ヒロアカ

□ごっこ遊び(ver.オル)
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私が少女に個性(OFA)を譲渡してしばらく経つが、少女はまだまだその個性を使いこなせていなかった。

なので少女の身体は怪我が絶えない。
ほぼ実習のたびに、少女は保健室のお世話になっている。

そのたびに私は、指導者としての不甲斐なさを痛感し、少女には申し訳ない気持ちで一杯になる。

そしてそれを感じ取った少女が、辛そうに顔を歪めながらも私を気遣い笑みを浮かべるので、余計に申し訳なかった。

そんなこんなで煮詰まっていたら、相澤くんが気分転換にデートでもして来いと言った。あっちでもこっちでも辛気臭い顔をされていると、自分まで辛気臭くなるからと。

そう言われ、私はまだ少女と一度も出掛けた事がなかった事に気がついた。

私と少女が会うのは、トレーニングをしている海浜公園と私の部屋。それと学校の仮眠室だけだった。

私は必要以上に周囲の目を気にしていたらしい。

それから直ぐの休日、私は少女を映画に誘った。

少女と初めてのデートだと思うと、連れて行きたい所や一緒に行きたい場所がたくさん浮かんできて、なかなか決められなかった私は、結局無難な映画にした。私の趣味が映画なのと、少女くらいの年頃が好む場所が分からなかったと言うのが主な理由だ。

初めて海浜公園以外で待ち合わせをして、柄にもなくちょこっとお洒落をして、初めて一緒に映画を見て、喫茶店でお茶をして、そして街をぶらついた。

すると少女は、何だか『恋人ごっこ』みたいだと、頬を赤らめ嬉しそうに言った。

早く少女を一人前のヒーローに育て上げたくて、気持ちが急いていた私は、大分少女との関係を蔑ろにしていたようだ。
少女が全然不満を口にしなかったから、知らず私はそれに甘えてしまっていたらしい。

私は自分の配慮の無さを反省しながら、気付かされた気恥ずかしさを誤魔化すように、少女に自分の手を差し出した。

それならもっとそれらしくなるように、手でも繋ごうかと。

戸惑いながらも顔を真っ赤にした少女は、恐る恐るといった感じで、私の手を掴んだ。握手をするような、親子のような繋ぎ方だった。

別にそのままでも良かったのだが、どうせならヤッパリ指を絡めたい。

私はそのまま少女の手を引き寄せるように、少し掌に力を込めると、自分の指と少女の指を絡めて握りしめた。


「この方がもっとソレっぽくなるぞ!緑谷少女」

「っえ?あ、あの……八木さん!?」

「カップル繋ぎって言うんだけど、緑谷少女は知ってたかな?」


恥ずかしいのか、少女は咄嗟に指を解こうとしてきたが、私はそれを許さなかった。
せっかく繋いだ手を、恥ずかしいからという理由だけで、離したくなかったから。

自分よりも、一回り以上も小さな掌は自分ほどじゃないが、豆ができてて少し堅い。
治りかけの擦り傷・切り傷が、少し痛々しい。

けどそれは、少女が頑張っている証。
夢を掴もうと、藻掻いている日々の記録。

出会った頃とは随分と違う。

少女はそれを恥じているようだったが、私にはその掌が愛おしかった。


――私だけが見てきた、知っている、少女の掌の変化。


その感触に私は密かな優越感を感じ、少女に気付かれないようにそっと微笑んだ。

その日のデートが終わり別れるまでずっと、私達は手を繋いでいた。
始めは緊張と慣れない恥ずかしさから余計な力が入り強張っていた少女の掌から、徐々に力が抜けて行く様が可愛かった。

それから私達の間で、ごっこ遊びが流行った。

とういうか、ごっこ遊びが気持ちを切り替える合図みたいになった。

ごっこ遊びが始まると、待ってましたとばかりに私は少女を構い甘やかした。普段の我慢や自制が嘘のように、私は遠慮無く少女に触れたし、少女の方も自ら私に触れてきてくれた。

いつもより、嬉しそうに幸せそうに笑う少女につられて、私もいつもより嬉しくなって幸せな気持ちになった。満たされていた。心も身体も。

本当は、ごっこ遊びなんて合図が無くても、少女に触れたいし触れてもらいたいが、いましばらくは無理だろう。せめて少女が、ヒーローとして一人前になるまでは、私は少女の師匠として接し続けなければならないのだから。


「――というわけで、相澤くんのアドバイスのおかげで昨日はとても充実した休日になったよ!ありがとう!!」

「それは良かったですね、オールマイトさん」

「あぁ、それにしても昨日の緑谷少女は可愛かったなぁ〜……既にそれ以上の事もしているっていうのに、手を繋いだだけで真っ赤になっちゃったりして」

「……それ以上の事をしてたのに、手も繋いだ事もなければデートもまだだったことに、俺は驚きましたけどね(ジト)」

「いやぁあ、それは……HAHAHA」

「まったく、何で緑谷はこんなのと付き合ってるんだか……やっぱり貴方がヒーローだからですかね?ヒーローじゃなかったら、最低どころの話じゃないですすもんね」

「こんなのって、相澤くん酷いなぁ」

「あぁ、ヒーローでも十分最低だと思いますけどね俺は」


相澤くんの毒舌が耳に痛かったが、少女との初デートで浮かれていた私にはたいしたダメージではなかった。


 
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