うたわれるもの
□タイトル未定
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◆其の参・賑やかな旅路◆
翌朝早朝。眠りの浅かった自分はクオンよりも先に目が覚め、一人井戸の所で顔を洗っていた。
すると、見たこともない巨大な鳥と遭遇した。
とにかく大きいその鳥は、妙に人懐っこくて、おまけに人語を話した――と思って驚いていたが、自分と話をしていたのはその鳥ではなく、鳥の背に乗っていた少女の方だった。
話の途中で、自分が勘違いをしていると気付いた少女は、訂正の為に慌てて顔を覗かせてくれた。
少しオドオドしてはいたが、左右の耳上に結ばれた薄ピンク色の大きなリボンが特徴的なその少女は、少々内気そうではあるがとても可憐な美少女だった。
美少女の名前は『ルルティエ』。
この大きな鳥の名前は『ココポ』と言うらしい。
ルルティエに何でこんな所に居るのかと尋ねたら、ウコンに会いに来たのだが、ココポを一人にするのが不安だったのでどうしようかと悩んでいたところだったらしい。
ならば自分がウコンを呼んでこようかと提案すると、ココポが『側に居ろ』と言わんばかりに浴衣の袖を咥えながら頭を擦り付けてきた。
「うわぁ!何するんだ!?こら、放せ、ココポ」
「ココポ、駄目ですよ。そんな事をしては……」
何とかココポを引き離そうと藻掻くが、如何せん体格が違い過ぎて話にならなかった。
飼い主であるルルティエもココポを諌めようと声をかけるが効果はなく、二人と一羽でワーワー騒いでいると、ルルティエの目的であるウコンがタイミング良くやってきた。
けれどウコンは自分を助けるどころか、顎鬚を撫でながら、物珍しいものを見るよな目で自分とココポのやり取りを眺めているだけだった。
「……朝っぱらから何やってるんだい?アンちゃん」
「ウコン!?」
「え?ウコン様!?」
「ルルティエ様とココポか?何だもう顔見知りになったのか?」
「とりあえず助けてくれ!ココポが浴衣の袖を咥えて放してくれないんだ」
「ハク様、申し訳ありません。ココポが、ココポが……(グスン)」
「ココポがこんなに懐くなんてスゲェーなぁ、アンちゃん。ココポはルルティエ様以外には殆ど懐かないんだぜ」
その後、一旦部屋に戻り身支度を整えると、改めてクオンと一緒にルルティエとココポを紹介された。
その時、ココポがホロロン鳥という鳥で、通常種よりも身体が大きく、また色も地味な特殊な個体なのだと教えられた。
「なぁなぁ、クオン」
「何かな?ハク」
「ココポが特殊って事は他のホロロン鳥はどんな鳥なんだ?」
「えーっとねぇ……ホロロン鳥は食用の鳥で、身体はコポポよりもずっと小さくて、身体の部位によって赤や青色をしていてとても色鮮やかで愛嬌がある鳥かな」
「へぇー、そうなんだ(鶏と雉を足して割ったようなものか?)。でも、愛嬌だったらココポもあるよな。それに大きいからそんなに地味って感じもしないな」
「確かにそうかな。でも、愛嬌はともかく、通常のホロロン鳥に比べるとやっぱり色味は少し地味かな。通常のホロロン鳥が派手過ぎると言えばそれまでなんだけど」
クオンの説明を聞きながら、自分はふと、ウコン達一行が連れている『ウマ』と呼ばれているウォプタル達に視線を向けた。
『ウマ』というのは、二足歩行をするウォプタル類の総称で、乗用や荷役等に使用される、駝鳥のような大きな鳥のような姿をしていた。
自分は始め、これが『ウマ』だと言われた時、『それは違う』と思った。
自分の知っている『ウマ』は二足歩行なんてしないし、見た目もこんな鳥のような姿をしていないと。
けれどクオンもウコンも、『ウマ』といえばウォプタル類以外知らないと言った。
蟲と呼ぶには大き過ぎる気がする『ギギリ』と『ボロギギリ』。
なぜか気になる赤いスライム状の『タタリ』。
見た目が粟に似ている小麦の代用品らしき『アマム』。
そして、鶏と雉を足して割ったような食用の『ホロロン鳥』。
話せば話すほど、知れば知る程――……感じる自分とクオン達との『差異』。
一見似ていて、それに近いものを知っていても、自分とクオン達とではそれらがイコールで繋がらない。
そもそも身体の見た目からして、自分とクオン達とでは違う。
とても良く似ているのに、まったく『別の種族』のように違っている。
――消えない違和感。
――埋まらない溝。
――近くて遠い感覚。
失くしている記憶を取り戻すことができたなら、その『理由』が分かるのだろうか。
何も分からないまま、クオンに保護され世話を焼かれ、とりあえずは生きている。だから極端には困っていない。
だからなのか、失くした記憶は気にはなるが、焦りや不安はあまり感じない。
それよりも――……いまは目にするもの手に触れるもの、五感で感じる『世界の全て』に心惹かれる。
元来自分は、肉体労働や疲れる事が嫌いなのだと思う。
できることならば、一日中布団の中でゴロゴロしていたいと、結構本気で思ったりもする(酒があれば尚良し)。
だけどこうして、知らなかったことを知り、いままで『体験したことのないこと』を体験することは、とても新鮮で楽しかった。心が躍った。
そう。クオンに拾われる前の自分は、恐らく知らない。
クオン達が当たり前に日々体験していることの殆どを……。
何も覚えてはいないけれど、それは間違いないだろう。
自分の感覚を信じるならば、全てが未経験。初めて経験する事ばかりなのだ。