Series2

□果てまで
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「俺を連れ去ってくれるのは、金持ってる意地汚いクソジジイって相場が決まってんのさ」

夜明けが近い。
右手で煙管を器用に遊ばせながら、静まり返った空間で番頭台に左手を置きながら呟くようにルハンは言った。

「金持ってて性格良くて綺麗な奴なんていねぇからよぉ、ミンソガもそう思うだろ」

この人は番頭の俺によく飽きもせずに話しかけてくる。この店で一、二を争う男娼なのに、暇さえあればここへ油を売りに来る。綺麗な顔で着飾っているもんだからタチが悪い。こっちの気も知らないで、多分あっちは遊びのつもりなのだろう。

「相変わらず口が悪いな、ルハンは」
「そんなの知ってますー」
「よくそんなんで男娼やれてるよ」
「言っとくけど俺は口が悪い以外は完璧だからねぇ、顔も、踊りも、歌も、話も」
「はいはい」
「一回ホントに俺のお客さんになってよ、絶対落としてみせるから」
「お前高いから、俺なんかじゃ一緒に飯も食えねえだろ」

ルハンは同じ空間に居てもらうだけでも、莫大な金がかかる。番頭の俺はルハン相手に貢ぐ客を嫌というほど見てきた。そして、ルハンはいつも一瞬だけ、客が金を出しながら浮き足立っているその時だけ、俺を寂しそうに笑いながら見つめてくる。
まるでいつもの恒例行事みたいに。俺は金を受け取りながら、ルハンと見つめ合う。一時だけのやり取りだが、その微笑みを見る度に、ルハンを早くこの世界から出してやりたいと思うのだ。傲慢ながら、俺が。

「安くしとくからさぁ、ね」
「絶対ないから、あと上目遣いやめろ」
「なんだよ、俺の愛嬌いらないのかよ、ミンソガのケチ!!」

頬をふくらませながらルハンが言った。

「でも、俺がとんでもないジジイに身請けされることになったらどうすんだよ」
「どうするもこうするも、お前が決めた事なら文句を言う権利は俺にないし、俺はお前を、ルハンを早く外に出してやりたいから」
「俺を出してくれる奴なら誰でもいいの、ミンソガは」

嫌だと言ったら、お前はどうするんだよ。俺がルハンの借金を密かに僅かながらだが返していると知ったらお前は。

「お前を早く自由にしてやりたい、それだけだ」

綺麗事だ、こんなの。
そう思いながら、自分の言葉を抑えつけた。

「俺を、連れ去ってくれる人、俺だけは知ってるから。ミンソガ。俺、おじいちゃんになって客取れなくなってもここにいるから。その時は、よろしくね」

夜が明ける。

「100年かかったら、ごめん」

「お前と行くなら、何処だって、何時だって、極楽浄土だよ」

射し込む朝日に照らされ、煙を燻らせたルハンは、間違いなくこの世で最も輝いているだろう。

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