短編集

□仲良くしないと出られない部屋
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揺すられる感覚がした。
両肩に圧力をかけてしかし遠慮しているのか強引ではないほどの力だった。
こんな起こし方を母はしないし考えてみれば今は一人暮らしだった。
ゆっくりと意識が浮上して声も聞こえてくる。
困ったような声だ。近づいて行くに連れその声が男性のものだと分かり、それが二箇所から別々に聞こえることもわかった。
やっと大きな谷のような奥底から水面下まで這い上がり瞼を開くとドアップの降谷さんの顔がありハッと息を飲む。


「っ」
「あぁ良かった。おはよう。起きないから心配しましたよ」
「……おはよう、ございます」
「驚く事態が発生しました。優稀も起きて下さい」
「はっはい」


汚れ一つない純白のベッドシーツをかけられていた私はこの部屋に見覚えがないことをまず理解した。
降谷さんの家も赤井さんの家も行ったことがあるけれどどうやら違うようだ。


「おはよう優稀。君はよく眠るな」
「お、おはようございます……赤井さん。寝汚くてすみませんねっ」
「そうは言ってないさ。こんな部屋に閉じ込められていなかったなら君の寝顔をずっと見ていただろうさ……、おいで」


壁を叩いて強度を確認していたらしい赤井さんは私が起きたのを見ると微笑んで手を差し出すのでそれをとって彼の元に向かう。


「破壊できるような壁ではないらしい。換気口があるが人が通れる大きさではないな」
「えっと……?」
「ああ、そうだな最初から言わないと分からないな」


赤井さんが降谷さんを指差す。降谷さんは赤井さんを睨みながら私に一枚の紙を差し出した。
真っ白な画用紙ほどの紙に漆黒の文字が書いてある。
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