あ!そうだ。写真!!」
すると突然私の腕の中で、少女がそう声を上げた。
何事かと問えば、少女はグラントリノと私とのツーショット写真をメールで送ると約束をしていたらしい。
グラントリノは元々携帯電話は所持していなかったのだが、今後持っていた方が都合が良いからと、研修の合間に購入したらしい。
で、速攻で連絡先を交換した二人はメル友になったらしい。
何も聞かされていなかった私は少し疎外感を感じたが、グラントリノがこのタイミングで携帯電話を持った事には、きっと何か意味があるのだろうと思った。
私は少女から携帯電話を借りると、軽く少女を抱え直して、パシャリと一枚写真を撮った。
どうせもう、グラントリノには少女との関係はバレているのだから、少女との距離がどれだけ近くとも関係ないだろう。というか、ちょっぴり見せびらかしたかったので、ここぞとばかりに私は少女と身体を密着させた。
「ありがとうございました!帰ったら直ぐにグラントリノに送りますね!」
「あ、できたら私にも送ってくれるかな?少女と二人で撮ったの初めてだからさ、私も持ってたいから」
「え!?あ、はい!分かりました」
「うん。それじゃあ待ってるから……気をつけて帰りなさいね」
「はい。遅くまでお邪魔してしまってすみませんでした。また学校で」
せっかくだから自分もその写真が欲しいと頼み、玄関先で少女を見送っていたのだが、人通りはそれなりにあるが、明るい時間に比べればかなり少なく少女の帰り道は不用心だ。最近は敵の出現も増えていて、治安も悪化している。
少女を心配する気持ち六割。
離れがたい気持ち三割。
轟少年に張り合う気持ち一割。
「……(ジッー)」
「八木さん?」
「ねぇ、緑谷少女。本当に送って行かなくて平気?おじさん送って行きたいんだけど……」
「八木さんはおじさんじゃありません!ってばもう〜!!後、ちゃんと一人で帰れますから大丈夫です!」
グルグルする複数の気持ちを集約して、確認がてら再度申し出た提案は、すっぱりと少女に断られてしまった。
少女が提案を断った理由は、簡単に想像がつく。
大方、私に対する遠慮と気遣い。
気持ちは嬉しいが、それも過ぎれば距離を置かれているようで悲しくて寂しい。
だが、少女との関係は隠さなければいけないので、ここで私が一方的に感じる距離を、感情のままに強引に詰めるわけにもいかない。
だから私は、寂しげな少女の笑顔に気付かないフリをして、少女と同じように、感じるやるせなさを笑顔で隠すしかなかった。
少女の居なくなった、一人暮らしの部屋の中。感じる物寂しさを誤魔化すように、コーヒー片手に向かったのは寝室のベットサイド。少女が凭れるように眠っていた箇所に腰を下ろし、少女の寝顔を思い返せば、薄っすらとだが、少女の気配が残っているように感じた。
温かく落ち着く……あの、不思議な気配に、包まれたような気がした。