ヒロアカ

□ごっこ遊び(その他視点)
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■ごっこ遊び(side.勝)-001



物心付く前から、いつもずっと一緒だった幼馴染。

弱虫で泣き虫なくせに、ヒーローに憧れてヒーローになるのだと、いつも口にしていた子。
体力もなくてドン臭いのに、いつも俺の後を付いてきては一緒に遊んでいた子。

俺がやる事なす事にいちいち大袈裟なくらい感激して、大きな緑色の目をキラキラ輝かせていた子。
癖の強い緑がかった黒髪がフワフワで、いつもニコニコ馬鹿みたいに笑っていた子。

その子と居ると、何でか分からないが元気になれた。身体の奥から、力が湧いてきた。
具合が悪くても怪我をしても、その子が見舞いにくると、直ぐに良くなった。

側に居るだけで落ち着く子。
いつも俺を癒やしてくれる子。

俺はその子の事が――……。

俺の気持ちは、幼い頃から変わらない。

俺がヒーローを目指すのは、その子のため。
俺が乱暴なのも、口が悪いのも、その子を傷付け泣かせるのも、全部全部その子のため。

俺はその子を――……。

その子に近付く奴は大人でも子供でも、全部全部遠ざけてきた。
誰もその子に近付かないように、俺はいつも周囲を威嚇していた。
幼稚園児の頃に目覚めた個性を使って、とにかく頑張った。

俺はその子を孤立させたかった。
その子の世界には、俺だけが居れば、それで良かった。

どこか誰も知らない部屋の中に閉じ込めて、誰にも会わせずに、ただ囲って居たかった。

狭くたって良い。
誰も居なくたって良い。

俺とその子以外は、何も要らなかった。

だけどそんな事はできなかった。不可能だった。

俺はまだ、子供だったから。
俺に力が足りなかったから。
俺がヒーローじゃなかったから。

その子の心が、強かったから。
その子は諦めが、悪かったから。
その子は凄く頑張り屋で、努力家だったから。

いつの頃からか、その子は俺に怯えるようになった。
俺を怖がり、俺が近付くとビクビクしながら涙を浮かべるようになった。
大きく綺麗な緑色の目に、俺を映さなくなった。

まともに言葉を交わさなくなって、もうどれくらい経っただろうか。
記憶の中の、繋いでいた小さな掌は、いまはどのくらい大きくなったのだろうか。

側に居るのに、開いてしまった距離が悲しかった。
その子に触れたくて、伸ばしかけては空回る腕が、切なかった。

それでも良かった。
その子がそこに居てくれるのなら、それだけで安心できた。

早く大人になりたかった。
誰よりも強いヒーローになりたかった。

ずっと、子供のままで居て欲しかった。
誰にも見つからない、弱い子供のままで居て欲しかった。

個性は育つ。成長と共に……。
だから、止めたかった。

止められないのなら、せめて――……。

ヒーローなんて、好きにならないで欲しかった。
夢なんて、見ないで欲しかった。

俺は止められなかった。
その子に夢を、諦めさせる事ができなかった。

それが、まだ短い俺の人生の中で、俺が一番後悔している事。
悔やんでも悔やみきれない事。



 
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