うたわれるもの

□タイトル未定
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忙しく天幕を張ったり夕飯の支度をしたりする男衆の邪魔にならないように端の方に寄り、手持ち無沙汰の自分も何かした方が良いのだろうかと思案していると、それに気付いたウコンが近付いてきた。


「今日はギギリ退治よりは楽だったと思うが、それでもやっぱり疲れたかい?アンちゃん」

「そりゃー疲れたさ。一日中歩きっぱなしだったのだから」

「つってもアンちゃん午後は殆ど車の上だったじゃねーかよ。体力ねぇーなぁ」

「無いものは無いのだから仕方がないだろう。それよりも、野営と言われても何をすれば良いのか分からないのだが、自分はどうすれば良い?クオンは一人で天幕を張って薬草の整理をしていて声が掛けにくい」

「気持ちはありがたいが、アンちゃんは力が無いからなぁ……下手に動き回られるよりはこうしておとなしく休んでてくれた方が邪魔にならなくてこっちもありがたいかな?」

「小さな子供じゃないんだから、流石にそれは……」

「うんじゃあ俺と一緒に作業の見回りでもするかい?手持ち無沙汰でフラフラされるのも危なっかしいから」

「微妙に納得できないが、仕方がないからお前について回ってやるよ」


わざと頬を膨らませ、不満気にそう答えると、ウコンは笑いながら自分の背中を叩いてきた。


「あはははははは。そうむくれるなよ、アンちゃん。慣れれば明日っからは何か役目を割り振ってやれるからさ」

「割り振るなら簡単な作業にしてくれよな。疲れたり面倒臭い作業はごめんだぞ」


恐らく自分は、ウコンに警戒されている。

記憶が無いだけでも十分不審なのに、他國の旅人(クオン)と行動を共にしていて、挙句変にオシュトルの仮面に興味を示してしまったから。

別に、他国への抑止力や牽制に使われているくらいなので、仮面自体は秘密でもなんでもないのだろ。
だが、当たり前過ぎる程國と民に認知され、その存在が浸透している仮面に対して今更改めて興味を示す者等、普通に考えれば他國の間者くらいなものだ。警戒されても仕方がないだろう。

だからこうしてウコンは、自分の事を気遣いつつも、自身の目の届く範囲に自分を置いているのだろう。


(この分だと、帝都に着いてからも何かにつけて監視されるだろうな)


相手にそうされるだけの理由が自身にあるので、少々煩わしくはあるが、我慢するしかないだろうなと思った。
もっともそれは自分がそう思うだけなので、同じように自分と居る事でウコンの監視対象になってしまっているクオンはどう思っているのか分からない。

いまのところクオンは、ウコンの事を金払いの良い客くらいにしか思っていないようだが。

ウコンと連れ立って居ても、常に離れた所から感じるクオンの視線は、完全に保護者のそれで……思わず小さく苦笑いが漏れた。

雑談を交えながらウコンと野営地を一巡すると、妙にウマ達が自分に擦り寄ってくるので、明日からは比較的力の要らないウマ達の世話をすることになった。

食後、川が近くに流れているということで、風呂好きのクオンが湯浴みをすると言い出し、自分とウコンでその準備を手伝ったりもした。といっても、主に水汲みはウコンで、自分は火起こしや入浴中の見張りが主だった。


「ねぇ、ハク。本当にハクはお風呂に入らなくて良いのかな?旅籠屋でも結局ちゃんとお風呂に入れてないかったでしょう?」

「あぁ。自分は後で残り湯を分けてもらえればそれで十分だから、気にせずクオンはルルティエと一緒に風呂に入って来い」

「うん。分かったかな」


そんな自分達のやり取りを、ウコンは少し不思議そうに見ていたが、少し茶化しただけでそれ以上は踏み込んでこなかった。


「そう言えばアンちゃんは今夜どこで寝るんだい?やっぱりネェちゃんと同じ天幕なのかい?」

「あぁ、そうなるだろうな。自分はクオンの庇護下にあるから」

「けどよぉ、天幕なら俺達のもあるんだから、わざわざネェちゃんと同じのを使わなくてもいいんじゃねぇの?」

「まぁ、そうかもしれないが……足の手当もしてもらわにゃならんからな、クオンの側に居た方が手間がない」

「手当って……」

「クオンに拾われた時にずる剥けた足の裏の皮が治ったばかりでな、また剥けてはいないが、結構痛くてな。それに、脹脛もクオンにクスリを貼ってもらわにゃ、筋肉痛で明日歩けなくなっちまうからな」

「本当にアンちゃんはどんだけ弱いんだか……アンちゃんが良ければ俺の天幕で一緒に寝酒でもと思ったんだけどなぁ」


酒の誘いは嬉しかったし残念ではあるが、いまはあまりクオンの側を離れるべきでないだろうと思ったので、パッと思いつく理由を口にしてウコンからの誘いを断った。

が、その次の日もそのまた次の日もウコンは自分を寝酒に誘ってきて段々と断るのが難しくなってきたので、渋々条件付きでクオンの許可が下りた。

クオンの出した条件は三つ。
寝酒は本当に少しだけ。身体を温める程度に留める事。
それと、何かあったら大声を上げる事と、寝る時は必ず自分の天幕に戻って来るということだった。


「にしも、本当にネェちゃんは過保護だねぇ」

「あははははは……」

「っま、気持ちも分からんでもないが……『何かあったら大声を上げる事』って、俺ってそんなに信用ないかねぇ?男にゃこれっぽっちも興味ないんだが」

「別にクオンが言っていたのはウコンがどうこうという意味じゃないと思うぞ。多分」


酒が飲めるのは嬉しいが、クオンの出した条件によって、逆にウコンからの不信感を強めてしまったような気がして、自分はヒヤヒヤだった。


 
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