ヒロアカ
□ごっこ遊び(その他視点)
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■ごっこ遊び(side.相)-002
分かりきっていた二人の関係を、今更ながらその片割れに問うたのは、多分ただの気紛れで暇潰し的な気分になったからだ。
「なぁ緑谷。お前普段、あの人(オールマイト)と居る時何してるんだ?」
目の前には山盛りの印刷物。
まとめてもまとめても終わりが見えない。
手伝い兼話し相手に緑谷を選び、仮眠室で作業していたのは、ぶっちゃけ下世話な下心があったからかもしれない。
「なん何ですか!?いきなり……」
「いやな、純粋に気になってな。大分歳も離れてるんで、一緒に居ても会話が噛み合わなそうなんでな……」
以前、オールマイト本人から、ナニしかしていないような話しは聞いたが、実際は違うかもしれない……という淡い期待が、俺の中にはまだあった。否、憧れのヒーローを、心の中ではまだ信じていたかった。そこまで駄目男じゃないと。
俺はポーカーフェイスを装いながら、話しながらも手を動かし続ける緑谷を、祈るような気持ちで見詰めた。
すると緑谷は、少し照れたような困ったような顔をして、指で頬を掻きながらポツリポツリと喋り出した。
内容は大分暈されてはいたが、要約すると――……。
トレーニング七割。恋人ごっこと称したイチャイチャが二割。
その他一割といった感じの内容だった。
学生である緑谷の事を考えると、トレーニングに重きを置いているのは良いことだとは思うのだが、男女交際のそれで考えると、いささか不健全な印象を受けた。
というか、付き合っているのに『恋人ごっこ』ってなんだよ!?オールマイトも言ってたし、実際に見たこともあるけどよぉお!!
(それにしても……)
オールマイトとの事を語る緑谷からは、確かにオールマイトに対する好意を感じるのに、その関係性に関しては、どこか違和感があった。
緑谷は、オールマイトと関係がある事は認めているのに、それを知っている俺に対しても、その関係性を問われると口籠るのだ。
そして思慮の末に、哀しげに、ただの『教師と生徒』で、しいて言うなら『擬似師弟』のような関係なのだと答えるのだ。
決して、緑谷は『付き合っている』とは言わなかった。
ごっこ遊びも、緑谷から言い出す事は少ないらしく、緑谷はご褒美か何かだと思っている節があった。
後日、緑谷の態度が気になった俺は、同じ問いかけをオールマイトにもしてみた。
すると、緑谷とほぼ同じ内容の返答が返ってきた。
だが、オールマイトの方はちゃんと、緑谷との関係を認めていた。
緑谷の事を『恋人』と称していたし、そのように扱っているらしかった。
ただその扱いには、ちょっとどころでなく問題を感じたが、いまは敢えてその事には触れないでおく。
立場上おおっぴらにできなくても、前提として教師と生徒という関係があったとしても、緑谷とオールマイト。二人の間には、微妙な温度差と認識のズレが存在していた。
だが、二人はその事に気付いていなかった。
その事に気付いた俺は、それを二人に告げるべきか否か悩んだが、結局黙っている事にした。
その方が、教師として自分に都合が良かったから。
その事に気付いてから俺は、二人の理解者のフリをしながら、協力者のフリをしながら、二人がその事に気付かないように、細心の注意を払って立ち回った。
「……多分、教師としてというのは、言い訳に過ぎないんだろうがな」
一人居残っていた職員室で呟いたそれは、とても合理的とは言えない独り言だった。
俺が気付いたのは、二人の間にある微妙な温度差と認識のズレともう一つ――……。
気付きたくはなかった、いつの間に自身の胸に芽生えていた、庇護欲とは違う合理的ではない感情。