Short

□欠乏
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「違うこと考えてたね」

「いや、そんなことは「本当にそうかしらね」

ベッドの脇で無駄に黒いレースで彩られたそれを器用に身に付けながら彼女は言う。
モデルだとかなんとか言ってたから今じっくり見ると、背中が無駄に綺麗だ。おそらく世間一般でいう理想の体型だ。

「別に基本何考えてもらっても良いけどさぁ、他の女のことだけは考えるのやめて」

「考えてないし、俺もお前も不特定多数の一員じゃん。何考えても良いでしょ」

当たり前の権利だ。ベッドの上くらい自由に思考させてくれ。俺みたいな奴は精神的空間が普通の人間より、確実に狭いんだから。
お互いの利害が一致した極めて正当な不特定多数の一部。
であるにも関わらず、不特定多数の一戦を越えてこようとするのはいただけない。

「あっそう、あんたはそう思ってんの。あんたって愛想良いイメージだったけど。じゃあね」

背中しか見えなかった。ドアの開閉音に包み込まれた。


最近上手く、笑えない。愛想も以前のように振りまけなくて、押し寄せる後輩アイドルの波にのまれそうになって。俺はどんどん若さを失う。


「つーか考えてたの、女じゃないし」

さっきの女のような無駄な美しさはあの人には、一切無い。
すべてが計算された美で、俺のように狭く汚い思考を持たない。例え狭くて汚い世界に俺たちの中で最も長く存在しているとしても。

あの人は長江の波に逆らうつもりらしい。サーフィンでもするつもりかな。
一人、ベットの中で少しばかり思考する。


あの人の無機物的な美しさに、もう一度触れたいと思うのは、俺の我が儘か。

「でも、レイヒョンから見たら、俺は不特定多数だったか」


レイヒョンの不特定多数。

俺が永遠に疎み、愛する所。

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