短編集

□降谷零と
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「ところで」
「ん?はい」
「お前はまだ俺の彼女で間違いないな?」
「えっ、そうなんですか?てっきりセフ…」
「それ以上言ったら怒るぞ。……そうか、全く……3年も外国に行って帰ってきたらこのザマか」
「なんです」
「首元」


顰め面で顎で首元を指され、バッグの中から手鏡を取り出すとそれを映し出した。


「あっ」
「………」


それは昨日火遊びした時に付けられたキスマークだった。
性欲というものは厄介で疲労すればするほど生命の危機を感じ子孫を残そうとムラムラしてくる。
昨日は飛行機が無事日本に着いてから手頃な男を探して遊んだのだった。
いや、言い訳をすると降谷さん呼ぼうとは思ったんだけど忙しいかなーって……忙しいだろうなーって!!


「いや、えーっと、名誉挽回に務めていく所存です……」
「今日、時間あるな?」
「……いえ」
「あるな?有給使おうとしたぐらいだもんな?」
「はい……」


ございます、と椅子の上で正座してしまいそうになるほど萎縮して、彼をちらりと盗み見るとそこには般若がいた。


「ヒッ…!」
「この書類の山をあと1時間で片ずける。処刑の時間まで羽を伸ばしていろ……」
「そのあともがれるわけですね、はい」


トボトボと喫煙室に向かいながらプライベート用の携帯を取り出した。
画像欄に映った茶髪の男性を見つめてため息を吐く。
マスクを被っているわけでもないようだし、国籍もある、なんで怪しいと睨むのか。
新人ばかりが蔓延る廊下を我が物顔で歩いて喫煙室に着くと、有害な煙を肺いっぱいに吸い込んだ。
これからキスする彼のために口の中苦くしてやろう。
彼が嫌いと言ったその銘柄を指で弄んで微笑む。


「HOPE…美味しいのに」


ゆっくり吸えば甘いそれを毒と知りながら身体の中に入れた。
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