物語
□SS
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「ひーろしー」
甘えたな声が後ろから聞こえたと思うと腰に腕がまわりグッと引き寄せられた。
「どうしたの?」
今は"長野くん"なんて岡田は外で呼んでいるけれど甘えたくなったら昔みたいに"ひろし"呼びに戻る。
そんな岡田を甘やかすときは俺も"准ちゃん"なんて呼んでとことん甘やかすことにしている。
「うーん…」
俺の背中にグリグリと頭を押しつけてくる。きっと岡田の頭の中ではそれっぽい口実を考えているに違いない。
でもそれがめんどくさくなるのか最終的には抱擁とキスをせがむ。
俺が拒まないのを知っていてせがんでくるのは可愛い。
けど今日は違う。
腰にまわされている腕を優しく振りほどいて岡田の方に向き直る。
「えっ?」
信じられないとでもいうように大きな目をさらに大きくして俺を見つめている。
その大きく開かれた目をもっと驚かせたくて微笑んだまま言う。
「俺が浮気したらどうする?」
想像通り長い睫毛で縁取られた目は大きく開かれた。可愛いなぁ。
「それは俺のことが嫌いになったってこと?」
上目遣いを使って俺の指をちょんちょんと触ってくる。
30代のおじさんが上目遣いだなんて世間は気持ち悪がられるだろうけど、
俺はそれに弱いんだよ昔から。
「おいで准ちゃん」
手を広げると嬉しそうな岡田が飛び込んでくる。
お腹辺りにあった腕がだんだんと首の方へ上ってきた。
首の後ろに腕をまわされ唇が触れそうな距離
「ひろしは俺のこと好き?」
「ううん大好き」
満足げに笑った岡田に噛みつくようなキスをした。