ヒロアカ

□ごっこ遊び(その他視点)
1ページ/6ページ

■ごっこ遊び(side.相)-001



ヒーロー業の傍ら俺は数年前から、雄英高校のヒーロー科で教師をしていた。

始めは慣れない教師生活に戸惑う事もあったが、何年も同じことを繰り返していたらそれ相応に慣れた。

特に代わり映えもなく、今年度の卒業生を送り出す準備と、来年度の新入生を篩に掛ける入試の準備に追われていた1月下旬。
根津校長から、来年度から現役No.1ヒーローのオールマイトが正式に本校の教師陣に加わると言われた。

表面上はそっけなく『そうですか』と返しただけだったが、内心は驚きと小さな喜びを感じていた。

所属する事務所が違ければ歳も違うので、ヒーロー仲間として現場で顔を会わせる事はあっても特別親しくはなかったが、自分がヒーローになる前からずっとNo.1ヒーローとして常に業界を背負っていた壮年のヒーローに、俺は密かに憧れていた。

オールマイトは教師としては新米なので、初年度は取り敢えず自分と組んで新一年生を受け持つ事になった。

ヒーローとしては自分の方が後輩に当たるのだが、教師としては先輩として接するのかと思うと、少し戸惑った。

自慢じゃないが、俺は目つきが悪い。態度が悪い。上手いジョークも言えないし根暗だ。
いつも豪快な笑顔を貼り付けて現場を駆け回っているオールマイトとは正反対過ぎて、上手くやって行ける気がしなかった。

だけど、何度か顔を会わせ打ち合わせをしてい行くうちに、まぁ、何とかなるかと思えるようになっていた。

そして入試が終わり、新一年生達の組み分けが終わり、手渡された組名簿。

それを俺の隣で手にしたオールマイトは、なぜかニヤニヤしていた。とても嬉しそうに。

手渡された名簿の中に、同じく現役No.2のエンデヴァーの息子の名があったので、その時は単純に、知り合いの息子が入学してくるのが嬉しいのかくらいにしか思わなかった。エンデヴァーの方はオールマイトをライバル視していて、あまり仲が良いとは聞いたことはなかったが、私生活での関係は知らなかったから。

だが、オールマイトと個人的に知り合いだったのは、全然別の生徒だった。

その生徒は、中学三年の冬に個性が目覚めたばかりで、まだ個性の制御が不完全で危うい生徒だった。

生徒の名前は『緑谷出久(みどりやいずく)』。
癖の強い緑かかった黒髪に緑色の大きな目の、頬の雀斑が実年齢よりも幼い印象を与える少女だった。

少女は入学初日からオールマイトのファンを公言していたが、それだけで、特にオールマイトと知り合いだとかそういう話は一切していなかった。

有名人と知り合いでも、面倒事を避けるためにそれを周囲に秘密にするケースは珍しくない。だから緑谷の態度は、特別不思議でもなんでもなかった。

だけどそうやって緑谷がオールマイトとの関係を周囲に隠しているのに、当のオールマイトが緑谷を教員しか使用できない仮眠室に度々呼び出していた。

入学早々教室から頻繁に姿を消す緑谷を、同級生達は不思議にそうに見ていたが、何度か直接オールマイトが教室まで緑谷を呼びに来たので、あぁ、オールマイトに会いに行っていたのかとアッサリ納得していた。

とはいえ、教師が特定の生徒とばかり交流を図るのは、後々問題になりやすい。特に緑谷は女生徒なので、あらぬ噂が立つ可能性が高い。早々に釘を刺した方が良いだろうと俺は思った。

そう思って、双方個別に小言を言って自重させようとしたら、オールマイトから衝撃の事実をカミングアウトされたとういか、気付きたくない事実に俺は気付いてしまった。

まさか現役No.1ヒーローが、密かに憧れ尊敬していた壮年のヒーローが、ロリコンだっただなんて……自分の教え子が、教え子になる前に既に食われていただなんて…………誰か嘘だと言ってくれ。

つーか、十五の初体験が春にもなってない冬の浜辺で(一応真っ昼間ではなかったらしいが)中出しって、ハードにも程があると思う。

しかもファーストキスが血の味って……。
そりゃー今時の子はレモンの味なんて幻想抱いちゃいないだろうが、血の味はないと思う。

見た目全然まだまだ子供っぽくて、否、実際ヒーローオタクだから子供っぽい緑谷が、裏で憧れのヒーローにあれこれ淫らな事をされたりしたりしているのかと思うと、泣けてくる。色々な意味で。まったくどんなエロゲだよって思った。

緑谷は俺がそこまで詳しく二人の関係を知っていると思っていないから、普通に教師として俺を慕ってくれている。話しかけてくる。無邪気に、本当に無邪気に笑っている。

だけど俺は、しばらく緑谷の事を避けた。
何だかまともに緑谷の事が見れなくて……とにかく気不味かった。


「相澤先生、最近どうかしたんですか?凄くお疲れみたいだし、僕、避けられてるような気がするんですけど……」

「……そんな事はねぇよ。お前の気のせいだ」

「なら良いんですけど……」

「……(俺はお前が不憫で堪らんよ。緑谷)」


俺はモサッとしている緑谷の頭に手を乗せ、緑谷を労うようにぽんぽんと撫でてやった。その感触に、心無しか少し癒された気がした。

そして、重く長い溜息を吐き出し、いまはここ居ない元凶のヒーローを脳内で締め上げた。

同僚ヒーローと現教え子の絶対に他人には言えない秘密を知ってから、俺はそれぞれから個別に相談を持ちかけられるようになった。主に同僚ヒーローの方から。

休日にデートともしたこと無いって、コイツら普段会って何してるんだよ!?
否、ナニをしているのか……つーかそれだけなのかよオールマイト!?アンタ最低だな!!

お願いですからもう少し緑谷の事、大事にして下さい!!大事にできないなら手、出さないで下さい!!

そんな心の叫びや葛藤を、俺は日々飲み込む。
飲み込んで、何でもない風に二人と接する。

頭の中では常に、二人を別れさせる術を模索しながら。


新年度になってから俺の目の下の隈が濃くなったようだと、別の同僚ヒーローのプレゼント・マイクに指摘されたが、その原因を口にできないので、マイクの気のせいだと俺は言い張った。
マイクは微妙に納得していなかったが、面倒事の気配を察知したようで、それ以上絡んでくる事はなかった。


――ヒーローとしては一流。男としてはクズで性犯罪者(仮)。


そんな大人な彼氏を持つ緑谷の問題は、他にも合った。

それは緑谷の幼馴染で同じ組の『爆豪勝己(ばくごうかつき)』だ。
爆豪はいままで周囲に散々甘やかされてきたのか、かなりの暴君だった。それも裸の王様的な奴だ。

爆豪は気に入らない事があると直ぐに個性を爆発させる。周囲に八つ当たりをする。
そしてその被害が一番多いのが緑谷で、爆豪の機嫌が悪くなる原因の大半が緑谷絡みだった。

なので昔から緑谷は、周囲の安全と平穏のために爆豪の生け贄にされてきたらしい。

長年爆豪からの理不尽な暴言や暴力を受けてきた緑谷は、一見打たれ強いように見えるが、実際はちょっと感覚がズレて麻痺って鈍くなっているだけだった。


(あぁ、だから緑谷はあんな駄目男に引っ掛かってしまったのか……)


緑谷とオールマイトを別れさせるには、緑谷の感覚を元に戻して目を覚まさせるしかない。
そう思った俺は、取り敢えず緑谷と爆豪の関係をどうにかする事にした。

だが、俺の助言で緑谷が歩み寄ろうとしても、爆豪がそれを全力で拒否るので、にっちもさっちもいかなかった。

そのくせ爆豪は、緑谷が自分以外の人間と親しげにしていると切れる。暴れる。緑谷が一緒に居る相手を爆発させようとする。

緑谷が側に居ても居なくても、基本的に爆豪の機嫌は悪くよく暴れるのだが、緑谷が側に居ないと……教室を半壊させるレベルで暴れる。二・三人で羽交い締めにしても止まらな。


(あ……コレ。アレだ。拗らせちゃってる系だ……)


爆豪の切れるパターンが周知されてくると、同級生達の中にも俺と同じように気が付く奴がチラホラと出てきた。

照れやら独占欲やら周囲に対する嫉妬やら……とにかくごった煮状態の爆豪は、自分で自分の気持ちをかなり持て余していた。

なるほど。だから緑谷が生け贄にされてきたのかと、妙に納得できた。

だが、爆豪本人は自分の気持ちが周囲にバレているとは思っていないらしい。


(鈍いな、爆豪。もう少し周囲をよく観察しろ。お前ヒーロー志望なんだろう?)


そして見事なまでに、緑谷は気付いていない。否、気付けるわけがない。
何せ幼少期からずっと爆豪に、脅され怒鳴られ罵られ続けているのだから……。

せめて爆豪が少しでも素直に好意を表に出せていたのなら、少しは違ったのだろうが……今更もう遅い。緑谷にとって爆豪は、幼馴染であると同時に、恐怖の象徴のようになってしまっているのだから。

それに、爆豪が拗らせている内に、緑谷は既に駄目男に引っ掛かってしまっている。駄目男だけど、性犯罪者(仮)だけど、ヒーローとしては誰にも負けないヒーローの中のヒーローに。


(哀れだなぁ、爆豪)


話しは変わるが、俺の組は席は出席番号順になっている。アイウエオ順だ。

だから爆豪の後ろの席が丁度緑谷の席になっている。

面倒臭いから初日からずっとそのままにしているのだが、物理的に緑谷と爆豪を引き離すために、俺は次のクラス会で席替えを提案しようと思う。

緑谷と爆豪の関係が修復・修繕できないのならば、物理的に引き離すしかないからだ。

そして緑谷には、もっと普通の人付き合いをしてくれる同級生達との交流を増やしてもらいたい。

そして、一日も早く普通に15歳の感覚とか感性とか、その他諸々を取り戻してもらいたい。


「何で授業以外の事でこんなに頭使わなきゃなんねーんだよ……ハァ……」

「どうしたの相澤くん?私で良ければ相談に乗るけど?普段緑谷少女の事で相談に乗ってもらってるお礼に!」

「……悩みの大本が何言ってるんですか(ギロ)」

「ヒャィイ!?ご、ごめんね?」

「ハァ……けど、どっちがマシかって言ったら、まだ貴方の方が(爆豪よりは)マシなのかぁ……」

「???」


確かに一度はそう思った。
私生活で駄目男でも、性犯罪者(仮)でも、オールマイトはまだまだヒーローだったから。


 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ