短編集

□沖矢昴の皮を被った赤井秀一と
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沖矢さんの【中の人】が戦っていた組織が無くなったらしい。
沖矢さんの姿で現れた赤井秀一さんは私に手を伸ばした。一緒にアメリカに来ないか、と。



結局私はそれに迷った挙句に首を横に振った。



すると彼は分かっていたのか優しく苦笑するとそうですよね、と言った。

沖矢さんが、そこにはいた。

それからと言うもの、工藤邸を出た彼は沖矢さんの格好で私の前に現れていた。
私のアパートの近くのマンションの1室を借りた彼は私に一緒に住みませんかと勧め「僕は沖矢昴です」と私に言ったのだった。

何故アメリカに帰らないのか、FBIだと言っていたのにと思う反面、沖矢さんといれることが楽しかった。
恋人としての触れ合いはほぼ皆無だけれど私は沖矢さんが好きだった。


一緒に住みだしたのは一定期間経った後だったけどちゃんと私の部屋まであった事が今でも忘れられない。
紳士的な人だなぁ、とまた好きになった。
でも、


「中は全く別人なんだもんなぁ…」


沖矢さんが【中の人】としてお仕事に行っているらしい。
らしい、というのは私は1度も見たことがないからだ。
私には「大学に行ってきますね」と出ていくし。
まぁギターケースみたいなものを持っていく姿を見た時はさすがに口角が引き攣ったけれど。
彼は…、私にはまだ紛い物である沖矢昴を演じきるらしい。
それが少しの壁となり私たちを隔てた。


と言っても「中の人」は好きでもなければ嫌いでもない。言ってしまえば興味が無い。
友人として付き合っていける気はしないでもないけど、ルームシェアしたいかと言われれば首を傾げてしまう。

唸りながらキッチンに立って、予定ならば帰ってくるであろう時間に合わせて下ごしらえを始めた。
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