ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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話しが一段落し、和らいだ部屋の空気に少しの気不味さを漂わせながら、どちらともなく冷めたお茶に手を伸ばした。

少女と話したい事は他にもあるのだが、さて何と切り出すか……。
ゆっくりと乾いた喉を潤しながら言葉を探していると、おずおずと少女の方から話しかけてきた。

それは良いのだが……。


「えっと、お話しは以上でしょうか?トレーニング室に焦凍くんを待たせているので、そろそろ向かわないと、焦凍くんが迎えに来ちゃいそうなんですが……」


なぜそこで轟少年の名が出てくるのだろうか?
しかもなぜか下の名前呼びで。


(そう言えば轟少年も緑谷少女の事下の名前で呼んでたんだよなぁ。私だってまだなのに……)


ヒーロー殺しの件で一緒だったらしいが、それにしても距離が縮まり過ぎているような気がする。研修中に他にも何かあったのだろうか?

少女はグラントリノ、轟少年は父親のエンデヴァーの所で研修だったので、大きな接点は無かったはずなのだが……。

いちいち問いただすのも心が狭いみたいでどうかとは思ったが、気になるものは気になる。私は素直になる事にした。我慢は良くないと、学習したばかりなので。


「………そう言えば緑谷少女。君何で轟少年の呼び方変わってるの?研修前は普通に『轟くん』って呼んでたよね?おじさん結構気になってたんだけど、理由聞いてもい?」


元から少女に疚しい事があるとは思っていなかったが、話しを聞いてみれば、何か私の知らない所で轟親子が少女に急接近していた。

グラントリノからエンデヴァーが現場に居合わせた事とか、大人の事情でエンデヴァーがヒーロー殺しを捕まえた事になっただとか、そおいう事は聞いてはいたが……何がどうなってエンデヴァーと個人的な連絡先の交換などという事になっているのか、サッパリだった。


(しかも何?轟少年が下校時少女を自宅まで送って行くのが親公認って……少女が轟少年の事を気にしていた理由は分かったけど、おじさん納得はできないよ!?意味分かんないよ!?)


思わず感情が昂ぶり吐血しそうになったが、何とかそれは押し止めて、私は少女に轟少年に断りの連絡を入れさせた。話しはまだあるからと。

轟少年からの返信は無かったが、トレーニング後にでも携帯電話を確認すれば分かる事なので問題はないだろう。

私は少女が携帯電話をしまっている間に、静かに深呼吸を一つし気持ちを落ち着かせると、まずはヒーロー殺し――ステインについて少女に質問をした。

やはり少女の方には心当たりなく、なぜステインが自分の事を知っていたのか分からないらしい。

少女がステインと出会ったのはいまから十二年前なので、少女が覚えていないのも無理はないのだが……一体何があって、たった三歳の子供と二十歳前後の青年だったステインが出会ったのか。恐らくただ出会っただけでなく、それなりに交流もあったはずだ。でなければ当時のステインが出会って直ぐの子供の個性を隠そうとは思わないだろう。

考えれば考える程謎は深まった。


「うーん。じゃあやっぱり、ステインが言っていた『無個性の暗示』についても心当たりはないのかな?」

「はい。そもそも僕は無個性ですし、何が何やらサッパリで……」

「あー、うん。その事なんだけどね、どうも君、無個性じゃないみたいなんだよね」

「…………え?」


個性の発現を確認できていないので断言はできないが、かなり高い確率でそれは確定事項なのだと告げると、少女は大きな目をさらに大きく見開いて驚いた。

関節が偽造されていたとはいえ、ちゃんと医療機関で無個性だと診断を受けていたのだから、これまた当然の反応といえよう。

しかし個性の発現がないだけで、情況証拠は揃っている。


「多分君、自分じゃ気付いてないだろうから、ちょっとこっちおいで」


私は少女を自分の座っているソファーの方へと手招きすると、戸惑う少女を背後から抱きかかえらるように横向きに座り直し、少女の足を肘当ての方に向かって投げ出させた。

そして長めのスカートを太もの中ほどより少し上まで捲り上げ、足の怪我を隠すために着用していた、普段は履いていない黒いタイツを片足だけ脱がせ、直接少女の足先を探るように掴み指を這わせた。


「ほら、ここ。自分でも触ってご覧。第二関節が失くなっているから」


問題の箇所を少し強めに押さえながら、私は少女にも自分で関節の有無を確認させ、情況証拠から導き出した推測を話して聞かせた。

関節の偽造と同時に施されたと思われる『無個性の暗示』がどういったものなのかは分からないので、それが解けているのかいないのか――ハッキリした事は分からないが、関節が元の状態に戻ったという事は、いずれそう時間を置かずに少女の個性は判明するだろう。

だからもし日常生活の中で、何かそれらしい現象が起こったら、直ぐに私に知らせるようにと私は少女に言い聞かせた。授業中でもなんでも構わないからと。

少女の個性については、最近何となく予測がついてきたが、断言するだけの確証がまだ得られていない。

確かに暗示である程度個性を抑えこむ事は可能ではあるが、完全に消す事なんてできはしない。なのに少女の個性はいままで誰にも気付かれる事がなかった。少女本人にすら。

だが、本当に個性が備わっているのならば、なんらかの拍子に漏れ出ていたはずなのだ。

ならば考えられる事は一つ。

少女の個性を知っている人物が、漏れ出たそれらを隠蔽していたと考えるのが妥当だろう。

しかしそれにはいつも少女の近くに居る必要がある。ステインでは無理だ。

ステイン以外で少女の個性の事を知っていて、いつも少女の近くに居る事が可能だった人物。

それは多分――『彼』だけだ。彼にしかできない。

会話の途切れた室内に響く秒針の針の音を聞きながら、抱えた少女の体温に瞼を閉じ思考していた私は、そう確信した。


(それにしても、緑谷少女とくっついてると普通に落ち着くんだよなぁ〜……このままお持ち帰りしたいなぁ)


などとしみじみしていたら、相澤くんの乱入と、出るまで少女の携帯電話にコールし続ける轟少年によって、私と少女は引き離されてしまった。


「アンタ何やってるんですかぁあぁ!?」

「あ、相澤くん!?何って、別に……ちょっと大事な話しを……だね?」

「話しすんのに何で緑谷のタイツ脱がせてるんですかぁあぁ!?それも中途半端に!?どこのエロ雑誌だよ!!」

「え!?いや、これはその、足の具合を診ていただけで、別に疚しいことは何も……」

「緑谷が怪我してるのは左足で、アンタがいま触りまくってるのは右足だろうがぁ゛あ゛ぁ゛!?(ブチッ!!)」

「っちょ、ちょっと待って!相澤くん!!」


聞く耳をどこかに落としてきたらしい相澤くんは、少女が轟少年との通話のために私の側から離れた隙に、素早く私を拘束すると、流れ作業のように躊躇なくそのまま締め上げてきた。

そして私を心配する少女に服装を直させ、少女を迎えにきた轟少年に預けると、そのままお説教モードに突入した。

疚しい気持ちが全く無かったとは言わないが、ちょっとこれは理不尽なんじゃないかと思った。

が、少女の事で今後相澤くんの協力が必要になりそうだったので、あまり強く抗議できなかった。


  
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