短編集

□怪盗キッドと
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仕事終わりに外に出ると規制が掛かっていてうんざりする。
何かとイベントがある度に規制されるこの国の都市は私のような何の取得もない人間には少し窮屈だった。
しかし地方から仕事探しに上京してきた手前実家に帰るにもいかず狭い世間の中で生きていたのだった。


「ん?キッド様?」


人だかりができている場所の人々はみんな手作りらしい団扇を手に持っている。
今の季節は冬である。
団扇はないなと考えながら徒歩でアパートまで急いだ。

キッド、ってあれか、泥棒の。
光り物に目がないっていう。……カラスか。
規制がかかっている故に使えないバス乗り場を通り過ぎてため息を吐く。


「───お姉さん」
「…………、え?私?」


そこには高校生ぐらいの少年がいた。
深く帽子を被っている少年は私の行く手を阻むように前に立つと両手のひらを私に見せた。
なんだなんだと思っていると彼は両手を合わせた。


「three!…two!…one!」
「わあ……」


何にもなかったその手のひらには小さな薔薇の花束が出現していた。
手品、マジックだ!
久々に手放しで笑うと彼もそれをみて微笑んだ



「こんな時間にお姉さん1人で暗い顔してたからさ、気になって」
「……ごめんね、ありがとう。元気出たよ」
「それは良かった」
「私は優稀。あなたは?」
「俺は黒羽快斗!」
「そう、快斗くん。……こんな時間に1人は危ないよ、帰ろう?」


残業をしていたためもう9時である。
こんな時間にこんな人の良さそうな少年1人では心配だ。


「…いやー、俺は帰れないんだよね」
「え?」
「今来たばっかりなんだ」
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