短編集

□安室透と
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ふふふ、と微笑ましく見ていると背後から良くないものがぞわぞわと駆け巡る。
振り返ると安室さんだった。

「優稀さん、ちょっと。……ごめんね、彼女借りていくね」
「えっ……」

強く腕を引かれながら彼らが見えなくなるまで路地に連れていかれる。

「あ、安室さん?」

薄暗い通りに抜けると壁に追いやられ手を付かれる。
壁ドン!?なんで!??

「……優稀さん……」
「ヒッ、はいっ」
「僕は一度もあなたから好きなんて言われたことないんですけど」
「へ?」
「あなたはのらりくらりと言葉を避ける……、もしかして僕のこと嫌いでしたか?」

冬だ冬だと思っていたけれどまるでここは氷点下だった。
寒すぎて寝込みそう。

「いや、そ、そうでしたかね……?」
「僕はあなたが躱してきた前後の内容を覚えていますよ。披露しましょうか」
「遠慮しときます……」
「優稀さん、ほら言ってください」

どうしよう。
恥ずかしくてなんとか言わないで来たものを逆にもっと恥ずかしい状態で言わされようとしている。
「いや、えっと……こ、この状態が恥ずかしすぎて言えません……っ」
「では家で2人きりになったら言ってくれますか?」
「…………えっと、無理やり言わせるのでは意味無いのでは……」
「それで待っていたらここまで延びた、と」
「……」

何も言えない……。
ガクブルしながら、周りが見たらカツアゲしてるように見えるかもなーと別のことを考えていた。

「優稀さん……?」
「きっ、嫌いではないです!!」

最大の進歩です。許してください。
真っ赤になっているのが分かる。両手で顔を覆う。

「うーん……」

ダメです、なんて容赦がない言葉を告げられ断頭台に立ったかのような気分になってくる。

「あっ、安室さん、」
「はい?」
「安室さんが隠している秘密を打ち明けてくれたら私も打ち明けます……!」
「っ」

安室さんが息を呑むのが分かって思わず顔をあげると心底驚いたような顔をしていた。珍しいそれをじっと見ると焦ったように苦笑いに変えた。

「なんです、秘密って」
「知りません……、女の勘です」
「……」
「ダメですか?」
「面白い人だ。……いいでしょう。意外と早いかもしれませんよ。その時までちゃんと心の準備をしていてくださいね?優稀さん」
「……」

あっ、詰んだかもしれないと雄の顔をした安室さんに引き攣って笑い返した。
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