短編集

□風見祐也と
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頭を抱えながら意味の無い羅列を口から吐き出す。


「あああああ……」


途端コーヒーを片手に降谷は苦笑しながら私に話しかけた。


「…まあ落ち着けよ湯木」
「無理……」


見兼ねたのだろうが、先ほど相談したのにいい答えを言わなかった同期を睨みつつまたデスクに身体を伏せた。


「オッケーすればいいじゃないか」
「降谷がすればいいじゃん…なんで私なの…」


時は夜。
まだ書類の残っていた私は先に終わらせた風見を見送るとまた書類に目を落としていた。
少し間があって、名前を呼ばれ、振り向くと彼は至極真剣な顔で重々しい口を開いたのだった。


「湯木さんが好きです」
「…………え」
「ではお先に失礼します」


閉じたドアを見つめながら私は開いた口が塞がらない。
私は日本人であの子も日本人で話していた言語は日本語だったはずなのに意味が理解出来ず彼の声だけが頭にリフレインしていた。


「え?───いやいやいや…ん?………………は?」


するとまだ残っていた降谷がコーヒーを持ってきてくれたので相談したのだ。

しかし言った言葉は「へぇ」のみ。


「言っちゃ悪いけど風見はそういう気がないんだと思ってた。あいつに彼女がいたこと無かったしな」
「彼女がいたかどうかは知らないけど私も…、なんていうか女に興味が無いものだと……」
「おいおい」
「だって口を開けば『降谷さん』何か言うには『降谷さん』なんたって『降谷さん』……あんたのことが好きだと…」
「それは……いや、一時期あいつの視線に疑ったことはあったな、うん。でもお前のことも相当見てたぞ」


嘘だあ…!
泣きそうになりながらため息を吐いた。


「逆に、あいつの何がダメなんだ?」
「別に…風見は誠実だし、顔はまあまあだけど割と好きな女の子いるよ」
「だろうな」
「ダメってわけじゃないんだけど…、急でびっくりしたし…」
「うん」
「今私誰とも付き合う気ないんだよね……」


降谷以外には言ったことないけど、私には前彼氏がいた。
彼は一般人だった。
公安は人に軽々と身分を明かせなくて彼にも言ってない。けど、彼は執拗に聞いてきた。
でも言えなくて、それを彼は分かってくれていたと思ったのだけれど。
休日に急に仕事が入って何回か目のデート(デート中に電話が来たこともある)をドタキャンすると彼も嫌になったのだろう。
本当に仕事か怪しい、俺をなんだと思っているのだと詰ってきた。
何も言えずに立ちすくむ私に彼は嫌そうな顔をして『別れてくれ、もう嫌だ』と吐き捨てるように言うと私の恋は終わった。
家族にも警察官だとしか言えない身分なのだ。
彼氏になんて言えるわけもない。
でもそれっきり私は恋をしたいとは思わなくなったのだった。


「まぁ、考えてやれよ。前の男みたく仕事があれだこれだと言うような男じゃないし、俺からしてみればお似合いだと思うけどな」
「え〜…」
「な?」
「……うん…」
「よし、じゃあ今日はもう帰れ。あとは明日に回そう。送るから」
「ありがと」
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