ヒロアカ
□ごっこ遊び(その他視点)
6ページ/6ページ
■ごっこ遊び(side.相)-003
真面目で努力型なのは良いが、普段は気弱で引っ込み思案気味。
なのにいざという時は『待て』ができずに正面から突っ込んで行ってしまう緑谷。
そんな緑谷を、学外――体験学習に送り出す事に、俺は教師として若干の不安を感じていた。
だが、預け先は仮にもプロヒーローだ。
ヒーローオタクの緑谷なら、相手の言う事をちゃんと聞くのではないか?と、若干の期待も持っていた。
しかしその期待も虚しく(ある意味期待通りなのか?)、研修最終日。緑谷は自ら問題(事件)に突っ込んで行ってしまった。指導役のプロヒーローの静止も聞かずに。
教師陣がプロヒーローで固められている雄英高校では、警察からの電話は珍しくはない。比較的日常の事だ。
しかしいまは体験学習中だ。気にし過ぎと思いつつも、電話を受けた教師が若干身構えてしまうのは仕方がないだろう。
現場へのヒーロー要請か、はたまたただの連絡事項なのか……。
何となく聞き耳を立てていると、俺が内容を理解するよりも早く、受話器を握り締めていた教師が大声を上げた。
何でもいま巷を賑わせているヒーロー殺しが、生徒の研修先に現れたらしい。
まさかと思い、手元の資料を捲ると、狙われたヒーローの所に研修に行っているのは、自分の受け持つ組の生徒だった。
そしてそのヒーロー殺しが現れた地域には、他生徒が数名。同じように研修中だった。
その中に、俺が気にかけていた緑谷の名前があった。
慌てて自分の横の席を振り向くと、トゥルーフォームのオールマイトが顔色を変え、食い入るように通話中の教師を見つめていた。
そして通話を終えた教師の口から、確定事項として緑谷の名前が上がると、取るものも取らずに職員室を飛び出してしまった。
(拙い!!止めないと……)
俺は急いでその後を追うと、その背を視界に収めると同時に個性を発動させ、そのまま拘束布でグルグルにして床に転がした。
「アンタ何考えてるんですか!?本当に!!」
「いや、だって、緑谷少女が……ヒーロー殺しが……ゲホッ……!?」
「アンタが行ったら騒ぎが大きくなって余計に危ないでしょうがぁあぁ!?」
「…………だけど相澤くん。絶対緑谷少女無茶するぜ?」
「……んなこたぁあぁ、俺だって分かってますよ!!つーかそうならないように日頃からきちんと指導するのがアンタの役目でしょうがぁあぁ!!」
常々、事件が起きたらジッとしていられない人だとは思っていたが、それに緑谷が絡むと更に手に負えなくなるらしい。
だが、誰か一人のために周りが見えなくなるなんて、No.1ヒーローも案外普通の人間だったんだなと思った。
それから数時間後。
無事にヒーロー殺しは逮捕され、怪我人は出たものの、奇跡的に死亡者は出なかった。
無茶をした緑谷と先にヒーロー殺しと遭遇していた飯田が重症。後から駆け付けた轟も軽傷を負ったが、入院は念のため今晩だけで、明日の朝には退院できるらしい。
一応、ヒーロー殺しは後から現場に駆け付けたプロヒーローのエンデヴァーが捕まえたとマスコミには発表されたが、まさか実際に捕獲したのがヒーロー仮免もまだの生徒三名だったとは……教師としては大変反応に困る仕舞いである。
本人達とは直接やり取りはできなかったが、とりあえず巻き込まれた生徒達の無事が確定したので、俺とオールマイト。数人の教師で、手分けして関係各所に必要な連絡をした。
緑谷の無事が判明したからか、幾分か落ち着きを取り戻してはいるが、オールマイトの顔色は優れない。何度か席を立っては、血以外の物も吐いているようだった。
気にはなったが、どうしても具合が悪ければ子供じゃないのだから自分でどうにかするだろうと思い、その日は声を掛けずに帰宅した。
教師としてなすべき事をなし終えると、オールマイトじゃないが、俺も緑谷の事が再び気になり出した。
しかし怪我をし入院したのは緑谷だけではないので、緑谷一人だけに個別に連絡を入れる事は躊躇われた。
ふと取り出した携帯電話の表示時刻は、まだ消灯には余裕があった。
が、どうせ今日は疲れて寝てしまっているだろうからと、理由にもならない理由で無理やり自分自身を納得させ、何事も無かったかのように、また携帯電話をしまいこんだ。
無理に今日明日中に連絡を取らなくとも、月曜日になれば学校で顔を会わせるのだから、その時に無事を確認すれば良い。小言も言わなければならないのだから、その方が合理的だ。
そして月曜日。登校してきた緑谷は、パッと見制服に隠れていたので怪我の有無はよく分からなかったが、心なしか元気がないように見えた。
(ヒーロー殺しなんかと遭遇しちまったんだから、無理も無いか)
だが、職員室で黙々と書類仕事をしているオールマイトは、緑谷とは対照的に機嫌が良く、そして元気そうだった。
明らかに顔色が悪く、具合も悪そうだった二日前とは違い、痩けた頬をほんのりと色づかせ、心なしか肌ツヤも良さ気だった。
オールマイトがこんな状態の時は、大抵――……。
「昨日はアイツ(緑谷)と会ったんですか?」
「少しでも早く無事な姿を確認したくてね」
思わず思ったまま問いかければ、俺の推測はオールマイトの照れ笑いと共に肯定された。
「念のためとはいえ、怪我して入院したのに無事も何もないでしょうが」
「それもそうなんだけさ、普通に心配だったからね。まぁ、途中で私が寝ちゃたからあんまり話しはできなかったんだけどさ、久し振りに(緑谷少女を)一杯補充できたぜ!」
緑谷達が退院したのは昨日の朝なので、その後二人が会っていても何も不思議ではないし、むしろ二人の関係からいったらそれは当然の事なのだが……オールマイトの言い方はちょっとガサツで緑谷に対する配慮が感じられなくて、イラッとした。
「……無理、させてないでしょうね?(ジロリ)」
「……多分。でもよく昨日会ったって分かったね?」
「警察からの第一報が入った時の貴方、凄い取り乱しようでしたからね」
「う゛ぅ……」
「まぁ、予想が確信になったのは、今朝貴方に会ってからですけどね」
「?」
「アイツ(緑谷)と会った後の貴方は機嫌が良いだけじゃなくて、顔色も良いんで一発で分かるんですよ」
「え?端から見ても私ってそうなの?」
「はい。滅茶苦茶分かりやすいですよ」
「……そう、なんだ」
ハッキリそう断言してやると、オールマイトは少々意外だったのか、凹んだ目をパチクリさせていた。
「どうかしましたか?」
「うーうん。何でもないよ。あ、そうだ相澤くん!君のクラスの保健体育どうなってるの!?」
「はっ?」
「(緑谷少女に)悪影響があるからしっかりしてくれないと困るんだけど!!」
オールマイトの反応に、何か引っかかるものを感じていると、よく分からない話題で話しを逸らされた。
しかし直ぐに何の事を言っているのか理解した俺は、激しく頭を抱えるはめになった。
つまりオールマイトは昨日、緑谷と会って(怪我してるのに)アレコレ致したが、その時緑谷がいつもと違う行動(?)を取り、その原因が峰田にある――と。
性に興味があるのは結構だが、年齢的にあり過ぎるのは問題だし、それに他人を巻き込むのはもっと問題だ。
あれだけ節度を持って、自宅で個人的範囲に収めるように言い聞かせてきたのに……峰田にはまったく効果が無かったようだ。
(つーかこの人緑谷の心配をしてたんじゃねーのかよ!?なんで朝退院したばっかの怪我人にアレコレしちゃってんのぉおぉ!?まさか緑谷が元気なかった原因それじゃねーよなぁあぁ!?)
俺は放課後峰田を生徒指導室に呼び出し、再度説教をする事にした。
「単刀直入に聞く。峰田、お前緑谷に『何』吹き込んだ?(ギロ)」
「へっ?何って???」
「お前が緑谷に十八禁関係のネタ吹き込んだって、苦情が来てるんだよ!」
「へぇえぇ!?って別にオイラ特別な事はなにも……あ!もしかしてアノことかぁあ!?」
「アノ事?」
「前に教室で上鳴とエロ話してる時に、緑谷が『それってそんなに気持ち良いの?それしてもらったら男の人は喜ぶの?』って聞いてきた事があって……」
「……(多分それだ……)……」
「てか苦情って一体誰から?もしかして緑谷、あん時のネタ実行したのか?しちゃったのかぁあぁ!?すげぇえぇ!!相手誰だぁ!?爆豪はありえねぇーし、轟か?最近仲良いみたいだしな!あれ?でもそしたら何で相澤先生に苦情が行くんだ???」
「で、具体的に何を吹き込んだんだ?テメェエはよぉ゛お゛ぉ゛……」
「えっ、何ってそれはそのぉ……比較的普通の事っすよ?手とか胸とかお口でご奉仕を……って、相澤先生怖いぃいぃ!!顔すんげぇ怖いぃいぃ!!」
「なるほどなぁ゛あ゛ぁ゛……大体分かったぞ、峰田。そんじゃあぁとりあえず、反省文五十枚。二時間以内で仕上げろ」
「えぇえぇぇぇ!?二時間って、無茶っすよぉお!てかなんで!?オイラ緑谷に聞かれたから答えただけなのにぃい!!」
「そもそも教室でんな話ししてんじゃねぇよ!!後相手選べやこのエロガキィ!!」
「ヒィイィィィィィ……!!!!」
結局時間内に峰田の反省文は終わらなかった。
ので、追加でもう五十枚。併せて百枚の反省文を明日の朝一で提出させる事にした。
ついでに抜き打ちで持ち物検査をしたら、案の定エロ本やらエロDVDやらが教科書以上に出てきた。
調教物だとかご奉仕物だとか……陵辱物もヤバいが、流石にこれらのタイトルが掲げられている奴は、緑谷の目に触れていないと信じたい。緑谷がこれらを参考にしようものなら、多分とんでもない事になる。オールマイトが怒り狂って俺に苦情を言うだけじゃ収まらなくなる。
『仕込むなら自分で仕込みたい』
『そしてその過程を楽しみたい』
それが男ってもんだからな。
少し休んでから帰るかと、俺がグッタリとしながら仮眠室の扉を開けたら――……。
オールマイトが下半身を着崩した緑谷を後ろから抱え込みながら、ソファーに乗り上げていた。
骨ばったゴツゴツとした大きいオールマイトの掌が、緑谷の裸足の足を揉んだり撫でたりしまくっていた。
「アンタ何やってるんですかぁあぁ!?」
「あ、相澤くん!?何って、別に……ちょっと大事な話しを……だね?」
「話しすんのに何で緑谷のタイツ脱がせてるんですかぁあぁ!?それも中途半端に!?どこのエロ雑誌だよ!!」
「え!?いや、これはその、足の具合を診ていただけで、別に疚しいことは何も……」
「緑谷が怪我してるのは左足で、アンタがいま触りまくってるのは右足だろうがぁ゛あ゛ぁ゛!?(ブチッ!!)」
「っちょ、ちょっと待って!相澤くん!!」
丁度その時。緑谷に轟から電話がかかってきて、緑谷がオールマイトの側から離れたので、俺は問答無用でオールマイトを締め上げた。ギッチギチに。
電話を終えた緑谷が心配げにオールマイトに駆け寄るが、下半身は着崩れたままだ。
「とりあえずお前はそっち(仮眠用ベットの仕切りカーテンの中)で服装を直せ(頼むから)!」
そして緑谷が服装を直していると、どこから電話をかけていたのか、通話から五分と経たずに轟が緑谷を迎えに来た。緑谷の鞄持参で。
轟が緑谷を送って行く事は、轟の親(エンデヴァー)から簡単に事情説明があったので一応了承はしておいたが、轟の必死さがちょっと見てて怖い。近々暴走しそうで。
しかしいまはとりあえず、轟に緑谷を任せて、俺は床に転がしておいたオールマイトに説教をする事にした。
(何で一日に二回も個別にエロ関係の説教をしなきゃならないのか。それも片一方は同僚教師って……)
既に頭が痛いのか胃が痛いのか俺には区別がつかなかったが、個性を使ってもいないのに見開いた目が、乾いて乾いて血涙が出そうだった。
(頼むからこれに緑谷まで加わらないでくれよ。色々と年齢にそぐわない知識を得ちゃってるようだが、それ以上は不要だから!そっち方面は頑張らなくて良いから……てかむしろ誰か一回リセットしてやってくれぇえぇ!!)
新しい組を受け持ってまだ二・三ヶ月だというのに、俺の身体と精神は、既に結構ボロボロだった。
俺も保健室の常連になる日も、近いかもしれない。